・・・?

 まず朝起きると視界が違った。

 身体を起こしたのに、寝ながら首を巡らせ見ているのと違わない視界。

 それになんだか体の感覚もおかしい。

 はて。これはどうしたことだろう。

 首を傾げ、ふと下を見ると己の手が真っ黒な毛で覆われた、小さな獣の手であることに気がついた。

 おや。

 これはと思い、ベッドからピョンと降りると(実に身軽であった)大きな姿見へと向かった。

 そこに映っていたのはよく知った己の姿ではなく、一匹の黒猫の姿だった。

 

 

 

『猫の見る夢・前編』

 

 

 

 朝、目が覚めると私は猫になっていた。

 姿見の前でくるりんと体を一回転させて己の容姿を確認する。

 うん、猫だ。

 誰が何と言おうと正真正銘の黒猫だろう。

 みゃおん。

 試しに一声鳴いてみると、猫撫で声と言われるとおりの声が出た。

 さて、一体どうしてこうなってしまったのだろう。

 昨日何か特別変わったものでも口にしたかとも思ったが思い当たる節も無く。

 その後もふんふんと自分の身体をチェックしていると突然寝室のカーテンが舞い上がった。

「・・・?モーリス?居ないのか?」

「みゃ」

 入ってきたのは自分の想い人であるアルセーヌ・ルパン、その人だった。

 

「モーリスー?」

「みゃー」

 モーリスを捜して首を巡らす怪盗と、その足元をうろつく現在黒猫ことモーリス・ルブラン。

 もちろん怪盗は己の足に纏わりついてくる猫が捜し人なのだとは夢にも思わない。

 

「みゃー。みゃー。みゃー」

「あーーーっ、この猫公!うろちょろするな、踏んづけちゃうだろ!」

 ひょいと首根っこを捕まれて吊り上げられたかと思うと彼と同じ目線になった。

「まったくお前さんいつからここの住人になったんだ?この間来た時は見なかったが・・・

 俺はお前さんのご主人に用があるんだよ。お前の主は何処にいるんだい?」

「みゃ」

 どこに、と言われても。目の前にいるんだが。

 所在無さ気に一声鳴くと、今度は肩に抱き上げられた。

 ポンポンと頭を撫でられる。

「窓も玄関も開けっ放しで出てったのか・・・?相変わらず無用心な・・・」

「み?」

 あれ。そうだったか?

 昨夜は鍵をかけて寝たと思ったが。

「仕方が無い・・・出直すか」

 ほら降りろと言われて床へと身体を下ろされる。

 降りろと言われてもこの身体で一人残されてもちょっと困る。

 そうとは知らず、ルパンはさっさと踵を返して行ってしまおうとする。

 させるか。

「みゃー」

 

 がぶり。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・。みゃ。」

 

 がぶりと噛み付いたルパンの足首。

 口を外せば丸く穴が開いていた。

 さすが猫の顎。すごいな。

 ほー、と感心していると。

「こーの猫公!何するか!!」

「みゃッ」

 ガッと掴み上げられて、ルパンの顔の目の前に持っていかれる。

 顔が近い。

 ついでに彼の唇も近い。

「・・・みゃ」

 一度上半を引いたが、ふと思いついて彼の顔に近づいた。

 

 ちゅ。

 

「!おい、こら・・・」

「♪」

 この際だから彼の唇にキスをした。

 いつもの姿では恥ずかしいしだいたい彼から仕掛けてくるのでたまにはいいだろう。

 それに猫だから、惜しげもなく何度でも出来る。

 ぺろぺろと彼の顔を舐めると「止せ、くすぐったい」と言って彼が笑い出した。

 それでもなお舐めていると、あーわかったわかったと言われて引き離される。

「まったく・・・あーあーベロベロだな。そんなに俺が好きか、お前は」

「みゃおん」

 

 うん、好き。

 

 人間だったらなかなか言えない言葉も、猫になったらさらりと言える。

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら、頭をすりつけた。

 と、突然、くるるると音立てて腹が鳴った。

 そういえば朝食を摂っていない。

「・・・・お前のご主人に断りも無く連れ帰るのはどうかと思うが、どうやら腹も空かせてるようだし、一時預かりといこうか」

 しかしいい音だったなと笑う彼に、フーッ!と怒って毛を逆立てた。

 

 

「お帰りなさいませ、パトロン」

「あれ?パトロンそれって猫ですか?」

「パトロン、おっかえんなさーい♪」

「おかえりなさーい!あ、猫だ!」

 ルパンが己の棲家に戻ると愛部下たちがそれぞれにルパンの帰宅を迎え、ルパンの手土産にそれぞれ反応を見せた。

 一度に複数の人間に四方から覗き込まれて驚いているのか、猫はきょときょととして落ち着きが無い。

「こら、おまえら。猫が驚いてるだろ」

「どうしたんです?この子」

 ル・バリュがそっと猫の喉をくすぐる。

 猫が一瞬ぴくっとして、目を細める。

「ルブランの邸にいたのを持ってきた。芳黒、猫にミルクかなにかを持ってきてくれるか?」

 どうも腹を空かしているようなんだと告げれば小回りの利く少女はサッと部屋から飛び出していく。

「へぇ。じゃあルブラン氏の猫ですか?」

「さあなぁ・・・この間行った時は居なかったから何とも・・・ただの迷い猫かもしれないし。・・・っと、そうだ、マズルー」

「はい、パトロン」

 己に一番陶酔している部下の名を呼ぶとルパンは彼を招き寄せ、その耳に何事か囁いた。

「承知いたしました。すぐ調べます」

 何事か命を受けたらしいマズルーが、迷いの無い歩みでその場を後にしていく。

 その後姿を見送ってルパンが視線を戻すと。

 

「おい見ろ、コイツオスだ」

「猫のオスメス判別にそこまで股開きする必要ないんじゃないか?」

「ジルベール、猫さん、嫌がってるよ?」

「フーーーーッ!!」

 不躾に股開きされて怒った猫に、ジルベールが顔面に蹴りを喰らっているところだった。

 そのまま猫はジルベールの呪縛から逃れるとトタタタと走ってきてルパンに飛びついた。

「みゃおーん」

 抱き上げるとどこか力無げに鳴き声をあげて、ぐいぐいとルパンにその頭を押し付けた。

「よしよし、そんなに厭だったか?もう大丈夫だ」

 猫をあやしながら、嫌われたなお前、と鼻の頭に朱色の引っかき傷を作ったジルベールに向かって苦笑した。

 猫はというと、股開きがよほどお気に召さなかったと見えて、しっぽをゆらゆらと揺らしながら改めてジルベールに向かって毛を逆立てていた。

 その様子を眺めて笑う怪盗の表情に、一瞬の影が過ぎる。

 

 開け放たれた部屋

 朝からいないきみ

 あの家は確かにいつも開放的だけど

 どうしても感じずにはいられない違和感。

 

 この不安は、杞憂に終わるのだろうか。

 

 

 

NEXT

 あれまた続き物?(冷や汗;;;)
 長くなったから一端切っちゃったけど・・・
 早々に更新できるかどうかは未定だな・・・;
 というか、いきなりルブランが猫になっててすみません。
 さーてどう始末つけようか。(考えとけよ)
 始めたはいいけどぜーーーったい難産だ、この話。(爆)

 ブラウザバックプリーズ!

 07.11.25.TOWEL・M