=し垂る柳と昇る藤と(柳凪介&修行時代ルパン)=
日本という国に来て、この頭でいるのは失敗だったかな。
後にフランス全土を興奮と熱狂の渦に落とすことになる若き日の怪盗は、内心溜め息を吐いた。
闇夜の深いこの国にあって、僅かな月明かりにもそれは綺羅綺羅と輝く。
金糸のような髪を夜風に遊ばせていた異国人は、この国の夜盗の目に付いてしまったようだ。
(やれやれ、どうしたものかなぁ)
さっきから、辺りにコソコソとした気配を感じる。
それで隠れているつもりなのだろうか。モロバレだ。
夜盗と言うよりは、例えば自国で言うところの路地裏街に潜む能の無いゴロツキと言ったところが正しいのだろう。
言葉や文化が違っても、何処の国もそんな所だけは変わらないというのが可笑しい。
(まあこんな目立つ頭をそのままにしてる自分も悪いか・・・)
ちょい、と指で顔に落ちていた前髪を摘んでみる。
黒という色が影ではなく、固有の独立した美しい色として存在するこの国に、金という毛色は無い。
こちらに着いたのは夜だったし、さして気にも留めなかったがやはり闇夜にもこの髪は目立つのだ。
今更ながら前もって黒髪にしておくべきだったなと、二度目の溜め息を吐いた。
途端、それが合図だったとでも言うように周囲に黒い影が散らばる。
「・・・・何か?」
書物を読み漁って憶えた日本語を口にする。
「異人だな」
「すげぇ毛の色だな」
「女か?」
「デケぇもの、男だろ」
「でも向こうの女はデカイんだろ?それにコイツ細ぇ」
「女でも男でも上玉の方だろ」
取り囲んだ影が、ボソボソと何事か呟きあっている。
やはり例文のような言葉を覚えたばかりの身には、少し崩れた日常会話というものは巧く聞き取れない。
聞き取れないが・・・なんとなく雰囲気を察するに。
(値踏みされてるんだろうなぁ)
はぁ。今宵三度目の溜め息を吐いた。
「これそこの異人美人ー、溜め息を吐くと幸せが逃げるって言うでよ」
「?!」
場の空気が一気に緊張したものになった。
そこの、と言った割りにはその男は異人のすぐ目の前に立っていた。
いつのまにそこに居たのか、いつ現れたのか。
取り囲んでいたゴロツキたちも、その男がいつ異人と自分たちの間に現れたのか分からなかったらしい。
突如として現れたその男を、明らかに警戒した。
亜細亜人特有の穏やかな顔つきをして微笑みを浮かべているが、何処か読めない顔だと異人は思った。
「ほれ、うぬ等も知らん国で右も左も分からん異人を囲むなよってー」
その上ゴロツキらの言葉に輪を加えてこの男の喋る言葉はよく分からない。
どうも、特有の訛りがあるらしい。だが体の線も物腰も穏やかで、この国でも所謂『優男』の部類に属する方だろう。
「何をッ!いきなり出てきてなんだテメェ!!」
突然の介入者に、周りを取り囲んでいたゴロツキが一気に吼えた。
四方から襲い掛かってくる男たち──あっと思って見上げた異人の目に映ったのは、それでも穏やかに微笑う優男の姿だった。
正面から拳を振るってきた男のそれをするりと反転してかわすと、懐から出した扇子でその首に一刀を与える。
崩れ落ちたその姿が、優男の一撃の正確さを物語っていた。
「この!」
続けて憤慨した男たちが荒々しく向かって行ったが優男はハタハタと扇をはためかせながら、やはりするりと攻撃をかわしていってしまう。
まるで風に吹かれる柳の葉のようだと、異人は感心してある種の舞いとも取れる優男の動きを見ていた。
「やれやれ・・・はーもぉーキリ無いなぁ・・・」
ウンザリ、といった様子で優男は呟くとサッと異人の目の前に躍り出た。
「異人美人ー、逃げるでよー」
「えっ?あっ!」
優男は異人の腕を掴むと優勢だったその場を後にして駆け出した。
「ううーん、意外とシツコイやなぁ」
「・・・・・」
ひた走る異人と優男の後を、先程のゴロツキはしつこく追いかけていた。
「やれ、しょうがない。異人殿、あの橋を渡るっせ」
