エジプト土産(ルパルブ)

 

「やあ、モーリス。居るかい?」

「・・・・・・ラウール?」

「そう。『僕』だよ。久しぶりだねモーリス」

 

 書斎机から顔を上げてきょとんとこちらを見た彼に向かって、僕はニッコリと笑った。

 

 

 エジプトの長期に渡る冒険の為、彼のもとを訪れるこのもご無沙汰だった。

 その侘びも兼ねてだが、今日は彼に思いがけず手に入れたエジプト土産をやろうと思ってやって来たのだ。

 だが。

 

「やるのは簡単なのだけれどね。だが果たして、アレが君を気に入ってくれるかどうか」

「???」

 

 本来であれば彼が気に入ってくれるかどうかであろうが、こればっかりはそうもいかない。

 何せアレはナマモノなのだから。

 

「まあ、僕に懐いてくれたのだから、君も大丈夫だと思うのだけれどね」

「懐く?お土産って、猫か何か?」

「・・・まあ、ネコ科には違いないね」

 

 引き合わせた方が早いだろうと思い、クエスチョンマークを飛ばしまくるモーリスを尻目に僕はヒュウッと口笛を一吹きした。

 それを聞きつけてパテパテと入ってきたのは一頭のチータ。

 無駄なく付いたしなやかな筋肉が美しい。

 主人以外の人間を見止めると、チータはその美しい眼球をモーリスに向けた。

 さて、一方のモーリスはというと。

 

「おっきいにゃんこ。」

「・・・・・・・・・・・」

 

 この場に他に誰かいたのなら、思わず額に手を当てたのは僕だけじゃなかったろう。

 モーリス。君からすれば飼い猫も野生の猛獣も同列か。

 そしてこともあろうにモーリスはさっさとチータに近づくと、しゃがんで目を合わせた。

 

「ちょ、モーリスッ」

「にゃんこ♪」

 

 慌てて腰を浮かせた僕のことなど眼中になく、モーリスは両手でチータの首元をわしゃわしゃと掻き回した。

 チータはというとじいっと彼を見ていたがとくにガブリと行くことなく、彼の好きにさせている。

 心地よいのか、本当に猫のように目を細めていたチータだが、不意にその大きな舌でベロンとモーリスの顔を撫でた。

 

「うひゃあ」

『♪』

 

 撫でてくれた礼のつもりか、いや単純に彼のことが気に入ったのだろう。

 チータはベロベロとモーリスの頬をしきりに舐め出した。

 次第にチータがどんどん身を乗り出してきたおかげでモーリスは後ろにコロンとひっくり返ってしまった。

 

「わあ」

『♪♪♪』

 

 ひっくり返ったモーリスの上にチータは寝そべるように圧し掛かると、再びベロベロと舐め出した。

 チータにしてみれば新しい主人に懐いているだけだろうが、懐かれているモーリスにしてみれば堪ったものではない。

 

「にゃ・・・にゃんこっ、重いっっ」

 

 野生仕込みのたくましいチータに圧し掛かられているのだ。

 それは確かに重かろう。

 呆れて彼とチータの戯れを眺めていたのだが、そろそろ救出しないと彼が圧死か窒息死しそうだったので彼らの下へと歩み寄った。

 

「こら、チータ。お前の新しい主人が潰れてしまうだろう」

 

 後ろからチータを抱え込むようにしてモーリスから引き離してやる。

 少々不満げにぐるるる、とチータが唸ったがしぶしぶモーリスから身体を離した。

 モーリスが、ぷはっと息を吐いて上半を起こした。

 

「ちょっと苦しかった」

「ちょっとか?」

 

 猛獣に押し倒されたら誰でも死ぬと思うだろうに、その反応は何なのか。

 モーリスの場合、喉元を過ぎる前に熱さを完全に忘れている。

 だがまあ何にせよ、チータが彼を気に入ってくれて良かった。

 ちょっとした番犬よりも、不埒な侵入者たちにはかなりの効果があるだろう。

 

「僕はひとつ所に長居してられないからね。

 別にアレを連れて回ってもいいのだけれど、慣れない環境の中連れまわすのも可哀想だろう?

 だから君、アレを引き取ってやってくれないかな?いい番犬(?)にもなると思うしね」

「うん、いいよ・・・・」

 

 上半を起こした彼の傍に膝をつき、顔を近づけそう言うとあまりに近すぎる距離に少々顔を離しながら彼は了解の意を示した。

 仰け反る彼の身体。ニッと笑って彼の両足の間に身体を滑り込ませる。

 

「ラウール・・・・ん、むーーー」

「まったく。うっかりすると君はチータのものになってしまいそうだからね」

 

 仰け反りすぎて耐えきれなくなった上体を腕で支え、口を塞ぐ。

 チータが舐めたのは彼の頬だったが、息苦しさに耐えかねて開いた唇から侵入して、僕は彼の内を舐め回す。

 

「ん、ふ、むーーーーーーっ」

 

 チータがそうしたのと同じように彼の上に圧し掛かる。

 だがそれは決して獣の戯れではなく明確な意思を持って。

 

「チータは君の頬だけだったけれど、ね。僕はまだまだ君を舐めたり無いから、悪いけれどお付き合い願うよモーリス?」

「むぐぅ、ふぅ、うむーーーっ」

 

 すぐさま口を塞いだ為、彼が何と言おうとしたのかは判らなかった。

 だが彼の了承も拒否も聞く気は無かったのだからどうだって構わない。

 新しい主人を僕に奪われ、退屈になったチータがパテパテと扉の隙間を縫って立ち去る。

 

 後には愛し乱れる二匹の獣が残るだけ。

 

 

 

END

 ネタは南洋一郎贋作と名高い『ピラミッドの秘密』(ポプラ社版)より。
 現在は古書でのみ入手可能。なんで再版してくんないんだポプラ社。
 懐いたチータをパリに持って帰ってきちゃう怪盗も凄いけど(公式で、ですよ!/笑)
 絶対その後モーリスのトコに見せに行ってそう(てかお土産にしてそう)と思ったので。
 まさかチータをダシに事に及ぶとは思わなんだ!(笑)
 しかしこの話、舐めるって言葉言い過ぎだよね(爆)

ブラウザバックプリーズ!

 

08.11.25.TOWEL・M