サヨナラ サヨナラ サヨナラ♪

 

てがーみの おくやみ

よなーかの どしゃーぶりィ

しょおーごの たぁーいよぉ

 

きみの じんせー 

 

さよぉーなーらーぁ♪

 

 

テンポも歌詞もズレた鼻唄を歌いながら

ぷちん。

ぱちん。

ベランダ、彼女のゆれる横で爪を切る、兄。

 

 

 

                                                                                           もぬけの空の午前中/サヨナラ人生

 

 

 

「にいさん、その鼻唄グセ直しなよ・・・・」

おそらく受話器を首と肩を使って持っているだろう兄に、ボクは溜め息をついた。

 

兄の鼻唄グセにも困ったものだ

既存の歌ならまだしも、勝手な歌詞と節で唄うんだから。

しかも兄は一度作った唄を忘れない。

いま流れた鼻唄も、ずいぶんと前から何度か聞いたことがある。

入院したボクの見舞いの時に一度、兄はこの唄をうたいながら院内を歩いてきたことがある。

勘弁してほしいと思う反面、けっこうこの鼻唄が、ボクは好きだったりする。

この鼻歌を唄うのは、兄しかいないから。

 

『この歳になって長年のクセを直せと言われてもなぁ』

ぷちん

ぱちん

受話器の向こうから、かすかに爪を切る音がした。

 

「そっちの天気、いーの?」

『ああ。よく晴れてる』

「女のひとは?」

『ゆれてるぜ。いつもといっしょ』

ほんとーに洗濯物みたいだよなぁ

 

気にならない。

ゆれているのが然も当然とでも言うように。

 

『いわゆるホラー系に出てくるユーレイの類とはぜんぜん違う』

「ふうん」

『今日みたいに晴れてて、太陽に当たってるトコとか見るとな。なんかこう、清涼感があるんだよ』

ボクはまっしろなシーツが陽の光に透けて、風にはためいているところを思い浮かべた。

それは確かに気持ちのいい光景で、暗く湿っぽい感じなど何処にもない。

「ふぅーん。なんかいいね、そういうの」

『だろ?』

兄は上機嫌でまた鼻唄を唄い始めた。

 

 

サヨナラ サヨナラ サヨナラ

 

手紙の お悔み

夜中の どしゃ降り

正午の 太陽

 

きみの 人生

 

さようなら

 

 

「もぉー切るよー」

だいたい区切りだと思ったボクは受話器の向こうの鼻唄にそう付け足す。

『おう。またな』

爪を切る音はもうしない。

「あ、そうだ。あのさ」

『うん?』

 

「兄さんはその女のひとに名前とかつけないの」

 

毎日名前を付ける相手の居るボクとしては、その辺をちょっと聞いてみたかった。

ちなみにその答えは兄いわく

 

『んー、つけようにもコイツの名前、知らないからなー』

 

だ、そうだ。

 

かこん

ボクは静かに受話器を置いた。

 

 

 

                                                                                          もぬけの空の午前中/サヨナラ人生

 

 

 

電話を切って降り向くと、彼がいた。

「きみ、今日はサヨナラだからね」

「は?」

それが今日の名前だとまだ理解してないサヨナラをおいて、ボクは二階の階段を駆け上がった。

 

 

サヨナラ サヨナラ サヨナラ♪

 

てがーみの おくやみ

よなーかの どしゃーぶりィ

しょおーごの たぁーいよぉ

 

きみの じんせー 

 

さよぉーなーらーぁ♪

 

 

習わぬ鼻唄を口ずさみながら。

ボクはサヨナラが来るのを待っていた。

 

 

 

�颪�/つづき
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