「ねえ、モーリス? 何で、こんなになってるのに、あのとき僕に言わなかった?」

 医者が出て行ったあと、僕は彼の枕元に顔を寄せた。

 痛みを堪えて、 『帰る』 と言ったきみ。

 きみにとって、僕は何だい?

 きみを、裏切ってる男だと知って、即切り捨てた?

 僕たちは、その程度の関係だった?

 「・・がう。 らう・・る・・・」

 「何が?」

 震えるような、彼の吐息。 苦しげに、ゆっくりと小さく呼吸をして紡がれる言葉。

 「いた・・かった・・。」

 だから、何故それを・・。

 「お前、が。 ・・・見て・・だから、痛い・・・っ、思った・・」

 「?」

 彼の眉根が寄せられて、深く息を吸う。 そして、一息に。

 「怪我を、して・・って気付かなかっ・・たっ。 あれを見て、嫉妬・・して。

 だから、痛い・・って。 息をするのも苦しい・・だ、って・・。 だから・・・」

 勘違いだ・・。

 そう言って、彼は疲れたように力を抜いた。

 「・・・・・・・・・・・は?」

 え?

 怪我をしてるの気付かなかったって・・。

 え?

 「モーリス・・・」

 気付こうよ・・・。

 僕の今までの不安とか心配とか怒りって・・・何?

 でも・・・。

 「嫉妬、してくれたんだ?」

 何となく嬉しくなって、思わず口許が綻ぶ。

 なのに。

 「だから・・・勘違い、だ・・・。」

 「え?」

 嫌な予感に、僕の手が す っと冷えた。

 「怪我、して・・痛い、のに。 ・・嫉妬・・だ、て思った・・。 だから・・・」

 勘違いだ・・・。

 

 

 

 M e p r i s e ・ 4

 

 

 

 「きみは・・」

 ルパンの声が震えた。 その声に、怒りと、僅かに絶望が滲んでいる。

 「きみはっ! 僕が、他の男と一緒にいても! 何をしててもっ・・」

 「・・・・いい。」

 「!?」

 胸が、痛い。

 心臓が、どくどくと鼓動を早める。

 私は、ちゃんと言えるだろうか? きちんと正しく、伝えられるだろうか?

 目を閉じて、もう一度深く息を吸った。

 「おまえが・・誰といようと、何を・・してようと・・・別に私は、構わない・・。」

 「なっ・・!!」

 彼の顔が歪んだ。 ぐっと握りしめた拳が小刻みに震えている。

 僅かに伏せていた視線をゆるゆると上げて、ルブランは蒼白になっている 『怪盗』 を見つめて、うっすらと微笑んだ。

 だって、やっと・・・分かったから・・。

 「いい。 ・・お前が、何をしてようと・・・」

 倒れる寸前、頭が回るほど考えて、やっと気付いた。

 「好き・・・だから。」

 「?」

 

 「私が、お前を・・・好き、だから・・」

 

 だから、いい。

 おまえが誰といても、何をしてても、この気持ちは変わらない。

 事実を突き付けられて、ようやっと思い知った、私の真実。

 「モーリス・・」

 呆けたような、彼の声が聞こえた。

 ちゃんと、私の顔は笑っていただろうか?

 すっかり疲れてしまい、目を閉じる。

 「モーリス・・」

 耳元で、彼の囁きが聞こえた。

 「?」

 次の瞬間、ふんわりと、温かなものに抱き締められていた。

 「? ラウー・・ル?・・・」

 「うん?」

 彼の髪が頬に触れて。

 彼の吐息が首筋に触れて。

 傷に障らぬよう、優しく抱き締めてくれる彼の腕が温かくて・・。

 「らう・・る・・」

 ひどく、安心した・・。

 ああ。

 明日見る空は、鮮やかな 『青』 だといい・・。

 

 

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