十字路を過ぎたら大きな大きな橋をわたる。

橋の下にはこれまた大きな川が流れている。

川は浅く、底は岩盤状になっている。

夏。

干上がると岩盤が顔を出し、小さな子どもが飛び石がわりにあそんでいる。

渡り終えると視界の左右に枝垂れた柳の緑がちらつき始める。

ほそいほそい柳路。

抜ければ途端に森が立ちふさがる。

おおきなおおきな柳の巨木。

樹齢四百。

この土地の主。

そしてその主の足元にかまえる時計屋。

店の主。

名を『エリー』と云った。

 

 

 

                                    とおりすぎるまち/おなじまちの違うところで

 

 

 

柳路を越えて。

木造校舎が見えてくる。

年季の入った木造校舎。

季節は夏。陽も傾くとき。

子どもの姿も声もない。

ずらりずらりと並ぶ白くなったホルマリン漬けの大群。

 

『理科準備室』

 

粘土で作った胎児・子宮の断面図・棚に並ぶキープアウトな瓶・山と積まれた書類、教科書、書籍がくずれかけ。

うごめく白髪/埋もれた白衣。

ふと顔を上げ窓辺を振り返った男。

長い前髪に目は隠されていた。

 

あ゙ーーーあ゙ーーーーー。

 

バサリと羽音を立てて窓辺に堕り立った白い鳥。

紛れも無く、カラスの鳴き声。

姿は純白。

「おう。おかえり」

腕を差し出す。バサリと羽音がとまる。

 

 

ダツッ。

 

ダツ、ダツ、ダツ、ダツダツダツダツダツダッ・・・・ザーーーーーーッ・・・・・・

 

 

「・・・・夕立か」

白衣の下は黒のハイ・ネック。

髪は白。

肌は色白。

目は。

目は隠れて髪の中。

小学校理科教師。

名を『白雨(ゆうだち)』と云った。

 

 

 

学校すぎれば商店街。商店街すぎれば「赤い鐘つき堂」に「蛇の橋」。

赤い夕暮れ。夕立に。

ごぉんと鳴るもお堂に人の影はない。

「蛇の橋」そのふもとの酒屋にて。

 

一杯、また一杯と冷酒を楽しむ男が一人。

黒く長い髪をひとつに結わえている。

「おや夕立かい?」

困ったねぇ。

酒をあおりあおり呟く男。

「旦那、傘をお貸ししやしょうか?」

答えを返さず。冷酒を飲み干す。

ようやく店の主人を視界に入れる。

「いや、このとっくりから帰るゆえ。お心遣いすまない」

言い終らぬうちに、男はひょいと片足をあげるととっくりの中にすぽん、と入ってしまった。

あとに残るはぽかんと口を開けたまんまの酒屋の主人。

一拍おいて響いた突き抜けるような悲鳴になんだなんだと野次馬どもが寄ってきて。

ついでに一杯と店も話も盛り上がり。

勘定を払うことなく男は消えてしまったのだと店主が気づいたのは店を閉めた後だったとか。

 

まちをぶらりと歩く男の後ろに、ころころと小さな四人の子どもがついてきた。

「またやったんですか?大騒ぎですよ」

「すこしは控えたほうが」

「お店の人、びっくりしてましたね!」

「今日はもう戻られますか?」

行きつ戻りつしながら男にまとわりついてくる。

四人とも全く同じ顔であった。

「以後気をつけるよ。さあ今日はもう帰って明日売る飴でもつくろう」

浮ついた声の調子はこの男がまったく反省していないことを告げていた。

長い黒髪を束ねた男。

四つ子をともに連れ歩く。

まちの人達は「魔法使いの飴売り」と呼んでいた。

ひょうひょうとまちを歩く男。

名はと訊かれると答えられる者は誰もいなかったが。

皆、『ブナ』と呼んでいると云った。

 

 

 

倉庫のような喫茶店。

 

看板・『喫茶店カシェート』

 

店内は茶系色で統一されており、抑え気味の照明が店内をぼんやり照らす。

入り口正面の壁には女性の絵が飾られている。

長くカールした金髪が美しい女性だ。

「いらっしゃいませ。どうぞお席へ・・・・」

迎えてくれるマスター。すこし緑がかった水色のタキシードを着ている。灰色の髪はオールバックに撫で付けて。

丁寧なお辞儀。顔を上げる。

しかし変わること無き笑い顔に驚いてはならない。

ここは『喫茶店カシェート(隠れ家)』なのだから。

 

笑い顔の仮面をつけた喫茶店のマスター。

その下に隠された素顔を知るものはない。

居るとすれば、おそらくきっとあの金髪の女性だけだろう。

『喫茶店カシェート』マスター。

名を『アダム・ワース』と云った。

 

 

 

                                     とおりすぎるまち/おなじまちの違うところで

 

 

 

おおきなおおきな柳の木の下のちいさな時計屋。

 

看板・『こわれた時計店』

 

その名の通り、壊れた時計が掛け時計から腕時計までたくさん並んでいる。

どれも動かず壊れているが、それでもいいと店を訪れる人は買っていく。

値段はどれも安い。千円を越えるものはたまにあるかどうか。

 

陽が昇れば起きて陽が沈めば眠る。

 

だから金にはそんなに困らないのだと店主は言う。

黒髪・黒目・色白で、いつも黒い服を着ている。

登下校の子どもたちは「かげぼうしのおじちゃん」と呼んでいた。

壊れた時計にかこまれて、今日も日がな一日ぼうっと動かない針を見て過ごす。

『こわれた時計店』店主。

名を『エリー』と云った。

 

 

つづき
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