生まれて初めて、あなたに祈る。

おねがい。

神様。

どうか―――――・・・。

 

 

〜この手にもう一度24時間瞬ける星を・�掘�

 

 

じゃり。

今ではもう廃墟と化した遺跡。

崩れかかった塔のような建物が、夕日に映えていた。

辺りに人影は無く。

乾燥しきった空気に、顔を顰めた。

 

ふと。

ぱらぱらと砂が零れ落ちるような音を耳にして、ワトソンは首を横に向けた。

すると、ほのかに光が差し込んでいる所があり、視線を上げると地上の草陰が見え。

更にその向こうに見覚えのあるシルエットが見えた。

―――・・・ホームズ・・・?

来て、くれたんだ・・・

安堵の表情を浮かべた瞬間、彼の後方で彼を狙うものがあることに気づいた。

崩れかかった壁からひっそりと突き出された銃口。

しかも、彼はそれに気づいていないようだ。

危ない・・・!!

指一本動かすのも困難な体が、自然、動いていた。

懐から銃を取り出す。

見た目、子供の玩具のように小さく薄っぺらいそれは、行きつけの武器屋の主人がくれたものだった。

探偵の助手やってんなら隠し銃の一丁くらい持っときな。

ポン、と放り投げられて慌てて受け取ったが、そのあまりの小ささにほんとに使えるのかと尋ねてしまった。

ナリは頼りねえが、飛距離は猟銃以上にある。・・・人ひとり守るには充分な威力の代物さ。

アンタ、マメにメンテに来てくれるからな。

オマケにしといてやる、と言うと武器屋の主人はわたしの愛銃を、わたしの手の中にあるそれにそっと重ねた。

それからわたしはどんな時でもこれだけは持ち歩いている。

彼の人、ひとりを守るために。

震える腕を叱咤して、狙いを定めると引き金を引いた。

 

ドウン!!

「 ぎぃやあああああ??! 」

「 ??! 」

突然、背後で響いた暴発音と悲鳴に、ホームズは何事かと振り返った。

見れば一人の男が出血する腕を押さえながらもんどりうって苦しんでいる。仲間と見られる連中も何が起こったのかと目を白黒させている。

「 今だ!!かかれ!! 」

レストレード警部の号令と共に隠れていた警官たちが男たちに跳びかかる。

後方の騒ぎを他人事のように視界から外すとホームズは呆然と視線を前に戻す。

あの男が撃たれた場所、方角からいっても―――自分を救ってくれた弾丸は、前方から来たとしか思えない。

だが前方には荒れ果て、乾燥した光景が広がるばかりで。

人影らしきものは、どこにもなかった。

しかし、その代わりとでも言うように。

草むらから一筋の白煙が、ゆるゆると立ち上っていた。

 

一台の漆黒の馬車が、ゆっくりと遺跡を後にしていた。

「 モリアーティ様、あのような小者どもではホームズの相手にはならないのでは? 」

「 ふむ、そうだな。 」

モリアーティはククク、と喉奥で可笑しそうに哂った。

「 では、何故・・・ 」

その問いに答える声は、この上なく楽しげだった。

「 言っただろう。次の仕事までの余暇を楽しむ為のちょっとしたゲームだと。 」

退屈しのぎには充分だったよとの声に、向かいに座っていた従僕がクツリと哂った。

「 ・・・モリアーティ様でも、遊び心を弄ばすことがおありとは。」

それを聞いたモリアーティは声高に哂った。

「 はははははははは!! この世の犯罪の多くが、遊び心があってこその存在だぞ!! 」

ははははははは!!はははははははは!!・・・

深い深い闇から出ずる冷たい哂い声に。

天の恵みを求めて立ち上がる萌ゆる緑たちも、ただただ震え上がるしかなかった。

 

