涸れたはずのものがふたたび湧き出すことで
きみの傷が疼き出す
朝。フランス・パリ。
点々と立ち並ぶ家々のひとつに存在するある事務所。
門のプレートには『バーネット・ベシュー探偵社』。
その事務所のポストに、郵便配達員が朝刊とともに封書を放り込んでいった。
すると事務所の扉が開いて一人の男が出てくる。
金髪の男は明けたばかりの霞んだ青い空を見上げて、その胸に朝の空気をいっぱいに吸い込んだ。
「今日もフランスの空は美しいな・・・おや?」
男がポストから新聞を抜き取ると、さっきの封書がパサリと落ちた。
拾い上げ、宛名を見る。
「珍しいな。ベシュー宛だ」
男──バーネットはそう呟きながら事務所内に引っ込んだ。
ベシューは朝に弱いな。
半ば強引に警視庁を辞めさせてこちらに住まわせてからというもの、意外な一面を多々見るようになった。
ベシューは小柄で、痩せていて、常に顔色が悪く青白い。
顔色が常に悪いのはお前のせいだろうとかいう声が聞こえてこなくも無いがいまは敢えて無視。
ともかく、刑事という生業をやっていたわりにはどうも病弱なのだ。
時折、とんでもない高熱を出したりするし(あのときは体温計が振り切れていた)
よくあれで保安課などに務めていられたものだ。
ベシューを宛がっている寝室のドアの前に立つ。
極めつけはノックだな───
ベシューはノックが出来ない。
何故かは聞いていないが、警視庁時代にこちらを訪ねて来るときもノックを出し渋っていた。
痺れを切らしてこちらから開けて、ドアで一発顔面にお見舞いさせてしまうこともあったな。
そういえばこちらに移ってくる前、ベシューはアパートに一人暮らしだった。
元妻のオルガ・ボーバンと別れているわけだからおかしくはないのだが。
オルガは自分の母と一緒に暮らしている。
女優として成功もしたのだし、当然だろう。
しかしベシューだって警視庁では若いながらもベテランと呼ばれるまでになっていた。
オルガのように郷里から親を呼んでいっしょに暮らしていてもよかっただろうに───
それともすでに亡くなったのだろうか。
彼の口から郷里や家族の話を何一つ聞いたことが無いのを今更のように思い出しながら、扉をノックした。
「ベシュー、ベシュー」
ドア越しに呼びかけるが返事は無い。
どうせまだ寝てるんだろう───
ガチャリと音を立ててドアを開ければ、案の定ベシューは惰眠を貪っていた。
「ベシュー、起きろ。朝だぞ」
手の甲でペシペシと頬を叩いてやる。
「んん〜〜〜・・・・・」
もぞ、と蠢いて厭そうに顔を背けて枕に沈み込む。
そうして再び眠り始めてしまう。
「ほんっとに朝に弱いヤツだな」
呆れて溜め息を吐く。
ギシリとベッドに腰掛けて、髪を掻きあげてやる。
「ん・・・・・」
心地良いのか、一度逃げた頬がすり寄ってきた。
「まるで動物だな」
頬をつついてやればまた嫌がって逃げていく。
面白いのでこのままにしておいてやりたい気もするがそうもいかない。
「いい加減起きろ」
「ふ、が?!」
あ、コイツ面白いほどよく伸びる。
「いひゃいいひゃい〜〜〜〜ッ!!」
頬を思い切り摘まみ伸ばされて、ベシューが跳ね起きた。
「うーうー!!」
頬を掴んでいる手を離そうと踏ん張っている。
そこでパッと手を離す。
「だッ?!」
反動でぼすんとベッドに倒れる。
「起きたな」
ニヤリと笑って立ち上がる。
見下ろせばムッとした顔でベシューがこちらを見ている。
それには取り合わず踵を返す。
「朝食にするぞ。はやく顔洗ってこいよ」
また寝るなよ。
釘を刺して部屋を出れば、う〜っと唸るような声が扉の向こうから聞こえてきて思わず笑ってしまった。
「そういえば、お前宛に手紙が来てたぞ」
「僕宛に?」
朝食を取りながら新聞を読んでいて、ベシュー宛に手紙を来ていたことを思い出した。
「誰だろう。何処にあるんだ?」
「玄関の棚の上」
言うと椅子から立ち上がり、玄関の方へと走ってゆく。
自分は新聞を開き、なにか目新しい情報はないかと紙面に目を通す。
おおむね読み終わり、新聞を置いたところで顔を上げた。
ベシューはまだ戻ってこない。
注いだ紅茶もぬるくなってしまっている。
どうしたのかと思いながら立ち上がり、足早に玄関へと向かう。
扉を開けて、玄関を見る。
そこには件の手紙を持ったまま動けなくなっているベシューがいた。
* * *
はーい♪
また無謀なことして自分を追い詰めようとしてるヤツがここに・・・!!(ガタブル)
もう一本のBB連載すら再開したばっかなのに・・・またまた新連載☆
今回はベシューの過去ほじくり大作戦です(そのネーミングもどうだよ・・・)
ぶっちゃけ某Sさまの夢ネタです。なんか長編にしたくなっちゃったのでやっちゃいます(慎めよ☆)
今度はスパスパ書いていけたらいいな・・・(遠い目☆)
* * *