まあ俺はとんでもなくひねくれてたんだ

親、兄弟が匙を投げるほどに。

 

 

理系好きの計算バカ。

それが、工学大でお前になんか会っちまったから。

 

あーあ。

 

 

 

『081.移植』

 

 

 

俺の生きる時代では電子の世界の技術が発達しすぎて、それに伴った問題が発生していた。

一昔前まではネットは画面越し、ゴーグル被ってもやっぱり画面越しだったけれど今は違う。

昨今はネットに直接、精神が『潜れる』。

いわゆるダイビングだ。

潜る世界が母なる海ではなく電子の海かの違い。

あとは潜るのが身体ではなく精神ということか。

 

いままでは画面上の三次元だったものがネットに直に潜ることによって

よりリアルな三次元──ネット内にいる分はホンモノ同然だろうが──が、体感できるようになった。

かくして人はネットダイビングに熱中し始める。

そして表層に浮かび上がってくる問題。

 

精神剥離病の発生。

 

読んで字の如く、ネットに潜り続けるあまり精神と身体の連結が鈍くなり、

ヘタをすると精神が身体に戻れなくなる病気だ。

 

原因はよく解かっていないが・・・なんとなく、俺には解かるような気がする。

そう、なんとなくだけど。

 

なのでネットダイビングは現在かなりの規制がかけられているのだけれど、

個人の横行するネットにそんな規制なんてあって無いようなものだ。

精神剥離病の患者は年々増加傾向にあり、終いには工学大にもこんな科ができた。

 

精神電子科。

 

剥離病はもちろん、電子による精神が受ける影響とかを研究する科だ。

俺はいまそこに通っている。

べつに剥離病に苦しんでる人たちを救ってやりたいとか、そんな思いはサラサラ無い。

ただ、自分もよくネットダイブをするし、精神と電子のその辺の関係に興味が湧いたからに過ぎない。

飽きたら辞めればいい

とくに進路も将来も何も考えてなかった俺は優秀な成績だけでそこに進学した。

 

正直、入学してすぐに飽きた。

だけど、大学に行くのを辞めなかった。

辞めなかったのは。

 

 

「アーキィーーー!!!」

「だッ?!!」

背後から突然の衝撃を喰らい、そのまま地面に突っ伏す。

「〜〜〜〜よしゆきィッ!!!いつもいつも人に跳びかかってくんなって言ってんだろ!!!!」

ガバッと跳ね起きて自分をのし倒した相手をキッと振り返る。

「あーごめん」

少ししょげた様子の男に、何も言えなくなってハアと溜め息を吐いた。

コイツは好行(よしゆき)。俺と同じ精神電子科に通う学生だ。

常に表情無しでヒネクレもので皮肉屋な俺に、怖いもの知らずなのか何なのかは知らないがよく懐いている。

というか、懐かれた。

学内でも俺の変わり者っぷりは有名で、こんな風に普通に(ド突き込で☆)話すヤツは好行ぐらいしか居ない。

「つか、アキ!明日の2コマのレポート出来た?!」

「・・・・ああ」

「見ぃ〜せてぇ〜〜〜〜!!!!」

泣きつくな。キモイから。

手頃なベンチに腰かけ、バックの中からレポートを取り出す。

 

あーあ。

飽きたら辞める。

はずだったんだけどなぁ・・・・

 

「どうにも辞められなくなっちまったなぁ」

レポートを毎度毎度忘れてくる誰かさんのせいで。

俺のボヤきに「え?何??」と好行は顔を上げ、首を傾げていた。

 

 

これが日常だった。

それが日常だった。

あの日々こそが日常だったはずだ。

 

それなのに。

 

 

「オイ!!好行!!!戻って来い!!!」

PC画面が赤く点滅する情報処理室。

室内を小さな、けれど厭な音を立てて警報が流れて行く。

 

<ダメだよ。このウイルス、外に漏れたらヤヴァイよ!

 

画面上に現れる文章。

読み取ろうにも煌めく赤が、邪魔だ。

「アホか!!お前がヤバイんだよ!!いいから早く戻って来い!!!!」

 

精神電子科の処理室での、精神電子科のサーバ内での実験。

さも無い実験だった。

それが突然降って湧いたウイルスに、辺りは騒然としていた。

情報管理担当者は精神電子科のサーバが壊されるかもしれないとドタバタと走り回っている。

 

精神電子科のサーバ。

つまりそれはひとつの小さな世界。

その世界が壊れるということは?

 

「よしゆき!!!!」

叫ぶ俺の横には好行が座っている。

好行の身体が。

好行はこの実験を直に観察するためにネットに潜っていた。

 

精神電子科のサーバがあってのひとつの世界。

サーバが壊れたら?

その世界は?

そこにいる人は?

 

ビーッ!!ビーッ!!

 

いっそうけたたましく、PCが悲鳴を上げ始めた。

点滅の赤が室内の天井を、壁を赤く塗り上げた。

 

「よしゆき!!!!」

 

俺が最後に呼んだ名は、ヴァーチャルの世界でも響いただろうか。

 

ブツッ。

現実を拒絶する音が低く響いて、一瞬にして部屋は薄暗い静寂に包まれた。

 

 

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