=どこかの世界にいるどこかの『私』の見る夢は、君が居る夢だろうか居ない夢だろうか。(ホムワト)=

 

 目を覚ましたのは221bの下宿での私の寝室。

 緩慢な動作で起き上がり、これまた緩慢な動作で階段を下りて雑然とした居間への扉を開ける。

 部屋に入るとおや?と思って首を巡らせた。

 雑然と物の散乱したその部屋に、自分以外の人の姿が無かったから。

 当然のように籐の椅子に座り、パイプを吹かし、新聞を広げているであろう姿が見当たらない。

 そこで私はああそうかと我が意を得たように呟く。

 

 ホームズは もう 居ないのだった

 

 「もう居ない」の「もう」が『世界中の何処を捜しても』に掛かることを、何故か私は知っていた。

 しかし私はその事実を悲観するでもなくあっさりと事実として認め、一人分の朝食の席に着いた。

 一人では広すぎるはずの部屋は彼が居た時と何ら変わらぬ有様で、むしろ一人で在るのにちょうど良かった・・・

 

 

 そこで浮いたような感覚と共に目が覚めた。

 目が覚めても、しばらく呆然と空を見つめていた。

 今の夢が、一瞬現実と思えたからである。

 ホームズが居ないという夢を見るのは今に始まったことではない。

 彼が三年の空白を経て戻ってきた後はまだ残る不安のせいかそういう夢を何度も見た。

 そのせいで彼に子どものように泣きついたこともある。

 最近ではほとんど見ることが無くなったのだが───今回の夢はそのときに見た夢とはちょっと違っていた。

 淡々とした調子で見たせいか、その夢は奇妙なまでに静かで、現実的だった。

 ホームズの居ない、別の世界に住まう私はああして暮らしているのかもしれないと思えるほどに。

 だから前のように頬を涙が伝ったりもしなかったし、不安に駆られることも無かった。

 

 でもなぁ

 

 ベッドから起き上がると、そのまま階下へと下りていった。

 居間の扉を開けると、籐の椅子に座りパイプを吹かし、新聞を広げていたホームズがこちらを見て目を瞠らせた。

「ワトソン?寝間着のままで下りて来たりしてどうしたんだい?」

 踏み入れた室内。

 足元に広がる散乱物は夢の中でも一緒だった。

 だが夢とは違い、籐の椅子にはちゃんと彼が腰掛けてこちらを見ている。

 

「うん、やっぱりこっちの方が合ってる」

「は?」

 

 こちらの意図など知らない探偵が抜けたような声を出す。

 なんでもないと言い置いて着替えてこようと背を向けたが、ふと思い当たって再び彼の方へ取って返す。

「ちょっ!ワトソン?!」

 ガサガサと音を立てて、新聞とホームズの間に下から割り込んだ。

 ホームズの膝上に乗ると、ちょうど彼を見下ろす感じになった。

 なんとなく満足して微笑む。

「まったく・・・なんなんだい?朝から」

 思わぬ私の行動に驚き気味だが、彼も満更ではなさそうだ。

 持っている新聞で、私を包む。ガサガサ。

 新聞紙の匂いに包まれながら、ガサガサと音を立てるそれに文句を言った。

 間に入ってきたのは君だよ。探偵が苦笑いで返す。

 

 やはりホームズの居ない居間よりは、彼が居る居間の方が似合っている。

 もちろんこの部屋は雑然としながらも雑然とした部屋らしい、居心地の良さを持ってはいるけれど。

 夢で見た彼の居ない居間は、物足りなさを感じた。彼が居て、丁度いいのだ。

 

「あー満足納得ー」

「・・・僕にはさっぱりなのだけれど?ワトソン」

「君はいいの知らなくて」

「気になるな・・・」

 

 知ったらつけあがるからダメ。

 でもまあこれくらいならと口付けをくれてやったのだが、そのまま彼の腕の中に閉じ込められてしまった。

 どうやら充分つけあがってしまったようである。

 

 朝から・・・とも思ったが、たまにはいいかと深くなった接吻けを甘受した。

 

 

 もしも、どこかの世界があるとして。

 どこかの世界の彼の居ない居間の光景をあっさりと受け入れているどこかの『私』へ。

 いま、この光景を夢として見ているかもしれないどこかの『私』に。

 

 彼が在ることの重要性を見せつけておこう。

 

 

 END

 久々に甘いですかホムワト(笑)
 詰まるところワト子の惚気ですね(爆)
 ホームズ、気持ちのいい朝のスタートです(笑)

 ブラウザバックプリーズ!

 06.04.16.SUISEN