実家にかける電話。

午前中は親がどちらも仕事に出ているので繋がる確率は低い。

たまに病弱な弟がおっかなびっくり出ることはあるが。

どうしてそんなにびくびくしてんだ、と尋ねれば。

知らない人だったらイヤだから、と答えが返ってきた。

 

俺はいつも、誰よりも弟の答えに納得させられる。

 

 

 

                                      もぬけの空の午前中/彼は電波よりも速く

 

 

 

ぷるるるるるるるる、ぷるるるるるるるる・・・・

・・・出ねぇな。

午後だというのに、出ない。

時計は二時半を回っている。母親もパートからとうに帰ってきている時間なのに。

だが母親はものすごいスイマー(睡魔)だ。

Fax付きの電話に換える前は、あのベル音の

けたたましい電話の横でもグースカと寝られていたのだから侮れない。

今のヤツ、電子音だもんなぁ。寝てたらもう起きねぇだろうなぁ。

とりわけ急ぎの用事でもないし(ただ今度の帰省予定を告げるだけのこと)

夜にでもかけ直すかと受話器を耳から放そうとしたとき。

 

カチッ。

 

繋がる、音がした。

「? もしもし?」

『・・・・・・』

無言。

「もしもし?」

『・・・・・・』

無言。

「・・・・・・」

『・・・・・・』

ダブルで、無言。

 

留守電に切り替わったワケでもなし。

無言電話・・・は有り得ない。

自分の実家にかけたのだから。

昼寝してた母親が取って、寝ぼけてる。

それは有り得るかもしれない、が、絶対に音には反応して寝ぼけた声を出すはずだ。

弟だったら?

それこそ、おっかなびっくりな『もしもし?』が返ってくることだろう。

と、いうことは。

こんな波立たない沈黙を保てるヤツを、俺はあの家で一人しか知らない。

 

「お前か」

受話器を耳から外し、後ろを振り返れば全身黒尽くめの、闇色の目をした男が立っていた。

「・・・・・・」

返事もやっぱり、無言だったが。

 

「家、いま誰もいないのか?」

「・・・・・・ああ」

「倒れるか何かしたのか?また」

『倒れるか何かした』の主語は弟のことだ。

普通の家庭や兄弟だったら心穏やかならぬことだろうが、

ウチは病弱揃いなので、みんな常に何処かで心の準備が出来てしまっている。

「そういうわけでは無い・・・普通に、病院に行っただけだ」

そこで『普通に』という単語が出てくる時点で既に滑稽なんだけどな。

 

「お前、ついて行かなかったの」

 

弟の横に、背後に。

常に影のように漂い憑いてたお前なのに。

最初に目にした時はこれが死神というもんかと思ったがどうも違うらしい。

月日が経つごとにだんだんと、

ハッキリ見えるようになってきたコイツを指差して、『なんだコレ』と弟に真顔で聞いたことがある。

すると弟も真顔で、『ああ、ボクが創った』とあっさり答えた。

そのあと、『視えるの?』と驚き顔で弟が尋ねてきたので、遅ぇだろ、と突っ込んでやった。

 

人には見えなかろうが何しようが、俺は別に気にも留めない。

俺には見えてるんだ、認めてやる。だが。

家族とかダチとか、まして弟に何か害があるもんなら容赦しない。

いや、容赦しないっても霊能力者じゃあるまいし、何ができるってワケでもないんだけどよ。

 

とりあえず、コイツにはそういった危険性は無いらしいので後のことは俺も深くは突っ込まず、スルーした。

 

目の前の男はいやにゆっくりとモノを喋る。

「いや・・・ついて行かないということは無いが・・・・」

「?」

ついて行かないってことが無いってぇなら、じゃあなんでいまココに居るんだ。

俺の疑問を感じ取ったのか、ふとヤツが視線を上げて俺を視る。

「・・・・家で電話が鳴ってるような気がした・・・・・・・・」

「・・・・・・・」

・・・・・電波か、オマエは。

「なんか、お前って近頃芸が増えてきたよな」

「そう、か・・・・?」

男がグリッと首を傾げる。

外見とはちぐはぐな、どこか幼さが残る仕草。

こういう仕草が誰かさんに被って、ああ、ホントにコイツってアイツに創られたんだなぁって思う。

そこでヤツは何かに気がついたように、はたと視線を俺に戻した。

 

「ところで、電話の用件は何だったんだ?」

 

 

 

                                      もぬけの空の午前中/彼は電波よりも速く

 

 

 

「あ、箒星!!何処行ってたの?」

「電話に出てた」

「は?」

「お前の兄からだったぞ」

「兄さんから?何だったの?」

「さぁ・・・・とかく、笑い転げていたが」

「はぁ?・・・てかさ、箒星」

「なんだ」

 

「電話の相手が知らない人だったらどうするつもりだったのさ」

 

 

 

間へつづき
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