ぼくは逃げなくてはならなかった。
何から、なのかははっきりとは分からなかった。
ただ、ぼくを追っている連中は教育者や研究者のようにきっちりしている人たちばかりで
だからぼくは何となくそんな機関の手から逃げているのかなと思った。
『逃げるミュータントと青い魚』
一緒に逃げている子たちも居た。
あれは同い年ぐらいの、女の子だっただろうか。
小学生の頃の同級生によく似ている、と思った。
そのうち一人が裏切って、ぼくらはてんでばらばらに逃げる破目になった。
陰湿で真っ暗な、閉鎖的なトンネルを疾走する。
走るぼくのまえに、一緒に逃げている女の子の背中が見える。
ぼくだけが、一足遅れを取っていた。
トンネルが、重い音を立てて動き始める。
トンネルの出口で、彼女が振り返ってぼくを呼んでいる。
トンネルの天井の一部が下りてきて、ぼくの上へと迫っていた。
その更に頭上、トンネルの上に、教師のような女を見つける。
直感的に、その女は敵だと感じる。その女も追っ手だと。
身を屈めながらギリギリのところでトンネルから走り出る。
開けたそこは、建物のあまり無い、工業用地用の更地のようなところだった。
乾いた土の間を、風が通り抜けていくのがわかった。
さらに走ると、今度は建物が見えてきた。
民家に住宅、そんなに高くないアパートのようなビル群。
けれどもどの建物も風雨に汚れ、染み付いていて。
本能的に誰もいないと感じた。
ゴーストタウンなんだ、ここは。
その建物の間に点在するように感じる人の気配。
追っ手だ。
おもいきり、ではなかった。
ぼくは、軽くつま先で土を蹴った。
ジャンプをするように。
ぼくは跳んでいた。
住宅街が遥か足下に見える。
オンボロアパートのビルも、ぼくの足の下だった。
ぼくは建物から建物へ、建物を踏み台にして
ぽぉん、ぽん、と空気のいっぱい詰まったよく跳ねるボールのように跳んだ。
空も景色も灰色だったけど、頬と舞い上がる髪が受ける風だけは本物で、ぼくはとても気持ちが良かった。
廃校になった学校のような建物の中。
ぼくは捕まっていた。
椅子に座らされ
椅子に体を縛り付けられ
両手を前で縛られて
あの女が立っていたような気がする。
他にも、ちいさな子がたくさん居た。
あの女が居なくなってから、ぼくはするりと縄を解いた。
ちいさな女の子がトイレに行きたいと言ったから、ぼくは手をつないで連れて行ってあげた。
学校のような建物を出る。
敷地内の庭に、油の池があった。
その中を、大きな、ちょっと変わった形の魚が一匹泳いでいる。
よりにもよって、どうして油の池でなんて、と思っていると人がやって来てその魚を池から出した。
開いた魚の口の中に、もう一匹ちいさな魚が居た。
よくよく見れば大きい方も小さい方も信じられないくらい綺麗な、美しい青色をしていた。
大きな魚は、脱皮をするところだった。
浮いて剥がれてきた皮を、人の手が手伝って剥いでいく。
皮はきれいに取れ、大きな魚はより美しく青く輝いた。
ふと気づくと、青くて大きな魚は人間の青年になっていた。
ショートヘアで、その髪は魚のときと同じで美しい青色をしていた。
こちらを見る目は細く鋭く
口元にもそれと同じくらい鋭い笑みが浮かんでいた。
窓枠に持たれかかり、こちらを見る。
彼の人差し指が近づいてきて、ぼくのおでこだったか鼻先だったかをピシッと弾いた。
END
もの凄い跳躍力で跳んだときに見た眼下に広がる景色と
大きな魚とその口の中に居た小さな魚のあの美しい青さが忘れられません。
あと、魚の青年バージョンはカッコよかった(笑)
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06.09.23.SUISEN