ピィ

ピィチチチチチ

 

ピィ。

 

干乾びた枝に

鈴生りのカナリアを。

 

 

 

                                                                               もぬけの空の午前中/籠の中の黒いカナリア

 

 

 

いまでも子どもだけど

今よりも、もっともっと子どもだった頃。

小さくて、綺麗な小鳥を飼うのが流行ったんだ。

でも、そうゆう鳥はたいがい手乗りじゃないから。

飼う人が多かった分逃げる数も多かったんだろうね。

 

空にはアスファルトのように煩わしいものなんて、なんにも無いけれど。

 

自力で飛べる者だけに解かる途が、きっとあると思うんだ。

その途の途中に、ボクの家の干乾びた桃の木があった。

 

すごい数だったよ

きれいだった

 

あんなに干乾びて、実どころか葉のひとつもつけなくなった枯枝に。

黄色、赤、みどりいろ───すくい取ったような空色に。

花びらの代わりにふわふわと舞い落ちる羽

枝という枝、一面に咲いた花々。

 

でも、自由を空に描くために飛び出してきたとしても。

 

所詮は危険を知らない籠の中の小鳥

目にも鮮やかなその色は美しすぎたね。

野良猫に食べられちゃう前にって、父さんが虫取り網でパッパパッパと捕まえた。

驚きに舞う彩色十色。

けっきょく二十羽くらい捕まえて、父さんが木で作った二段式の鳥小屋に入れた。

上の段に十羽、下の段に十羽。

小屋に入れられても、綺麗なものは綺麗だ。

頬杖を付いて、ボクはそれを眺めていたように思う。

外の干乾びた桃の木ではまだ、鮮やかな花が咲き続けていた。

 

 

それからしばらく経った、朝。

父さんがいつものように小鳥たちにエサをあげようと小屋を開けた瞬間

あっ、と短く声を上げた。

それから、「やられた」とも。

「どうしたの」、と母さんが駆けていく。

後からボクもついていく。

足早に。

あーーーっ、と母さんが声を上げた。

追いついたボクは父さんと母さんの体の隙間から小屋の中を見た。

 

上の段に十羽、下の段に十羽。

 

上の段の十羽に変わりはなかった

ただ、暴れたのか羽がたくさん落ちていた。

もっとも、それは見上げてから気づいたのだけれど。

 

いまでも子どもだけど

だけど、あの頃は今よりももっともっと子どもで。

 

もっともっと子どもだったボクの目に最初に飛び込んできたのは下の段の十羽

 

───の、身体。

下の段の十羽が十羽、皆すべて頭がもがれて無かった。

 

イタチの仕業だった。

人間だったら大量出血だろうに

小さな小さな彼らは血も少ないのか、そのとき血を見た憶えはほとんど無い。

カチコチに固まった肢体(からだ)

引き攣った足が、その爪先まで時間を止めて。

 

あれがきっと

 

 

「世界でいちばん不恰好なはく製だったんじゃないかな───・・・・」

居間。

空はこれでもかというほどの快晴で太陽も精力的になりつつあるお昼前。

全開にした窓辺で頬杖をついて外を眺める。

あの干乾びた桃の木はその後父さんの手厚い世話を受けて復活。

いまでは葉も生い茂り、枝という枝に鈴生りの実をつける。

何処を見ても雀と野鳥ばかりで、カナリアなんて今は一羽もいない。

「と、ゆーことを思い出したので、今日は『カナリア』なわけデス」

ずっと語りを聞いていたはずの男をくるりと振り返る。

髪も真っ黒目も真っ黒なら服も真っ黒───唯一の色は肌の白か。

こんな暑い日には見たくもないような格好をしているのに、全然そんな感じを受けない。

むしろひんやりとした冷気まで漂ってきそうに見えるのは、『彼』個人の問題だろうか。

「俺はカラフルか???」

『彼』が、いや今日は『カナリア』と名付けられた男が自分の服を突付いたりして首をひねった。

「いやべつに・・・・カラーに基づいて付けたわけじゃなく・・・・」

なんかカナリアって思考が天然っていうか、天性って感じのボケが入ってるような。

いやまあ、『彼』を考え出したのはボクなんだけど。

こんなキャラじゃなかった気がするんだけどなぁ・・・・・

こっちが首をひねってしまう。

 

カラフル。

あんなにも色鮮やかに枯枝に花を咲かせてみせたカナリアたち。

あんなにたくさんの色があったのに、ただひとつ無かった色がある。

黒だ。

枯枝に鈴生りのカナリア

だけどそこに黒いカナリアはいなかった。

いまはカナリアさえいなくなって

いま、いるのは。

 

「カラフルってことじゃなくて、黒。あのときのことを思い出してたら、急に『黒いカナリア』って言葉が浮かんだんだ」

「黒いカナリア」

鸚鵡返しにカナリアが呟く。

「そ。で、ああ、そういえば黒いカナリアは居なかったなぁって。」

それで、付けた。

「黒いカナリアってほんとにいるのか?」

「さあ・・・・いまはいろんなのがいるからなぁ。さっぱりだよ」

もし居たら欲しいかもしれない。

籠の中に、一羽だけ入れて。

「じゃあ、もしかしたら俺が世界でいちばん最初の『黒いカナリア』かもな」

カナリアが少し口端を上げて、ニッと笑う。得意げな子どものように。

「・・・・だとしたらすんげーデカイ鳥籠が必要?特注とか?」

「待て。何の話だそれは。」

窓辺に並んで座っていた二人は気持ちのいい風を真正面から受けた。

 

 

 

                                                                              もぬけの空の午前中/籠の中の黒いカナリア

 

 

 

「で、なんだデカイ鳥籠って。」

「いや、さっき黒いカナリアがもし本当にいたら鳥籠に入れて飼いたいなって思ってたから」

「じゃあ今日一日俺は鳥籠か?」

「どう考えても無理無理。ていうかマジメに受け止められても困るんだけど」

「そうか。よかった。狭くて窮屈そうだからな。」

「狭い以前に入れないよ、カナリア・・・・・・」

 

 

 

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