『 七夕・2009 』
こんな小さな柄杓では
すくえる水は雀の涙。
けれども奔流する波間の向こうに
貴方の姿が見えるから
天が私を嘲笑おうとも、私がそれを辞めることは無いだろう。
濁流が何だ?
天帝め、小癪な真似を。
対岸の愛しい人は小さな柄杓を手に天の川の水を掬っている。
そうやって、川の水を掬いきってしまおうと言うのか。
いったい何年かかるやら
クスリとひとつ笑みを零して、
けれども愛しい人が本気でそれをしようとしていることは分かっていたから。
私は天の川の濁流へと、何度でも飛び込むのだ。
***以下、上記の絵に関連する小話。***
七月八日、朝。
「・・・このままずっと此処に居たらどうなるんだろうな」
星影から、白く辺りを焼き切って太陽が顔を出す直前。
対岸へと戻るよう促しかけた僕の衣の裾を握り締め、彼がそう呟いた。
それは僕がずっとずっと願っていたこと。
けれどあまりの愚かしさに胸に秘めた、星屑のような願い。
「何を言い出すかと思えば・・・」
呆れた口調は溢れ出る感情を誤魔化す為。
嗚呼、彼も同じように考え、想っていてくれていたのだと。
「散々試したじゃないか。君の居る岸辺に僕が行っても、八日の朝には元の岸に戻される。
橋の上に居たってきっと、」
同じこと、と敢えて落ち着きを見せて諭してみせても、彼は頭を振るばかり。
「橋が消えるまでは一緒に居られるだろう」
「それで本当にそのまま天の濁流に飲まれてしまったらどうするんだい」
「・・・どうもしない。それなら、それで」
さっきから彼は顔を伏せてしまっている。
おかげで夜を映した瞳が見えないのが淋しかった。
「・・・君だけは、助かってしまうかもしれないよ?」
何せ、天帝が愛しているのは君だけだもの。
その瞳と同じ、夜色の髪を指でそっと梳く。
動揺に揺れたそれは風に触れた笹の葉の様だった。
この橋だってそうだ。
嘆く彼を可哀想に想った天帝が挿(す)げたもの。
彼を想い、彼に会うために何度でも天の濁流に身を投じる愚か者のことなど、天帝は見向きもしていなかった。
だからきっと
二人一緒に天の濁流に飲まれたとしても、君だけは助かってしまうのだろう。
「・・・それでも」
暫く黙って俯いていた彼が、顔を上げる。
夜色の瞳に満点の星々が映り込んで煌くのに息を呑む。
今日の彼は、地上で出会い、暮らし、契り、天に昇り引き離され年一回の逢瀬を繰り返してきた日々の中で最も我侭だったかもしれない。
だから、と言うわけでもないだろうが僕は無性に彼のその願いを叶えてやりたくなった。
こんな愚か者、やはり天帝は救ってなどくれないのだろう。
世迷いごとのような願いを叶えてやるほど、天帝は甘くない。
だが困ったことに僕は彼にほとほと甘い。
どんなにくだらなく、どんなにちっぽけで、どんなに馬鹿馬鹿しい願いでも彼が望むのなら僕はそれを叶えてやりたい。
「しょうがないなぁ」
苦笑を浮かべ、どこか楽しげな様子になった僕を彼がきょとんと見つめる。
しょうがない、のは僕の方だ。
本当に、しょうがない。
どうしようもない。
「今日だけだよ」
そう言って、彼を抱きしめる。了承の証。
今日だけだよ、なんて。
今日しか叶えられないくせに。
けれどそれでも彼が嬉しそうに身を寄せて頭を僕の胸に摺り寄せるから
そんな自嘲も馬鹿げた考えも何処かに消えてしまう。
後のことなど考えるのは止そう。
ただ、願わくは、
───願わくは。
蒼い水晶球の向こうから白い光が顔を出す。
橋が消える。
いつもは濁流の体を擁する天の川も、この瞬間だけはまるで鏡のように静かになる。
星屑に還っていく橋。
その狭間で。
煌く水面に、ふたつの影が落ちる。
七月八日、朝。
END
日本の恋人の象徴のような織姫と彦星ですが実は夫婦なのよねこの二人って。
ちゃんと子どもも二人居るんだぜ。ルブが柄杓で天の川の水掬う云々はちゃんと原作?から持ってきた。
本家は彦星と子ども二人の計3人で変わりばんこに天の川の水を掬うんですが。
しかし皆、七月七日、一年に一度の逢瀬にしか目を向けないけどその後は?
いくら一年後また会える保障があるにしろ、対岸には愛しい人がいるんだぜ?
そんなすんなり別れられるはずが無いだろう!名残惜しいに決まってる!
というわけで上記の小話。
あえて七月八日の別れを狙いました(笑)
ルパンだったら天の川くらい泳ぎきれそうな気もしますが(ぇ)
そこはさらに上の天帝、所謂カミサマの力で作られた川なので、
どんなに泳いでも対岸に近づけないとかそういう意地悪な仕組みになってるといい。
もしくは対岸に向かって泳いでるはずが辿り着くのは自分の居た岸とか。
それでも諦めるような奴じゃないので、何度でも天の川に飛び込むのがウチの彦星ですが(爆)
***
そんな感じで七夕オンリー拍手でした。
髪結いルパンに意外と好評価を戴いてしまい、予想外の反応にきゃっほい☆となってました(殴打)
限定モノは描いてて楽しいですね。たとえ服の仕組みがどうなっているのか描いた本人にも分からなくても(ぇ)
ブラウザバックプリーズ!
09.07.14.TOWEL・M