傷ついた人魚を連れ帰り

自室のベッドに横たえたその姿を改めて見遣ったホームズは驚いた。

人魚の尾ひれが消え、人間のそれと同じ2本の足がすらりと伸びていたからだ。

「・・・陸に上がると人間と同じになるのか・・・・?そんな話は聞いたこと無いが」

うう、と人魚が呻き声を上げた。

人間の足になっても、そこにある傷は未だ痛々しく人魚を苦しめている。

ひとまず手当てが先と、彼はしかるべき処置を施し始めた。

 

 

 

セレイネス協奏曲〜第三楽章〜

 

 

 

なんだか体がすごくだるい。

痛いような、痺れるような・・・・そんなじわじわとした痛みを感じる。

痛い

痛い。

 

「いたい・・・・・」

先に開いたのは目だったのか口だったのか。

靄のように呟いた声が自分の口から発せられたのだと認識できなかった。

少しぼやけた視界の先も。

「大丈夫かい?痛むのか?」

大きな手に肩をゆっくりと擦られる感覚が、意識を一気に覚醒へと導いた。

「あ・・・貴方は・・・・」

がばりと跳ね起きようとした瞬間に肩を掴まれ止められた。

「おっと、まだ起きない方がいい。傷は浅いが全身傷だらけなんだ、寝ておいでよ」

「え、あッ・・・痛ッッ・・・・・?!」

言われて体を見る。あちこちに包帯が丁寧に巻かれて手当てされていた。

「ほらごらん。さ、横になって」

とりあえず促されるままに横になった。

どうしていいのかも分からず、じっと彼を見上げる。

それをどう取ったのか、彼は苦笑して

「別に殺したり、他のハンターに引き渡したりしないから安心して休んでいていいよ」

前にも言ったけど、君は人間を襲うようなものでは無いようだし

だから、そんな不安そうな顔しないでおくれよと言いながら。

でも、わたしが彼を見上げていた理由はそうではなくて。

「けが・・・・なかった?」

「?」

「あらしのばん・・・・」

そこまで言って、不意に彼の顔が影って。

そっと額に手を置かれた。

冷たくて心地よいと思ったのは、熱でもあったからだろうか。

「怪我でもしてたら、君の手当てどころではなかっただろうさ。僕はこの通りピンピンしてるよ」

むしろ怪我をしたのは君の方だろうに

消え入りそうに微笑んだ。

どこか寂しそうに見えたのは何故だろう。

「さ、もういいからお休み。話すのは治ってからいくらでも出来る」

ゆっくりと髪を梳くわれる感覚に安堵を覚えて

目を閉じて意識を落とした。

 

 

それから三日後。

あああああ!!!

という裂くような絶叫が聞こえたあと。

今まで気づいてなかったのか?!!

というこれまた切り裂くような叫びが、とあるセレイネスハンターの自宅から聞こえてきた。

 

「あ、う・・・だって全然違和感なかったし・・・・」

呆れたように深い溜め息を吐かれて、気まずそうに言う人魚。

「だからって・・・三日も経てば気づくだろう・・・・・」

「寝てたし!」

人魚にも天然っているのか?

思いつつホームズはまた、はーーーっと溜め息を吐いた。

 

この人魚は、自分の尾ひれが無くなって人間の足になっていたことに気づいていなかったのである。

三日も。

別々に動かせるようになってるんだから、すぐに気づくと思うのだが。

人魚の傷の治りは順調で、三日経った今日には起きられるようになった。

そこで初めてこの人魚は自分の2本の足に気づいて、絶叫したのである。

こっちまでつられて絶叫してしまった。

もしも、ハンターでありながら人魚を擁護していると知られたら、それだけでもお笑いなのに。

三度目の溜め息を吐き、人魚に視線を戻せば彼は何やら深く考え込んでいた。

「?どうした?」

「・・・・三日前って・・・僕を見つけた夜って、満月だった?」

急に真剣に尋ねられ、我知らず三日前の記憶を辿る。

「ああ・・・月明かりで見つけたからね。大きな満月だったよ」

「それだ・・・・」

人魚は真っ青になった。

「?満月と人間になったのと、何か関係があるのか?」

すると人魚はこくりと肯いて

「人魚の間ではね、満月の夜に陸に上がってはダメと言われてるんだ。

人間になってしまううえに、次の満月・・・・少なくとも一ヶ月近くは人魚に戻れないんだよ」

どうしよう・・・・今にも泣きそうな顔で俯く。

「どうしようって・・・・ここに居ればいいじゃないか」

蒼白になった理由がそういうことかと思った私はそう言うと、人魚はきょとんととして顔を上げた。

「いいの?」

「いいのも何も、行くところなんて無いんだろう?一ヶ月くらいどうってことないだろうに」

「それはそうだけど・・・・」

迷惑じゃない?とまだ不安げに尋ねてくる人魚に

「この家には私一人だ。問題なんて全然無いさ。部屋も余ってるしね」

そう告げると、ようやく人魚はホッと胸を撫で下ろしたようだった。

「それじゃあ、お世話になります」

ぺこりとお辞儀をする様を見て苦笑する。

「それはそれでいいとして、僕はまだ君の名前を知らないのだけれど」

人魚にも名前ってあるのかな、と尋ねれば。

あ、と人魚は大きく口を開け

「ぼくも君の名前を教えてもらってないよ」

しばし考えた後、真顔で言い返されてこちらもああ、と気づく。

「ホームズだ。シャーロック・ホームズ」

「僕はワトソン。ジョン・ワトソンだよ」

よろしく、と手を握り合った後。

三日間も互いの名前も知らずに、ごくごく普通に会話していたことが可笑しくて、二人で腹を抱えて笑い合った。

 

 

これが人魚とハンターの同居の始まり───

 

 

NEXT

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かーなーりー煮詰めました。どうやって会話させようとか、いろいろ考えましたが結局ナチュラルな方向へ。
とりあえず自然に通じ合うのがこの二人の王道かと^^;
てゆーかワトソン、三日も経ってんなら気づけよ・・・・・(笑)

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モドル