陽もすっかり暮れて、夜。
ホームズの乗り込んだ商船は、嵐に見舞われていた。
荒ぶる波に揺さぶられて、商船の中は船員が走り回る音と怒号が飛び交っていた。
五月蝿い
荒れる波を甲板からじっと見つめながら、ホームズはつぶやいた。
さっきから船底が軋んで悲鳴をあげている
柔なこの商船はすぐにも沈んでしまうだろう
こんな嵐だ──人魚たちも海面へは上がってこない
これは一か八か、飛び込んだ方が良さそうだ───
そうホームズが考えたついたときだった。
風と波に遊ばれて、船体が大きく傾いた。
甲板を樽や人が転がる中、ホームズは手摺りをこえて海に放り出された。
落ちたのか、叩きつけられたのか。
とにかく衝撃を超えた後、真っ暗な視界が海の中だと気がつくと、どうにか泳いで海面に顔を出した。
乗っていた商船が、遥か向こうで海の藻屑と化していくのを見た。
結果的に助かったというべきか
しかしこれからが問題だな
次の瞬間、黒い大波がホームズを呑み込んだ。
荒れる波と泡の狭間で
暗い暗い水底で
そっと誰かが触れてきた
闇に映えた青は穏やかな日の海そのもの
あの青を、私は知っている────
眩しい
次に肌を舐める風の感覚・・・・スウスウするのは体が濡れているからか。
「ぅ・・・・・?」
目を開けるとちょうど真上に太陽があった。たまらず背けた視界に入ってきたのは、どこかで見た海岸線。
「ここ、は・・・・」
そのまま首をそらせて辺りを見回す。所々に岩が点在するその浜は、ホームズが住んでいる島の裏の浜だった。
信じられない気持ちで身を起こす。体中が軋んで痛んだが、とくに目立った外傷は無いようだった。
たまたま嵐による波によって己が住む島に引き寄せられたのか
「信じられないな・・・・都合が良過ぎる・・・・・」
ひとつ深く息を吐いて、自分の体に視線を落とした彼はシャツにきらきらと光るものがたくさん付着していることに気がついた。
「・・・・?」
手にとって見たそれは薄く、貝殻のような形でもあった。
「これは・・・鱗か?」
さては魚の餌にでもされかけたかと思ったが、それを陽の光にかざした瞬間。
煌めくその青さに、数日前に見たあの水を弾いて宙を舞う姿が脳裏をよぎった。
太陽に透かして見ていたそれを、いまはただ茫然と見上げる。
もう一度、視線を落とす。
当たり障り無く体中に付着し、きらめく、青。
まさか───まさか、あの、嵐の中?
ホームズがよろりと立ち上がる。
眼前に広がる海を、何処ともなく見まわした。
なにもない
あれだけ狂い、猛々しかった波が嘘のように穏やかな、海。
「・・・・死んじゃいないだろうな・・・・・・」
こぼれた呟きは、打ち寄せられる波音にかき消されていった。
家に戻ったホームズはその夜、島の表の浜をひとり歩いていた。
今夜は満月か・・・・・
煌々と照る月に照らされて、いつもは夜の闇と融け合う海も今夜は障り無く見渡せる。
頬を撫でる夜の風は優しい。
夜、誰もいない浜辺を歩くのが、ホームズは好きだった。
立ち止まり、遥か遠くにある水平線を見遣る。
そこまでは月の光も及ばないのか。線は空の闇と融け合い、はっきりしなかった。
再び歩き始め、視線を打ち寄せる波へと移す。
しかしそこでまたはたと立ち止まる。
ザザン・・・ザザ・・・・・
始めは親とはぐれた赤子のクジラが打ち寄せられたのかと思った。
ゆっくりと歩みを進めていくうちに。
ザザン・・・・ザザ・・・ザ・・・・・
月明かりを受けてきらきらと光る、青い宝石のような輝き。
それが昼間見たものと重なりはっとした。
ザザン・・・ザザ・・・・
サーーーー・・・・
バシャン、と。
濡れるのも構わずそれに駆け寄った。
打ち寄せられる波間であそばれていたのは、数日前に自分が助け、そしてあの嵐から自分を救ってくれたであろう人魚だった。
あの珍しい男性の人魚と見とめて、ひとまず波の届かぬところにその人魚を引き上げた。
月明かりが照らし出したその体は無惨なもので
上体の傷もさることながら、その青く美しい鱗はところどころ剥がれ、紅く血が滲んでいた。
何度も呼びかけたが意識を取り戻す気配は無く、したたか叩いた頬は冷たく色を失っていた。
とにもかくにも、ここではどうすることもできないので自宅へ運ぶことにした。
気休めにしかならない行為。
己が羽織っていたワイシャツで彼を包んで抱き上げた。
それが、満月の美しい夜の出来事────
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前半さらっと流しすぎたか・・・?^^;でも書くこと無いんです。重要なのはそこじゃないんでね!(死★)
の、割には難産で・・・しばらく冒頭の部分で止まってました;お話は頭の中ですっかりまとまってるんだけどなあ・・・・
まとまりすぎても打ちにくいのかなあ・・・・^^;
さーいよいよ次回人魚ワト、ホムと初会話なるか?!(そーいえばまだ会話はないのよね/笑)
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