見目美しい、麗しい人魚姫。
一瞬にして儚く消えてしまいそうな人魚姫
でも、それはおとぎばなしの中でのこと。
大航海時代が始まり、人々がこぞって海へ大陸へと出て行くようになった。
そして船乗りたちは口々に言う。
始めに『彼女たち』の仲間を捕らえ、死に至らしめてしまったのは誰であっただろうかと。
それこそ、あのおとぎばなしに出てくる王子ではないのか、という者もいた。
だが、それはもう遠い昔の話。確かめる術も無いことを言ってもそれはただの繰り言。
『復讐』という名の火蓋は、斬って下ろされたのである。
ホームズはその日も舟で海に出ていた。
鋭い瞳は警戒に余念が無い。
もっとも、この海域に彼がいると知ってのこのこと近づいてくる人魚もいないのだが。
いつからなのかは知らないが、人間が航海に出て行くようになるとそれらの多くが『彼女たち』によって頻繁に襲われるようになった。
『彼女たち』とはセレイネス───すなわち、人魚である。
しかし、以前は彼女たちが人間に危害を加えるなどということはなかったのである。
人魚という種族は女性系種族で、子も、仲間もすべて女子である。
だが、彼女たちも種族を残さなければならない。
仲間同士の生殖手段を持たない彼女たちがとった方法は、実に合理的なものだった。
人間の男と生殖するのである。
時期が来ると好みの男に己を抱かせて子を宿す。
人魚たちが皆々見目美しいのは、男を取り入れるためだとも聞く。
とにかく、彼女たちはこのようにして長らく子孫繁栄してきたのだ。
しかしいつのころからか、事態は一変した。
人魚が人間の乗った舟を襲い、残らず食い殺すという事件があとを絶たなくなったのである。
奇跡的に生き残った者たち──それはほとんどが女であった──が言うには、
人魚たちは美しい唄声で船上の男たちを海へと招き、生殖行為を遂げると次々と食い殺していったという。
生還者がその光景に震える中、海の中にそびえる岩島にぽつりと座り
その様子を見守る人魚が、ふいにこちらを向いて静かに口を開き、言い放った。
『復讐だ』
この話から、船乗りの誰かが彼女たちの仲間を殺したため、人魚が人を襲うようになったのだという噂が飛び交うようになった。
そして人魚たちの止まるところを知らない復讐劇の末、彼のようなセレイネス・ハンターと呼ばれる者たちまで現れる始末となった。
彼──ホームズはセレイネス・ハンターの中でもかなりの腕利きと称されていた。
頭がキレる上に武術の心得もある。
ただ、表情・顔色ひとつ変えずに人魚を仕留めていくさまを『非道』と言う者もあったが。
それでも必要とされているし、頼まれるからやるだけだ、とホームズは考えているのであった。
自分だって人魚を見れば片っ端から殺すというわけではない。
理解が得られず、危害を加えてくることをやめない場合に限り、自分は手をかけるのである。
事実、人魚の中にも話のわかる者がいて大人しく退いてくれたこともあったし、人間に対して全く復讐心を抱いてない者たちもいた。
───そう考えると、やはり一番愚かなのは人間なのかもしれない。
彼女たち人魚のすべてを『復讐心の塊』と決めつけ、自分のような者を使ってあまつさえ駆除しようとしているのだから。
と、ホームズが表情を変えた。
先よりも目つきがより厳しいものになっている。
さほど己の舟から離れていない距離で、波間を漂う、影。
魚にしては大きすぎる・・・・・
すわ人魚かと、構える。
距離を少しずつ詰めながら、静かに様子を伺う。
ここは浜から近く水深はそんなに無い。
むこうも海草の合間を縫って、ゆっくり泳いでいるようだった。
狙いをつけて、網を投げた。
狙いは正確で、波間を漂っていた影を捕らえた。
そのまま一気に引き上げる。
ドサリ、と重い音を立てて網が落ちる。茶色い髪の毛が見えた。
やはり人魚か
慎重に網を解いてゆくと、それは姿を現した。
それは確かに人魚であった。
だがしかし、それはいままで目にした事の無い人魚であった。
「・・・・これは男、か?」
引き上げた網から出てきたのは、男の人魚だった。
いままで男の人魚など見たこともなければ聞いたことも無かった。
だいたい男の人魚がいるのなら、今頃人魚たちはその種族内で大いに繁栄して人間などには見向きもしなかったはずだ。
網をかけられたショックで気を失っているのか、男の人魚は目を閉じたまま動かなかった。
しかし男性とはいえ、なんだか体が優である。
茶色い髪に白い柔肌。海色の鱗を持った尾ビレ。
体格も男性にしては小柄だ。失礼かもしれないが女性的と言えなくも無い。
ひょっとして突然変異体だろうか
そんなことを考えながら上体を抱き起こすと、頬を軽くたたいてやった。
「もし、もし!」
体を揺すると、人魚はぼうっとその目を開いた。
瞳の色は深い深い海色で、覗いているだけで吸い込まれてしまいそうだった。
人魚は私がハンターだとわかったのか震え出し、怯えたような顔つきでこちらを見上げている。
その様子には人間を襲う、などという思惑はどこにも見られなかった。
おそらく、海流に乗って浅瀬まで流されてきたのだろう
危険は無い。
人魚を横抱きに抱えあげると、鱗を傷つけないようにゆっくりと海へ放してやった。
パシャッと水音を立てて人魚が海面から顔を出した。
どうして自分を放したのかとでも言うように、不思議そうな顔をしている。
「どうやら君は人間には害がないようだからね。
それとここら辺りの海域は僕以外にもハンターが見回ってるんだ。うろちょろしてると捕らえられてしまうよ」
だから早く行きなさい。
そう告げると、人魚は一瞬きょとんとしたがすぐに嬉しそうに笑って肯くと、パシャンと音を立てて波間に消えた。
しばらくホームズは波間を見つめていたが、やがて背を向けて舟を出した。
するとその後ろの沖の方でバシャーンという水飛沫が聞こえた。
何事かと振り返ると、さきほどの人魚が飛び跳ねて、宙空で美しい弧を描いていた。
「危ないなあ、お礼なんかいいのに」
そう言って苦笑しつつも、ホームズはその美しい光景に見入っていたのだった。
数日後。
ホームズはある商船に『護衛』として乗り込んだ。
そして出航して間もなくその商船を激しい嵐が襲った。
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いつものチャットで帝王に触発されてやっちまいました(とゆーか始めちまいました)、人魚ネタ!!
うわー始めちゃったぞーアップしちゃったぞーもう後戻りは効かない・・・・・!!(ぶっちゃけ逃げタイ☆)
まあ、鏡ネタのような二の舞だけは踏まないよーにがんばりまふ・・・・(滅★)
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