ホント、人ひとりまもるにはちょうどよかったかも・・・

地上の喧騒に耳を傾け、銃口から立ち上る白煙を見つめながらそう思った。

こっからじゃあ、よくわかんないけど・・・いつもの銃じゃ届かなかったよね、きっと。

ほっと溜め息を漏らしていると、ガサガサと草を掻き分ける音がして砂がパラパラと零れ落ちた。

「 ・・・ワトソン? ワトソン、そこにいるんだね?! 」

地上からのわずかな光をふさいで降り注いだのは、暫くぶりに聞く、親友の声だった。

 

ホームズは舐めるように地面を調べると、蓋のようなものを見つけ、懇親の力を込めてそれを持ち上げた。

ドオッ、と大きな音を立ててそれがひっくり返る。現れたのは、かつての水路の空洞―――しかし流れ出てきたのは血の臭い。

そしてその底にあった光景に絶句する。

大きな大きな血だまりの中心に、手足を投げ出すようにしてワトソンが浮かんでいた。

全身はずぶ濡れで。

見上げてくる瞳に光は無く、今にも閉じてしまいそうだった。

いつの間にか後ろに来ていたらしいレストレードは一瞬ぎょっとすると顔色を変えて、至急、車を回してきます!!と言って

走って行った。

「 ワトソン!! 」

飛び降り様にコートを脱ぎ、駆け寄る。

思わず叫んだ声もしわがれてしまう。

抱き起こし、すぐさまコートで彼の体を包むと呼びかけた。

「 ワトソン、ワトソン!! しっかりするんだ!! 」

ふらふらと焦点の定まらない視線。そっと顔に手をそえてこちらに向けてやった。

「 ワトソン 」

もう一度静かに名前を呼ぶと、茶水晶の瞳が僕を捉えたようだった。

「 ・・・・・・ 」

ワトソンの口元が微かに動くも、声が出ないのか聴き取れない。

「 なんだい? どこか、苦しいのかい?! 」

彼の口に耳を傾ける。

そうして聞こえてきた言葉に。

「 ・・・ホー、ムズ・・・ケガ、・・・なぃ・・・? 」

目を見開いた。

再び彼の顔を覗き込めば、心配そうな眼差しが自分に向けられていた。

君って人は。

本当に、君って人は。

僕があの日、あの時。

君の忠告を素直に聞いていれば、君を追い出すような真似をしなければ。

君はこんな目には遭わなかったということを、わかってるの?

「 ・・・!! 君が守ってくれたのに・・・! 怪我なんか、するはず、ないだろう・・・!! 」

強く、しかし壊れないように彼を抱きしめて。

彼の肩筋に顔を埋めた。

「 ホ、・・・ムズ、・・・のが、いた、そ・・・ 」

切れ切れに言葉を繋ぐ彼の、零れ出た手が僕の背でゆるゆると動く。

背中を擦ってくれようとしている、その行為に。

顔を埋めたまま、大丈夫だよと答え、その体を横抱きに抱え上げる。

何十年かぶりに―――否、記憶が無いから、もしかしたら生まれて初めて。

雫を一滴(ひとてき)、ポツリと零した。

 

 

 

レストレードが回した車に乗り込んだあと、眠ってしまったワトソンの胸にホームズはずっと耳を傾けていた。

至極ゆっくりと音を刻むそれは、それで正常なのか遅いのか。

早鐘のように脈打つ自分のそれでは、比べようも無いなと苦笑を漏らしながら。

 

 

NEXT→

 

***あとがき*****

まだ続ける気か(笑)

次は後日談かなっv

あー、ガンマニアの人が見てたらゴメンナサイ。

アレは水仙の勝手な思いつきな銃なんで・・・あと、飛距離とか、全然わかんないし・・・;

そもそも猟銃以上っていうのも、「猟銃って飛びそう(滅)」なイメージからだし;

実際は銃とはどんなもんなのか全然知識無いんで、石を投げないでください(汗)

あー・・・でも想像以上にすっぱり終っちゃったかな、この場面・・・

ホントは、ホントはもっとこう・・・!!

うう、文才の無さだけはどうしようもない・・・(泣)

************