テレビでよく見る。
歳とか性別とか全然そんなの問題じゃなくて。
毎日必ずひとつは見るんだ。
殺人事件のニュース。
あのね。
ボクは、きっと。
もぬけの空の午前中/よく晴れた日のさりげない別離
お昼も近づいた午前中。
天気は快晴、真夏の太陽だ。
居間の大きな窓をガラリと開けて、風をいっぱいに取り込む。
日差しはキツイけど、幸い今日は風が涼しく吹いている。
畳の上で大の字で寝れば、それはもう最高である。
だから、寝てたんだけど。
何の気なしに起き上がって窓の外を見た。
何の気なしに起き上がって窓の外を見た。
窓から見える光景/ちいさなウチの庭/積み木みたいにドカドカ置かれた鶏小屋。
父さん、黒いチャボを三羽、放してたんだ。
この三羽、一羽が雄で二羽が雌なんだけど。
三羽とも、めちゃくちゃ仲が悪くてしょっちゅう喧嘩してるんだ。
近づくのも触るのも怖いけど、見てる分には面白いからよく見物していた。
何の気なしに起き上がって窓の外を見た。
黒いチャボが茂みの日陰に居た。
丸まってて、雄か雌かよくわからない。日陰のせいで尚のこと。
丸まって、日陰で寝てるんだろうと。
もっとよく見ようと、窓辺に身を乗り出した。
何の気なしに起き上がって窓の外を見た。
ふわふわと。
ふわふわと、零れ出た羽毛が、優しく風に遊ばれていた。
チャボに関わらず、鶏類の羽毛は艶々としていて、撫でるとすべすべして。
その感触が、ボクは好きだった。
とくに、黒いチャボは黒の羽毛が光を弾いてその艶が目にもよくわかるから。
すごく、好きだった。
・・・・・・前につんのめるようにして、堅まった、チャボ。
『 ネコか。』
いつのまにか傍らに黒い影が立ち、そう問うてきた。
「 たぶんね。」
焦点をチャボに移したまま、さらりと応えた。
立ち上がり、隣の座敷の細い窓を開け、身を乗り出す。
首をそう巡らせないうちに、『二つ目』のチャボを見つけた。これは雌のようだ。
「 イタチかもね。」
窓から身を乗り出したまま、ポツリと呟いた。
彼に言おうと思って言った言葉じゃなかったけれど。
『 イタチは狡賢い。来るなら夜だ。よく知っているだろう。』
背中にいつもと変わらぬ声が降ってくる。
「 ・・・そっか。」
窓から身を引くと、再び畳に大の字になって寝っ転がった。
今日の風は本当に気持ちがいい。
『 いいのか? 』
あのままにしておいて、と眉を顰めての問いに。
「 いいんだ。」
あのままで、と返した。
眉を顰め、疑問の浮かぶ顔に。
「 いいんだ。ネコは食べる為に捕ったんじゃない。動いていたから狙ったんだ。」
だから、あそこにそのままあったんだ。
そしてもう動かない。
もう狙われることは無い。
もう動くことは無い。
今日は快晴。今は昼間。
そちらの獣もまだ活動時間外。
「 だから、いいんだ。あのままで。」
寝っ転がったまま、天井を見上げたまま、そう告げると。
『 そうか。そうだな。』
黒い影も同意した。
今日のような快晴の日は、日陰にいると心地よい。
今日のような快晴の日は、その日陰でそよそよと風に吹かれるのが気持ちよい。
だから、いまは、あのままで。
・・・ボーンボーンボーン・・・・・・
時計が12時を告げた。
今日は土曜だ。
父さんも、もうじき帰ってくる。
そう、直だ。
それまでぐらいなら、あのままでも、そのままでもいいだろう。
「 ・・・なあ、艶黒(えんこく)。」
『 ・・・・・・ 』
見上げて言うも、影は反応しない。窓の方に顔を向けている。
「 鈍いンだよ、もう!! 気づけよな!! 」
『 ??!! 』
ばしぃっ、と艶黒の背中に平手で一発喰らわせれば、目を白黒させてこっちを見た。
『 ?、?? あ? それは俺の名前か? 』
「 他に誰がいるんだよ!! いつもはシツコク訊いてくる癖に!! 」
ったく!!、と不満そうに漏らすも、もう艶黒はけろりとしていて。
『 で、話はなんだったんだ? 』
さっき呼んだだろう、と言われて、はぐらかされた気分になりつつも、ああ、と応える。
「 艶黒、ボクきっと殺しの犯罪はできないね。」
畳に足を投げ出して座っているボク/突っ立ったままの艶黒。
返答は、一拍遅れた。
『 どうだろうな。』
「 できないね。」
即答で畳み掛ける。
何故かと尋ねられれば笑って返す。いつものように。
「 人間の理性は、こういうさりげない別離と小さな衝撃によって練り上げられていくからだよ。」
お前な・・・と重い呟きが聞こえてくる。
『 ・・・お前、もう少し子供らしい発言できないのか・・・・・? 』
「 子供だって考えれば発言はそれ相応のものになるよ。」
意地悪く、満面の笑みで返してやれば彼は脱力する。
遠くから車のエンジン音が聞こえて来る。
父さんが帰ってくる。
いつものように。
そして、ボクは。
何の気なしに起き上がって窓の外を見た。
もぬけの空の午前中/よく晴れた日のさりげない別離
あのあと、黒いチャボがどうなったのかは知らない。
大方、父さんがゴミに出してしまっただろう。
ボクが見なかった最後の一羽も。
ボクの視界の外で。
堅くなっていたらしかった。
テレビでよく見る。
殺人事件のニュース。
でもね。
ボクはきっと、殺しの犯罪はやらないと思うんだ。
さりげない別離とちいさな衝撃がボクの理性を脆く、強固にしていく。
黒い・・・黒い、あの艶めいた羽毛が。
あの、黒く艶光る羽毛が瞼の裏に焼きついて、離れない。