いつもは不定期で、忘れた頃にやってくる兄の電話が最近定期的だ。

定期的に聞かされる、ベランダでゆれる白い女の話。

 

 

 

                                      もぬけの空の午前中/2分の3のせかい

 

 

 

「おまえの兄の方もおもしろいことになっているのだな」

「おもしろい・・・のかなぁ」

ボクは教室の机でノートに鉛筆を走らせ、彼は横で佇みながらルービックキューブを弄っている。

「ルービックキューブ・・・ルービック・・・キューブ・・・・ルービックかな。うん、決定」

そろそろひたすら繰り返す漢字の書き取りにも飽きた。

「名前?」

「名前。」

 

キリ・キリ・かし

 

使い込んだルービックキューブは危機的な音を立てて崩壊寸前だ。

「そういえばルービックキューブって黒の面が無いね」

白の面はあるのに。なんだか不公平。

「何言ってる。全部の面にあるぞ」

ほら。

そういって彼は白く細い指で面の縁をなぞった。

 

 

 

ベランダでゆれる白い女。

 

兄は、

 

話しかけてみた

体をゆすってみた

顔を覗きこんでみた。

 

乳白色の瞳だった

 

彼女は何も語らない

動かない

その目に何かを映しているのかどうかも

 

わからない。

 

 

ただ、ゆれてる。

わずかな空気中の粒子の流れにすら逆らえないとでも言うように。

 

おもしろい。

 

兄はやっぱり何処かしら何かしらおかしい。

きっとそこは怖がるところだろうに

おもしろい、だなんて。

 

おもしろい、興味が湧いた。

 

兄は電話口でそう言い、笑う。

正確に言えば笑っている、とボクが思っているだけなのだけれど。

 

『彼女、おもしろいんだ。三次元なのに、二次元的なんだ』

 

ほら。

またそんなわけの解からないことを言ってボクを掻き混ぜる───

 

見てるぶんには、『線画』

近づき触れると、『立体』

 

干された洗濯物を思い出せ───兄は言う。

風にはためく洗濯物。

遠くから見てるぶんには、それは平面的。

近づき取り込むとき、触れた瞬間、それは実は立体。

そういう感じだと兄は言う。

存在的にはちっとも気にならない。

ふと見て、思い出す。

そんな感じなのだと。

そんな感じがとてもいいのだと

魅力的なのだと。

兄は言う。

 

『彼女は魅力的だ』、と。

 

 

 

                                       もぬけの空の午前中/2分の3のせかい

 

 

 

ルービックの細く長い指が愛惜しげに『ルービック・キューブ』の黒い縁をなぞっていく。

「そっか・・・土台は『黒』だもんね」

どうりで白があっても黒が無いわけだ。

白と赤、黄、青、緑、そしてオレンジ───明細的なそれらは黒の下に引き立つ。

 

だけどボクは想像してみる。

真っ黒な、黒だけの『ルービック・キューブ』を。

それは無いがゆえに魅力的なせかい。

 

「・・・・せかいは本当は真っ黒なのかもしれないね、ルービック」

よくわからないとでも言うように、ルービックは首をかしげた。

 

 

 

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