The best of friends must part.
≪最愛の人との間にも、別れは来る。≫
会うは別れの始め。
人と人が会うことは、いつかその人と別れなければならない運命を初めから持っている、ということ。
───じゃあ、会うために別れようぜ。
もぬけの空の午前中/別れは再会の始め
ガキの頃に買ったことわざ辞典には、ときたま英語バージョンも紹介されている。
ついつい面白くて、軽く二・三時間経過していることに気づく。あー。
The best of friends must part.
最愛の人との間にも、別れは来る、ねぇ。
まあ、確かにそうだな、うん。
俺もこの年でもうすでに一番の親友とサヨナラしてしまった。
・・・よくテレビなんかで号泣してるヤツらを見かけるが、葬式の現場であんなには泣けないだろう。
むしろ、実感なんて何処にも無くて。
手紙出したら返ってくるような気がするし、ヤツのアパートに行けばヤツはまだ居るような気がする。
実際、そんなことは微塵も無くて、手紙を出したら宛先不明で戻ってくるだろうし、
ヤツが居たアパートの部屋はもうとっくに別の誰か知らないヤツに借りられてるんだろう。
それでも会える気がすると思うのは、死んだという事実を受け入れてないから?
・・・そんなことはない、と思う。
エガミが死んでしまってから、俺はエガミに会ってない。会えない。
生きられるだけ生きて、すっかり満足してしまったのか、アイサツにも来やがらなかったんだアンチクショウ。
・・・・べつにいいけどな。アイツらしい。っつか、俺ららしい。
お互いに我が道を爆進するもんだから、まわりが全く視界に入らないんだよ。俺とアイツは。
だからアイツはそのまま爆進してったんだろう。
何処に行ったのかは知らないが。
幽霊なんて居ない。
怨霊も居ない。
死んだ人間は悪いことなんかしない。
そこそこ見えてるくせにこういう考えはおかしいか?
だけど見えてんなら居るってことじゃねぇか。
何かに夢中になってたりすっと、側に居る人間も視界に入らなくなっちまうことあるじゃねーか。
俺にとっては見えてるヤツが本当で、見えないヤツが幽霊だ。
いや、だから見えてないヤツは居ないってことなんだけどな。
だから、今現在エガミが全く見えないってことは居ないってことで。
俺はそれを解かっている。受け入れている。
でも、漠然と『会える』と思っている。
「なぁ。なーんでだと思う?」
カラカラと窓を開ける音。最近は居るのが当たり前でその存在を半ばスルーしている。
彼女は相変わらずそこに居る。
そこで揺れてる。風に吹かれているつもりなのか。時を刻んでいるつもりなのか。
よく、わからない。
答えだって、無い。
「無言なトコはあの真っ黒けに似てるんだけどなぁ」
そういえば、あれも最初の頃に比べると随分変わった。
「やっぱ名前を付けるのがいいのかねぇ」
ベランダの手すりにだらんと寄りかかり、女を仰ぎ見る。
彼女はいったい何処の何を見てるんだろう。
その視線の先を追ってみたけれど、定かではなかった。
「〜〜・・・でも名前なんて思いつきもしねぇしな・・・・・」
性分上、名前を勝手に付けるのは好きじゃないし、出来ない。
名前は、付けるもんじゃない。在るもんだ。
言葉が通じない相手でも──たとえそれが犬猫であっても── うまくいけば解かるものだ。
耳に直接響くのではなく、脳内に突如として浮かび上がる。
それが、その者の『在る名前』。
「でもこんだけ一緒にいてわかんないってことは、相性良くないんかね」
それはそれでちょっとショック───つーか、
「なんでアンタは、ココに居るんだろうな?」
そのとき、女が一瞬ユラユラッと揺れたように見えた。
こっちが知りたい。
そう言うかのように。
「解かりゃ苦労しないか。つか、会っちまった以上はアンタとも別れがあるんだろうな」
ふと思う。
あの辞典に載っていてた『別れ』とは今生をさしていたものだっただろうかと。
「ああ・・・そうか」
確かに出会えば別れはある。当然のことだ。
だが。
「また会っちまえばいーんだよなぁ。別れたってよ」
なんだ、そういうことか。
出てきた答えは正直、答えにはなっていないような気もしたが。
自分はいま、この答えに納得したのだから。
今は、これでいい。
そう、思えた。
もぬけの空の午前中/別れは再会の始め
俺の独白も気にすることなく、やっぱり女は揺れていたのだった。
やけに間の整ったそれに、俺はメトロノームを思い出していた。