人魚の世話がここまで大変だとは思わなかった

ホームズは溜め息を吐いた。

何せこの人魚ときたら目に付くものすべてに興味を示し、逐一聞いてくる。

地上にあるものは海中で見たことのないものばかりだろうから気持ちはわかるが

「あれ・これ・それは何?」攻撃は勘弁してもらいたい。

 

幼子を持った親の気持ちがわかる

達した考えに、再び溜め息が漏れた。

 

 

 

セレイネス協奏曲〜第四楽章〜

 

 

 

まずは食べ物から。

トーストとベーコンと目玉焼き。

軽い朝食のよくある品々も、居候の海の住人には目を瞠るものがあったらしい。

目玉焼きの目玉をつついたり(プルプル感にえらく驚いていた)焼きあがったトーストとベーコンの固さの感触の違いを確かめたり・・・・

一風変わった研究者のように興味の赴くままそれらを調査(?)していたが、私が食べ始めるのを見て、彼も見よう見真似で食べ始めた。

行儀よく「いただきます」と言って食べ始めたものだからこちらの方が驚いてしまった。(人魚も言うのか?)

ベーコンが気に入ったようで夢中で食べていた(・・・肉食?)逆に目玉焼きは随分がんばって食べていたようなので口に合わなかったかと尋ねると、

「イソギンチャクの触手(生)みたいでイヤだった」

というコメントを戴いた。

クラゲ(やはり生だろう)にも似てたかな

うーん、と食感を思い出すワトソンに、頼むからそういうコメントは外ではしてくれるなよ・・・と脱力しながら告げるも。

当の本人はなんで?という顔をしつつごちそうさま、と手を合わせていた。

 

 

動けるようになったということは落ち着いて対象物を見られるようになったということで。

「ホームズにそっくりな人が居る」

くいっと私のシャツを引っ張って不安げにどこかを指差す。

そちらを見遣る前に思い当たって怖がらなくていいと告げる。

「ワトソン、あれは人じゃない。鏡だ」

「カガミ?」

ワトソンはほっとするも束の間、首を傾げて考えている。

「自分の姿を映すための物だよ。左右対称になるけどね。凪いだ海面に自分の顔を見たことはないかい?」

そこまで言うと、ああ、と思い当たったようにワトソンの顔が明るくなる。

「それと同じことだよ。海面と違って揺らいだりしないけどね」

「そっかー」

疑問と不安の解けたワトソンは早速鏡に近づいて覗き込んだり触ったりしている。

鏡に映った部屋を覗き込もうとして額をゴツンとぶつけては「あう☆」と声を上げ、額を擦る。

鏡を使ったひとり遊びは何歳児がやるんだったかなあ・・・・・

その様子をぼーっと眺めながら、そんなことを考えていた。

 

 

ぱたぱたぱたぱた ぱたぱたぱたぱた

ときに廊下をこの音で満たす。

トントントントントン トントントントントン

ときに階段の上り下りをこれでもかというほどに繰り返す。

 

偶然の時の折り合いにより満月の夜に陸に上がってしまったワトソンは魚の尾のかわりに人間の足を得た。

次の満月までという期限はあるも、陸に過ごすに当たっては便利だ。

が、滅多に味わえないその感覚を味わうかのごとく、ワトソンは家の中を歩き回るのである。

 

まず最初は椅子に座り、足をブラブラさせたりバタつかせたりする。

これでも満足できなくなってくると、今度は勢いのまま立ち上がり、部屋の中を意味も無く歩き回り始める。

ぱたぱたぱたぱた ぱたぱたぱたぱた

それも我慢できなくなると廊下に出て同じところを行ったり来たりし始め

トントントントントン トントントントントン

極めつけは階段の上り下りを延々と繰り返すのだ。

段差に足を引っ掛けて転びやしないかとハラハラしながら見ていると

ガッ、ズデン!!

あ、やった。

上りの最後の一段で足を引っ掛け、上がり切ると同時にハデに転んだ。

大丈夫か?と思っていると、彼は廊下に寝そべったままくるりとこちらに顔を向け、えへへ♪と笑った。

その頬はほんのり赤らんでいるが、それは恥ずかしさというよりは嬉しさに満ちているように見えた。

なにが嬉しいんだか

そう思いつつ、自分も微笑みを浮かべて彼を見ていたのだった。

 

 

 

彼が来てもうすぐ二週間

月はいよいよ細くなり、新月を迎えようとしていた。

 

 

 

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はい、ホームズが父性(母性?)を発揮です(笑)
別名ワトソン観察日記・・・・(爆)いやぁ先生、よく見ていらっしゃる(笑)
もうちょっと事例をあげようかとも思いましたがやってるとキリ無いので適当に区切りました^^
こーゆうのはスラスラ打てるという事実発覚★(いやん)

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