神様の数字(番外日本:桃太郎&柳凪介)

 

 

 とおりゃんせ とおりゃんせ

 

 ここは どこの ほそみちじゃ

 

 

 神社の境内。

 子どもたちが意味も分からず無邪気に唄っている。

 文明開化の花が咲いても、ここだけは変わらずに鎮守の森の静寂に包まれている。

 ヤナ兄ィは言う。

 

「それもいつまで持つかの」

「持たないものなの?」

「さァの?」

 

 ふっと殊勝な口調になったかと思えば次の瞬間には煙を撒く。

 興を殺がれて、僕は遊んでいる子どもたちに目を移す。

 ひぃ、ふぅ、みぃ・・・・・・何気なく人数を数えると見える範囲でだが、七人いるようだった。

 

「うん?いかん、トウよ。今日は何日だったかのォ?」

 

 ヤナ兄ィにしては珍しく、幾ばくかの焦燥含んだ物言いだった。

 僕が七日だと答えると、ヤナ兄ィはスッと立ち上がった。

 

「やはりそうか。いかんいかん、帰るぞトウ。ほい、そこのワラシどももさっさと帰りゃんせ」

「ヤナ兄ィ、どうしたんだ?」

 

 急いで境内を後にしようとするヤナ兄ィの後ろに慌てて追いつく。

 

「知らんか?七はな、神様の数字なんよ」

 

 ヤナ兄ィはこちらを振り返ることなく足早に石段を降りる。

 

「四が死、六が魔なら七は神じゃ。七の付く日や時間に神社に居ったらいかんよ。

 神様が、自分への貢物だと勘違いなさって数えてしまう」

「貢物?」

「御神木、分かるじゃろう?あれは神様のモンじゃ。注連縄をして、それを示しとる。

 それとよく境内の裏手の一角が注連縄で覆われとるところがあったりするじゃろ。

 あれは聖域、あすこにあるモンは全部神様のモンじゃ。神様は七の付く日にあすこにある自分の持ちモンを数えなさる。

 あすこにあるモンは何でも、じゃ。そのとき、そこに人が居たら、それもそのまま数えられてしまう」

「数えられたら、どうなるの?」

 

 だいぶ降りた気がするのに、まだ下の鳥居に着かない。

 おかしい。

 この石段は、こんなに長かっただろうか?

 

「神様のモンになる。神様は、普通のモンには見えんから、その人も見えんくなる」

「・・・・・・・神隠し、っていうヤツ?」

「まあ、そんなモンじゃ」

 

 急ぐヤナ兄ィの背の向こうに、ようやく赤い鳥居が見えてきた。

 

「七の付く日に聖域に居ちゃ危ないのは分かったよ。でもヤナ兄ィ、それなら境内は大丈夫なんじゃない?」

「莫迦言いなさんな!あれを見ィ!」

 

 滅多に聞けないヤナ兄ィの怒鳴り声に、僕は赤い鳥居に揺れる注連縄を見た。

 

 

 とおりゃんせ とおりゃんせ

 

 ここは どこの ほそみちじゃ

 

 てんじん さまの ほそみちじゃ

 

 

 気がつくと、ヤナ兄ィと二人、鳥居の前に立っていた。

 いま目が覚めたかのようなぼうっとした頭で、傍をすり抜けていく子どもたちを茫と見送る。

 元気に駆けていくその後姿を眺めていてハッと気がついた。

 ───六人?

 子どもたちは、七人居たはずだ。

 慌てて子どもたちの数をもう一度数える。だがその後姿は何度数えても六人で、やがて見えなくなってしまった。

 

「兄ィ───」

「ああ、そいから」

 

 僕の言葉を、ヤナ兄ィが遮る。

 

「今日みたいな日でなくとも、七人で来るのもいかんよ。帰りに一人欠けとる、なァんてことになりかねん」

 

 じゃ、帰ろか。

 ふゥ、いかんいかん、我(わ)としたことが、危ないところじゃったわィ。

 頭を掻きながらヤナ兄ィは歩き出した。

 僕はゆっくりと石段の上を仰ぎ見る。

 境内には誰の気配も無く、ただ静かだった。

 

 

 いきは よいよい

 

 かえりは こわい

 

 ───こわいながらも とおりゃんせ、とおりゃんせ。

 

 

 

END

正月早々日本組。いや、日本だからか?
『7の付く日に山(神社)に入るな』とか
『7人で山に入ってはいけない・聖域(注連縄で囲ってある領域)に入るな』とか
神隠しの地雷日についてのお話でした。
皆さんもうっかり神様の地雷を踏まないようにお気をつけて。

ブラウザバックプリーズ!

 

09.01.11.TOWEL・M