花よ、枯れていないのならばまだ。(ルパルブ・ルパンside)

 

 荒廃した庭邸。

 以前の様子を知るものが見たら、その変わりように唖然としたに違いない。

 いや事実そうだった。

 数年ぶりにルブラン邸宅を訪れたルパンは放心したように、しかし逸る思いで敷地内に駆け込んだ。

 

 ルブラン、モーリス。

 

 飛び込むなり方々(ほうぼう)に目を走らせ、囁きかけるようにけれども引き裂くようにその名を叫び続ける。

 いま、彼が見たいのは数年前、件の事件に旅立つ前に会ったきりの己の伝記者。

 己の訃報という形でしか知らせられなかった消息に。

 彼はどれだけ心を痛めてくれたのだろう?

 

 己惚れた、淡い期待を打ち砕くのは荒れた邸宅。

 いまこの家のこの惨状が、彼の悲痛な想いの表れ。

 

 ルブラン、モーリス。

 

 絹を裂くような悲鳴が庭に、邸宅内に響き渡る。

 一通り庭も邸内も見て回って、想い人の姿が無いことに半ば絶望を感じ始めた頃。

 ふと、庭先に出された白いベンチに座る人影を見とめる。

 

 モーリス。

 

 ようやっと見出した姿に声は上ずり引き攣れる。

 それは喜びであり、恐怖でもあった。

 ベンチの背に凭れて座るそれが、変わり果てた彼の姿だったりした日には私はもう発狂せずにはいられないだろう。

 

 そこまで思うのなら、何故もっと早くに帰らなかったのだ。

 そこまで想っているのなら、何故連絡のひとつも寄越さなかったのだ。

 

 いまはただ、取り返しのつかない後悔だけがガンガンと頭の中を打ち鳴らしている。

 私の後悔としてだけで終わるのではなく、その言葉で以ってしていまはただきみに責めて欲しかった。

 きみの口から、私を詰(なじ)って欲しかった。

 

 不安と期待で震えながら、彼の前に回る。

 それが朽ち果てた屍でなかったことに心底安堵しつつも、力ないその姿に顔面が蒼白になる。

 もとより色白な顔はよりいっそう白く透け、いまにも壊れ落ちそうに見えた。

 出会った当初から扱け気味だった頬も、その深さを増していて彼がどれだけ痩せ細ったのかを明白に告げていた。

 生きている証を感じたくて、腫れ物にでも触るようにそっと彼の身体に腕を回す。

 冷え切りながらもほんのりと含まれる温かさに、ああまだ生きているんだとそこでようやく安堵の息を漏らした。

 

 彼を抱きながら、今一度目線を上げて庭を見回す。

 数本植えてあった薔薇の苗木は見るも無残に枯れ落ちて、干からびた花弁だか枯れ葉だか判別つかぬものが風に煽られ舞っていた。

 まるでこれから冬でも迎える晩秋のような錯覚を覚えつつ、通りに茂る木立の緑に今は新緑萌ゆる季節なのだと意識して視線をまた隣の彼に戻す。

 

 何もかもが枯れ果てて最後にたったひとつ残った、この庭邸でもっとも大事で美しい、花。

 

 花よ、どうかまだ枯れていないのならば

 花よ、水を与えるから

 

 どうかその瞼の向こうにある瞳を見せて欲しい。

 

 花よ、枯れていないのならばまだ。

 

 白い頬に手を当て、少し乾燥したその唇に自分のものを重ねる。

 覚醒する彼を驚かさぬよう、努めて声を潜めて名前を呼んだ。

 

「モーリス・・・・」

 

 花よ、最後の一輪よ。

 哀れで愚かな道化の為に

 どうかもう一度だけ。

 

 きみが薄くその目を開けるのを待っている。

 

 

 

 END

 『今日、貴方の好きだった〜』の続きでルパンサイド。

 いっそベンチに座ってたのは朽ち果てた遺体でしたでも水玉は十分いけるんですが(爆)

 それをやっちゃうと当サイトに来てくださるルブファンが大変なことになりそうなので自粛。(笑)

 ルブの亡骸を腕に発狂するルパンが見たい。見隊。

 

ブラウザバックプリーズ!

 

 07.11.18.TOWEL・M