記憶のカケラ〜3〜
大事だからなくす前に手放そうと思う。
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『いいのか?』
これは友人に言われたセリフ。
何か言いたげなポプキンズとピーターの顔。
大事だよ。
でも大事だから。
この手から離れる前に手放すよりも先に。
忘れたのならばそのまま。
手放すこともなく離れることもなく。
このままでいるのも良くないか?
ああ、だけど。
夢に見るくらいは。
少しだけ。
許してくれないだろうか?
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仮眠室に顔を覗かせると、グレグズンが毛布もかけずにベッドで眠り込んでいた。
何をやっているんだ、この男は。
せめて毛布でもなんでもかけて寝ろ。
思いながらなぜか、そのグレグズンに違和感を覚える自分に行き当たる。
全く、なんなんだ。
目覚めた時の周りの反応といい。
目覚めた直後のグレグズンの反応といい。
なぜか違和感を覚える周りの視線。
だけれど、全く変わっていないグレグズン。
それに酷く苛立ちを覚える。
落ち着かない。
そんな気になるが。
一年間の記憶が無い自分。
一体何を忘れてる?
一体何が欠けている?
欠け落ちたその気持ちがなくなることはなくて。思わず一つ溜め息を付きながら。
仕方なくグレグズンに手を伸ばし、毛布をかけた。
と。
ぐい、と腕が掴まれて。
「!?」
起きていたのかと思って、グレグズンの顔を見ると。ライトグリーンの瞳は、どこか寝ぼけたように曇っていって。
「…グレグズン?」
「――――探した…」
掠れた声でグレグズンが言う。
レストレイドの腕を掴んだまま。
「…探したぞ、お前…どこ行ってた………」
愛しげにライトグリーンの瞳が細められて。
見たことのないその色に、視線が釘付けになる。
優しく歪んだ口元に、掴まれた手が触れた。
「お帰り―――…」
囁くような声音でそう言ったグレグズンに、カッと血の気が顔に上がるのが分かった。
違和感。混乱。
誰だ、これは。
俺はこんな瞳の奴、こんな表情をして笑う奴を――。
知らない。
我に返る。
思わず掴まれた手を振りほどいて。
そのまま後ろも見ずに走り出す。
何かが痛い。
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「…?…」
目を醒ますとかけた覚えの無い毛布が掛かっていた。
そして手に何かを掴んでいた感触と。
嗅ぎなれた葉巻の匂い。
「――レストレイド?」
訝しげに名前を呼んでも答える声は無かった。
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