犯罪界のナポレオンは手紙を踏みつけ、蹴散らし歩く。(モラモリ)
アームチェアに深く座り込み身体を預けながら、彼の人は手紙の封を開ける。
しかし目を通す気は毛頭無いらしく、封の切られた手紙は真っ赤な絨毯の上にバサバサと落ちていく。
彼の足元にはそれ以外の手紙も散らばっており、中には今現在足蹴にされているものもある。
そのほとんどの内容が新たな犯罪の報告だったり成功だったり失敗だったり、ごく稀に彼への崇拝的なものだったりする。
だが、盤上の駒を操るだけの彼はそんなものには興味が無いのだろう。
旨く行くか否かは彼にはだいたいの見通しがついているし、失敗するにしてもその後の後始末の算段までついている。
新たな犯罪は彼の頭の中で着々と構築済み。賛美や崇拝に関してはまあ、悪い気はしない、というものらしい。
彼の片腕を自負する私としてはその手の内容が一番面白くないのだが。
「やれやれ、またホームズか」
彼の口から零れ落ちた名に、ピクリと反応する。
シャーロック・ホームズ。要らぬ知恵を持ち、度々彼の人の仕事の邪魔をする。
彼は溜息と共につまらなそうにひらりと手紙を手から落とした。
「邪魔ならば、消してしまえばいいではありませんか。仰せになれば、あんな野良犬一匹、すぐに仕留めてみせますよ」
些か憤慨して私が言うと、彼はちちち、と指を左右にゆっくりと振って言った。
「飼い犬よりも野良犬の方が仕留めるのは難しい。それに、いまはいい。私にも適度な刺激が必要だ」
今のところ彼を危険せしめられるのはあの男だけなのだ。
ヤードなどは彼の存在にすら気づくことはない。
厄介なのは、あの男だけだ。
危険なのは。
「あれを消してしまっては、犯罪を立てるのも遂行するのも簡単になってしまう。
念を入れる必要はあっても念には念を、なんてものをしなくてもよくなる。それでは私が詰まらない。
より完璧な犯罪の為にも、障害は必要だ。そう、この世に未だ証明されない方程式があるように」
しかし、と言いかける私を彼は手で制した。
いつの間に書いたのか、二つ折りにした手紙を私に差し出す。
「これを出しておいてくれ。それから、その図体から想像もつかないほど美味い茶を淹れてくれ。一息つきたい」
「畏まりました」
受け取った手紙を手に踵を返す。
それにしても。
素直に美味い茶と言えばいいのに、相も変わらず可愛げのない方だ。
私は口元に形作るだけの笑みを浮かべた。
END
拙宅サイト初のモラモリ、だったはず(爆)
何のかんの言いながら、ホームズ同様、教授も脳にある程度の刺激を求めて
ホームズを割りと泳がせているといい。
それにしてもモランの外観が降りてきません(苦笑)
大柄で体躯がしっかりしてて黒髪で、見た目の割りに繊細な手つきでお茶を入れる。
現時点でのモラン像はこんな感じ。
ブラウザバックプリーズ!
08.08.22.TOWEL・M