そして私はマッチの灯を吹き消した(20→明智)
真っ暗な穴の中。
貴方が外へと飛び出していく足音だけがこだまの様に響き返り
やがて静寂が訪れた。
その静寂を破ってシュッとひと掠り
ちいさなマッチに火を灯す。
暖かい橙の灯りが映し出したのは多くの酒樽。
闇と同じ色に身を包んだ男が一人、その酒樽のひとつに腰掛けている。
己の指先で燃え続ける灯りをじっと見つめる。
いま、この瞬間にこのわずかな灯火から手を離してしまえば完璧な闇が訪れるのだ。
人々の恐れる、しかし自分にとっては馴染みの深いあの闇が。
燃え尽きても、闇は来る。
燃え尽きなくとも、闇は来る。
事実私の周りはすでに闇ばかり───この灯火だけが、私がここに存在するのだと知らしめてくれている。
その唯一の灯火も、先ほど逃がしてしまったのだけれど。
闇の底から見上げた、走り去る瞬間の彼の背中を思い出す。
迷い無く駆け出す背中に安堵を覚えた。
それでもその背中に
『待って』と一言、言えたなら。
彼はどんな顔をしただろう?
莫迦げたことを。戯れもいいところだ。
自嘲気味に哂ったその己の顔が、いまにも泣き出しそうだったのを怪盗は知っていただろうか。
マッチの火が枝の部分を侵食し始めた。
燃え盛っていた炎はどこかひ弱になり、それでも消えんとして縋りつく。
まるでいまの自分のよう。
追い詰められ、それでも逃げようと往生際悪く必死にもがく。
いまではもう追い詰める人も無く、取り縋るその枝さえ今まさに自らの手で壊そうとしているのだけれど。
そこでふともう誰憚ることもないのだということに気がついて薄く唇を開く。
「・・・・・・好き」
秘め事のように囁いた言葉はそのまま闇に吸い込まれてどこにも届くことは無かった。
「好き」
それならばもういっそのこと、何度もとばかりに呟いた。
向かい合い、口を開けば緊張の内に叩く憎まれ口。腹の探り合いばかりで。
そんな言葉の中に、時折狂おしい本心を織り交ぜていたことを、彼は気づいていただろうか。
「好きですよ」
いいや。きっとそんなことは無いだろう。
世間を騒がせる、愉快犯のただの戯言と流していたことだろう。
だから私が居なくなっても。
あの人は何とも思わないのだろう。
世間を騒がせていた一盗賊が死んだ。ただそれだけ。
世界は平和に過ぎ行きて、めでたしめでたしのハッピー・エンド。
わたしはどこにも残らない。
人々の記憶にも残らない。
貴方の中にも残らない。
でもきっと
「それが正しいんでしょうね」
ジジ、と炎が焼ける音を立てた。
火は枝を持つ指先に近づいてきている。随分と時間を無駄に過ごしてしまったようだ。
思い馳せていた世界とは裏腹に、我に返った現実は相変わらず闇の底だった。
さあ、もう行かなくては。
もう、終わらせなくては。
そして私はマッチの灯を吹き消した。
私の命に灯火など無い。
闇だけが残る。
さようならを告げたくて。
けれどもそばに貴方はいない。
伏せられた目の端から、涙があふれる。
一瞬の空白の後、大地が呻いた。
辺りが明るくなったかと思うと次の瞬間には元の夜の闇に戻った。
それは真昼のようと言うよりも、大輪の火の花が咲き誇ったようであった。
私の命に灯火など無い。
私はどこにも残らない。
闇だけが残る。
END
二十面相はよく爆薬使って自爆してるんで、そのネタで。
だいたい次回作で帰ってくるパターンなんですが(笑)本気で死に間際のひとりぼっちな20が見たかったので。
でも考えてんのは明智のこと。明智大好きですから。伝わってないけど。(笑)
ちなみにこの20は攻めです(ぇ)
言わなきゃ攻めだと分からないヘタレ攻めな20に乾杯☆
ブラウザバックプリーズ!
07.11.06.TOWEL・M