私の名はシャーロック・ホームズ。

つい最近、ベーカー街221Bの下宿にに一人で移り住んだ。

一人で住まうには広すぎる部屋だったので同居人を探していたが、結局見つからなかった。

周りの連中は私の行動についていけない者ばかりだったから、別に気にもならなかったが。

そんなわけで私の部屋には訪ねて来る友人も無く。

今日も今日とて、だらしなくソファーに横になり、舞い込む事件を待っていた。

その日はちょうど正午に起きて遅い朝食を取り、小一時間ほどをソファーで過ごしていたのだ。

が、何故だか気分が落ち着かない。

窓の外に目をやれば、天気はさほど悪くない。

私は久しぶりに散歩とやらをしようとして外へと出て行った。

 

 

 

〜虚構の恋人〜・��

 

 

 

まばらに散らばる人をさっさとかわし、私は黙々と街路を歩いていた。

色々な人を、物を見て様々なことを推理するのはもう職業病といってもいいかもしれない。

自分の行動に皮肉な笑みを浮かべて、ふと視線を街路から店の並びへと移す。

目に付いたのは古びたアンティークの店。

目の保養くらいにはなるものが置いてありそうだ。

カラン・・・

ドアベルを響かせて、足を踏み入れた。

 

「いらっしゃい。ゆっくり見て行ってくだされ。」

店に入ると、白い髭を蓄えた初老の御仁が見るからに人の良さそうな顔で迎えてくれた。

店内は割りと綺麗に品物が陳列されていた。

大抵こういう店では大事な品でもその辺に積み上げるように置いてあるものだが、この店にはそういうものが無い。

たぶん、主人がそういう人柄なのだ。

ランプ、絵画、彫刻にステンドグラス・・・

どれもこれも紛れも無い本物で、一品を扱っているが値段は割りと手頃だ。

それを何故かと尋ねれば、わたしはもう利益を得ても先が無いですからねえと返って来た。

しかしおそらく、彼のそのスタイルは歳に関係なく続けられてきたものだろう。

それ故、こうも一級品の物ばかりが揃うのだ。

ふと、壁にかかってある鏡を見つけた。

楕円形で、縁は木製。それには木彫りの美しい薔薇がいくつも彫られている。

一目見てかつては何処かの貴族の手によって使われていたであろう代物と知れた。

「・・・その鏡が気に入られましたか?しかしそいつは・・・」

「いわく付き、ですな。」

私の即答に、主人は細い目を少し開いた。

「おや、知っておられたのですか?」

私はクスリと笑って、

「いやなに、ここの品物は確かにどれも一級品で手頃なお値段ですが、それにしてもこの鏡は安すぎる上に更に値札を上から張り直してる。おそらく買われては戻されを繰り返したんでしょう。品物の返品は稀にありますが、一度や二度返されたぐらいで値段を下げる必要はありません。あらかた鏡に幽霊が映るといったものの類でしょう?」

肩をそびやかしてそういい終えると、主人はすっかり感嘆した様子で、

「いやあ、全く、その通りです。この鏡には毎夜人影が映り、誰もいない部屋で足音がしたり物が荒らされたりすると言われ、今まで返され続けてきたんですよ。」

ふう、と溜め息を吐いたが、次の私の言葉にまた驚嘆した。

「気に入りましたよ、この鏡。買わせていただきます。」

「え??!いや、しかし・・・」

主人は、事の顛末を知りながらも購入を希望してきた私に酷くうろたえた。

「どうぞお気になさらず。いわくがどうというよりも、この鏡が気に入ったんです。」

何の意図もない私の口調に、主人はそれではお売り致しましょうと言ってくれた。

私は丁寧に梱包されたそれを持って、その店を後にした。

 

下宿に戻ると、すぐにその鏡を居間に取り付けた。

落ち着きのある木彫は華美になることなく、すんなりと居間の壁に溶け込んだ。

この鏡の持ち主だった貴族は、成金趣味などではなく、風情や佇まいといったものを大事にしていたのかもしれない。

夕食を簡単に済ませてしまうと、わたしは椅子に座り書類を捲り出した。

過去の事件の情報を再度集めて回想し、整理する。

自分にとっては一瞬のその作業も、刻に直せば結構なものになるらしく。

時計が静かに深夜を告げたとき、急に視線を感じて顔を上げた。

目の前には空っぽなソファーがあるだけで、もちろん誰も居やしない。

注意深く部屋を見渡す。

ソファー、暖炉、カーテン、壁・・・

壁にかけてある買ってきたばかりのあの鏡・・・。

映っているのは居間の様子―――――椅子に腰掛けている自分、床に散らばる書類、空っぽな――――

途端、僅かに目を見開く。

本来、空っぽなソファーが映るべき鏡の中のソファーに。

見知らぬ男が、ぽつんと座っていたからだ。

私は一瞬の動揺を抑え込んで、なんでもないように再び書類に目を落とす振りをした。

彼の容貌は色白で、茶色の髪に茶色の瞳、萌ゆる緑のベストを着こなす体は細かった。身長は、私より随分低いようだ。

幽霊というと顔色の悪いものを思い浮かべるが、彼の顔色はそうではなく、むしろそこいらの生きている人間よりも良好だった。

色白とは言ったが、私よりも彼のほうがずっと健康的な印象がある。

その顔からは穏やかな人柄が覗かれた。人に対して悪さをするなど到底思えないような。

歳は・・・私と同じくらいだろうか。如何せん、童顔に隠されてしまって計りかねた。

鏡の中からこちらに目を移し、目の前のソファーをよくよく見れば彼の座っているであろう部分が少し窪んでいる。

どうやら彼の動作は、見えずともこちらに連動するようで。

わざと書類を一枚、はらりと落として見せると彼は少し慌てた様子で宙を舞うそれを一瞬掴んだが、ハッとしてすぐに手を放した。

こちらでは書類が宙を舞い、一瞬ピタリと止まってから床に滑るように落ちた。

私が、落とした書類を放って置いたまま彼の観察を続けていると、今度は彼が落ちた書類を見ては私を見る。

困惑した表情で、落ち着きがない。困り顔は何度も私と書類とを行き来したあげくに、そろそろと床の上の書類に手を伸ばした。

そのまま書類を掴むと、私の方をひどく気にしながら書類を私の手が届く範囲に持ってきてくれた。

私が落ちた書類に今気づいたかのように拾って見せると、彼はほっと安堵の息を漏らした。

ほんの少しだけ、淋しそうに見えたのは気のせいだろうか。

私の中で思考が巡る。

 

彼は、本当に忌み嫌われる幽霊だろうかと。

彼は、その存在を強調し荒れる幽霊だろうかと。

彼は、無関係な人を呪ったりする幽霊なのだろうかと。

 

持ち前の直感により、答えは割りと早く出た。

椅子から立ち上がると、投げ出していた愛器を手に取り構えると。

空っぽなソファーに向かって。

「この新しい出会いに一曲、如何ですか?」

 

『え・・・・・・??!』

 

鏡の中の彼の茶水晶の瞳が零れんばかりに見開いて。

思わず漏れたのであろう驚きの声は、透き通るように部屋全体に静かに響いた。

 

 

 

 

 

これが彼と私との、静かな夜の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

NEXT

 

 

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やっちゃいましたよ。鏡ネタ。

なんか・・・始めからまとまんなかったような・・・

悶々状態で始めたので・・・どうなることやら。

でも!!でも描きたかったんだーい!!(><)!!

なんか・・・割とさらっとしすぎたというかなんというか。

本当はもうちょっと・・・ねえ?

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