もぬけの空の午前中が終って母さんと昼ごはんを食べた。

しばらくそこにいたけど、母さんが横になってテレビをつけたので二階の自室へと退散することにした。

( ああなったら、すぐに寝るんだからな、母さんは。)

( 『 疲れているのでは、仕方ないだろう。』)

頭のなかで、エリーの声が響いた。

 

 

 

                                    もぬけの空の午前中/もぬけの空の二階の午後

 

 

 

部屋に入ると、どこに、というわけでもなくエリーがいた。

母さんが帰ってくるとたいがい家中のモノはみんな引っ込んでしまう。二階でたまに音を出すのがいるけど、それは母さんがネズミだと思ってくれるからであって。姿を見せることはしない。

その点、エリーだけは午前でも午後でもいる。

初めて会ったときはボクだってびっくりした。だってエリーはいつもボクが頭の中で考えていたそのままの姿でボクの前にいきなり現れたんだからね。

しかも、その第一声が

『 今日の俺の名前はなんだ? 』

だよ?どういうことかわかる?

つまりね、ボクはエリーの名前をしっかりと定めてなかったんだ。考えてる時の気分によって、名前を変えて遊んでたんだ。だからそう訊いたんだよ。

そのとき付けた名前はもう忘れてしまった。いきなりだったから、あんまりいい名前は付けてあげられなかったような気がする。

それからも日替わりの名前付けが続いてる。食堂の定食みたいに。

「 ねえ、エリー? 」

机の椅子に座っていたボクはキイッと椅子をきしませてエリーの方を視た。

『 なんだ。』

「 さっき頭の中でエリーの声がしたよ。側に居なくても、聞こえるもんなの? 」

エリーは少し呆れたようになって、軽く息を吐いた。

『 ・・・俺はお前の思考が元になってるんだぞ。近かろうと遠かろうと、関係ない。』

男のその目は「エリー」になってもやっぱり真っ黒なままだった。

「 ふ〜ん・・・近くに居るときは思考会話できるの知ってたけど・・・そういうもんかぁ。」

でも、ボクはこの「 真っ黒 」が嫌いじゃなかった。

『 それより 』

だから、真っ黒なんだと思う。

「 ん? 」

『 お前の名前は? 』

エリーが、真面目な顔で、訊いた。

ボクは目をありったけ和ませると口元に笑みを作り

「・・・ナイショ。」

つぶやくと、エリーに聞こえないように考えた。

 

ねえ、エリー

なんだと思う?なんていうと思う?ボクの名前

どうしてわからないんだろうね

ボクの「思考」から生まれた君なのに

 

眉間に皺を寄せたエリーだったが、一寸後には元に戻り、別にいいとつぶやいた。

 

 

                                          

                                  もぬけの空の午前中/もぬけの空の二階の午後

 

 

 

わかっている。知っている。お前の名を。でもだからだ。だから訊くんだ。

同じ「思考」を共有する二人が、違うことを考えていた。

そしてそれは互いに知れることはなかった。 

 

 

�颪�/つづき
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