す、と優男が赤い手すりの橋を指差す。渡る、ということだろうか。
肯いてみせると優男は一足先に異人に橋を渡らせた。
そして自分も後から渡り終えると、同時に身を翻して持っていた扇を開いてきっかり二度、空を仰いだ。
するとどうだろう、鬼のような形相で後を追ってきていた男たちが橋に差し掛かると
ギョッとした様相になり、あられもない悲鳴をあげて、ほうほうのていで逃げて行ってしまった。
「・・・・?」
ワケが分からず隣の男の顔を見ると、扇で正面から隠したその口元は、横顔で哂っていた。
まるで、いい気味だ、と言わんばかりに。
こちらの視線に気づくと優男は先程と同じように柔らかな笑みを浮かべてみせた。
「異人、大丈夫やったか?」
「・・・大丈夫、です。ありがとうございました」
この国流に深々とお辞儀をして礼を述べると、「いい、いい」とブンブンと手を横に振られた。
「けっきょく走らせてしまったからなぁ。帰る方、分かるか?途中まで送ってくけ」
幸いまだ道は分かる範疇だったので、帰る方向を指し示して送るという言葉に甘んじた。
日本に来た理由を聞かれ、日本のジュウドウを学ぶためだと答えると勉強熱心だのうと感心された。
この国の住人と訪れた異人との、ごくごくありきたりな問答をしていて異人の脳裏にふと先程の光景が過ぎる。
「何、した・ですか?橋で、先程」
「んー?あーあれかー?」
片言ながら日本語を話そうとする異人に、気を良くしたのかのほのほと優男は笑った。
「・・・んまぁ、わざわざ外国に学びを求めるような熱心な異人さんには、知らんでもえぇようなこっちゃよ」
はたはた。
誤魔化すように、優男は扇を仰いで口元を隠した。
聞くな、ということだろうと理解し、異人は静かに目を伏して答えた。
その様子に優男は瞠目する。
「・・・おまいさん、見所あるのう・・・・・」
「?」
何を言われたのか分からず、曖昧に微笑んでおくに留めた。
気づけば住まいとする長屋に来ており、ここまででいいと言い改めてお辞儀した。
「なんじゃあ、ここかぁ?梅露んトコからすぐだんのぅ」
「?」
あんぐり口を開けて呆れたように言った男を不思議そうに見ればややあって手を横に振った。
「いやいや、よく出入りしとる家がすぐ近くでな。良けりゃ今度紹介するよって」
でも、と口ごもるとニハハハハと笑われた。
「どいつもこいつも変わっとるせェ、異人の見てくれなんぞ気にもせんて」
ほんではな、と背を向けた男に慌てて声をかける。
「あ!な、名前!!」
「柳凪介ー。凪いだ柳から生まれた男じゃーはははー」
まったばー♪
やはり分かりにくい日本語を吐露しながら、柳凪介と名乗った男はひゅらひゅらと夜の闇に溶けていってしまった。
残されたのは金髪の異人が一人。
「あ・・・名乗り忘れた」
時すでに遅し。だがしかしまた会いに来るような、家が近いなどというようなことを仄めかしていた。
とすれば捜せばすぐにも会えるだろうし、きちんと礼も言えるだろう。
しかし仮に名乗るとして。
「・・・しばらくは日本に住むんだから・・・・日本名を考えた方がいいかな」
異人は頭を掻きながら、長屋の戸を後ろ手に閉めた。
そんな異人が梅露・柳凪介・ヒヲムシ姉弟と懇意になるのはそれからそう遠くは無い先のこと。
END
詰め込みすぎてダラダラと長くなった気が;
ああああホントは柳凪介とルパンのタッグでゴロツキを倒させたかったのに・・・!
柳凪介言語はタイプミスの賜物です(爆)『まったばー♪』がその最たる例じゃないですかね(笑)
タイトルに昇る藤とあるのは「ルパン」の名前には『昇り藤(ルピナス)』の意があるのでそこから。
ちなみに「ルパン」には『狼』の意味もあるらしいですが、それはベシューの前でのみ発動です(�瑤А�!)
・・・思えばは●ぽたのルーピン先生もそこからですかね?あの人でしたっけ?狼だかになるの。(ルピナスはルーピンとも言う)
ブラウザバックプリーズ!
06.04.14.SUISEN