記憶のカケラ〜2〜

 

 

 

二人のことが大切ですよ。だから見守らせてください。

 

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 レストレイドの記憶は完全に一年前に後退していた。記憶逆行健忘症との診断。

 医者の話によれば日常生活に支障は無く、何かの弾みで想い出す可能性が高いとのこと。

 一年前。

 まだ、グレグズンとレストレイドが思いを交わせるようになるよりも前。

 

「グレグズン」

 

 窓辺に寄りかかって紙巻煙草をふかす友人に声をかける。

「ん〜?」

 どしたの、魔王。言いながら、相変わらずの表情でグレグズンが振り返る。

「いいのか」

 何が。とは言わない。

 そのことに関しては何も言わずに、グレグズンが煙草を口から話して言う。

「…レストレイドは?」

「鬼のように仕事している」

 実際、記憶が無いのにも関わらず出勤してきて。

 一年分の遅れを取り戻そうといわんばかりに前以上に書類の仕事と向き合っている。

「らしいね」

 その言葉を聞きながら、へらりとグレグズンが笑った。

「お前の机の上が書類で埋もれてる」

 それはいつものことだが。

「レストレイドが怒るぞ」

 

「…そーだな」

 

 言って煙草の火を消すと、友人は捜査課の方へと歩き出す。

 その背中に声をかける。

 

「グレグズン」

 

「ん?」

 

 振り返った背中に言う。

 

「我は寂しいぞ」

 

「………」

 

「寂しいぞ」

 

 そのセリフだけを繰り返して。

 

「仕事をがんばれ」

 

 へらりと笑ったグレグズンは片手を上げると、捜査課のほうへと去って行った。

 

 窓の外を見上げると、空は快晴だった。

 

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「グレグズンッ!さっさと仕事をしないかぁッ!」

「はいはい〜、怒ると昨日打った頭に障るぞ〜」

 

「なら仕事をしろッ!」

 

 仕事をしないグレグズン。

 怒るレストレイド。

 

 それはヤードの日常のはず、なのだが。

 

「…なんだか、僕精神的にきついものを感じるんですが」

 二人のやり取りを遠くから見つめながらポプキンズが机に突っ伏した。

「……言うな」

 言いながらピーターがさっさと書類をまとめにかかる。

 

 一年前のいつもの光景に苛立ちを覚えるのは、自分たちが今現在に順応してしまったからなのか。

 

 思わず重なったのは二つの溜め息。

 

「…どうしようもないだろ」

 

 自分たちは所詮は部外者だ。

 彼らのことに立ち入りが出来るのは彼らだけ。

 

「…そうなんですけどねぇ」

 

 呟きながら、彼らを見やる。

 

 一年前にくっきりきっかり戻ってしまった彼。

 

 一年前の状況のままに甘んじている彼。

 

「どうしようもないんですよねぇ」

 

「ないな」

 

 重なった二つの溜め息と会話の内容は、彼らには届かずに。

 そうして捜査課の隅から流れて消えた。

 

 

 つづく⇒NEXT