一番高いところまで登った太陽が少し傾き始めた頃。
二階のガラクタを引っ掻き回すボク。
投げ置かれ、埃まみれになった二人がけのソファーでこちらを見つめている「葉羽(おちば)」。
あさっていた白いダンボール箱から崩れ出てきたのは。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ
カタン。
もぬけの空の午前中/二階で流れる遠い日の流行歌
「 兄さんのだ、コレ 」
カタカタカタリと、崩れたカセット・テープを手に取っては
ケースの蓋をぱかりと開けて、また閉じる。
はらり。
淡い緑色の紙切れが葉羽の足元に舞い落ちる。
拾い上げ、目をさらりと通すと『 知らない歌だ 』と返してよこした。
その紙切れを受け取りながら、「 ボクもだよ 」と応えると彼の隣に腰掛けた。
座った勢いに舞ったチリが窓からの光に浮かび上がった。
『 それは? 』
葉羽の視線の先にはボクの手/その中にある古びたカセット・ウォークマン
「 さっき一緒に出てきたから。ちょっと聴いてみようと思って 」
ボクはテープをセットし、両耳にイヤホンをあてると≪ PLAY ≫ボタンを押した。
それはポップスだった。聞いたことがあるような、無いような。
『 やっぱり知らないな 』
ボンヤリと彼が云う。こちらを視ずに。
「 昔は流行ったんだろうね 」
ボクは目の前にある山のようになったガラクタを見ながら云った。
「 ・・・忘れちゃうよな 」
『 ん? 』
「 どんなに流行ってもさ 」
たぶん、それは。
「 人間、だから 」
『 ・・・・・・ 』
どんなに大切なことでも。
どんなに楽しかったことでも。
どんなに悲しかったことでも
どんなに憎らしかったことでも。
どんなに・・・
目に。耳に。手に。
「実感」できなくなった途端にそれはもう。
―――それでもさ。
(「 葉羽!! 」)
『 ??! 』
ボクは勢い良くソファーから立ち上がると、そのまま勢いに身を任せてくるりとターンを決め、葉羽の前に立った。
葉羽は驚いた顔でボクを視上げていた。
(「 それでも思い出すんだよね。なんでもないときにさ。ある時、ふっとね 」)
たぶん、それも、人間だから。
太陽が雲に隠れたんだろうか。すうっと辺りが薄暗くなった。
葉羽の顔もぼんやりとしか視えなくなった。
彼からも、ボクの顔は視え難くなったに違いない。
ボクたちには、何ら意味の無いことだけど。
『 そうだな 』
再び辺りが明るくなってきたとき、ぽつりと答えが返ってきた。
戻ってきた明るさに目を細めながら。
一人で/二人で遠い日の流行歌に耳を傾ける。
忘れないで忘れないで忘れないで
忘れないで忘れないで忘れないで
忘れな・・・
その歌の最後はもう、それしか歌っていなかった。
『 無理なことだな 』
「 ほんとにね 」
どちらからとも無く、クスッと笑い声を漏らした。
もぬけの空の午前中/二階で流れる遠い日の流行歌
ジ――――――――――――・・・
カチッ カシャン。
≪ PLAY ≫ボタンが独りでに戻り、カセット・ウォークマンは沈(しず)かになった。