豊水(ほうすい)・幸水(こうすい)
早生(わせ)・奥生(おせ)
おんなじ顔を持つ四人のそれぞれの名前。
ころころころ
ころがるように
とおりすぎるまち/同じ顔もなく、知らぬ顔もなく
「豊水早生奥生幸水」
「違うな」
「じゃ、早生豊水幸水奥生」
「全然違うぞ」
「幸水豊水奥生早生?」
「惜しい、豊水幸水早生奥生だ」
そーうでーす♪と可愛らしい声が四つ重なる。
ころころころころ
丸顔の、全くおなじ顔の四人の子ども。
「おまえよく見分けつくな」
「長いこと一緒にいるからな」
『こわれた時計屋』店内。
ところ狭しと並べられた時計の山に、四人の子どもたちは目を輝かせ、あちこち引っ掻き回している。
「というか、あいつらは別に兄弟というわけではないんだよな?」
「ああそうだ」
そのまえに人間ではないがな
言外の呟きを無視してエリーはブナに茶を勧めた。
「あ、エリーおれにも♪」
「「おまえ授業はどうした」」
エリーとブナが揃っていれたツッコミは、この店のすぐ近くにある小学校の理科教師に対してであった。
「細かいことゆーなよ。ブナこそ飴売りの仕事はいいのか??」
「飴が売れ出すのは学校が終わってからだ」
溜め息吐き吐き、ブナが白髪白衣の男を一瞥する。
「ふーん」
そして当人はというとそんな視線は一切合財無視して注いでもらった茶を啜っている。
「あ、白雨さんだーーーっ」
「おうっ♪誰が誰だか分かんねぇけど豊水幸水早生奥生っ元気かーーー??」
元気でーっす♪と返された声に機嫌よく白雨が肯く。それと同時にエリーが茶菓子を取りに奥へ消える。
「嘘吐け」
「?」
ブナの鋭い視線と言葉に白雨は怪訝な顔をむける。
「?、何が嘘なんだよ?」
「ついてるだろ、見分け」
「ついてねぇよ。分かるわけないだろ」
「ふん、どうだか・・・・」
どこまでも話を引っ張るブナにムッとして白雨が食ってかかろうとしたとき。
「こんにちは」
店の中に、笑い顔の仮面を被ったタキシードの男が静かに入ってきた。
「あれっ?店長!」
白雨があげた軽い悲鳴に、茶菓子を取りにしばし引っ込んでいたエリーが顔を出す。
「おや、ワース。めずらしいな。今日はどうした?」
「喫茶店は休みか?」
ブナも珍しそうに、佇む紳士に尋ねた。
「喫茶店は今ちょうど暇な時間帯なので。ここで購入した時計の調子が悪いので診てもらいに来たんですよ」
表情の無い仮面であっても、ワースがやんわりと笑うのがわかった。
「そうか。じゃあ、茶でも飲んで待っていてくれ」
「店長、日本茶と紅茶どっちがいい?やっぱ紅茶か??」
「白雨・・・何故おまえが仕切る」
「ブナ!おまえイチイチうるさいぞ!コマゴメピペットみたいだ!ったく!!」
「・・・そのたとえ、よくわからんのだが」
「うっさい!!」
「まあまあ・・・・」
騒がしい店内をおいて、外では柳の葉の間を、風が吹きぬけていく。
とおりすぎるまち/同じ顔もなく、知らぬ顔もなく
「なんか、一気に騒がしくなったな・・・・・・」
時計屋の主人の呟きも、このまちでは風に融けていく。