彼 女 は ま だ 生 き て い る 。(レストレイド)
慈愛に満ちた愛情が
慈しみに満ちていたあの目が
ねっとりと絡みつく、執着に変わったのはいつだったのだろう。
『ジョージ』
長く美しい青灰色の髪が絡みつく。
母がおかしくなったのは父がいなくなったことがきっかけだったのだろう。
どうして父がいなくなったのかは知らない。
それほどまでに私はまだ幼かったし、成人した頃にはそれを母の前で口に出すことはタブーになっていた。
おかげで結局父に関しては誰にも聞けず終いになってしまった。
家を出たのか、病死でもしたのか。
所詮憶測は憶測でしかなく、父については想像の域に留まっている。
ただ、本当にまだ私が小さく幼かった頃には家族三人、
穏やかな日差しの下で楽しく過ごしていた記憶の片鱗が残っているから、幸せだったのだと思う。
その頃までは。
『ジョージ』
いつからだったのだろう。
母親から抱きしめられるのを
恐いと思うようになったのは。
物心がついた頃にはすでに母を恐ろしいと思うようになっていた。
母が私にくれる愛情は息子に対するそれではなかった。
ねっとりとした、それでいて空虚な目、視線。
きっと母はずっと夢を見ているのだと思った。
母のその夢の世界に、私のことも招き入れんとしているのだ。
母から与えられるものはすべてが粘着質で、それらは重く身体に絡み付いて地にはりつけられそうだった。
青少年と呼ばれる年頃には一時諦めにも似た感で母の世界に誘われてしまおうかとも思った。
だがそれも所詮は砂上の城。
退廃的な生活は、母とは違い生きている私には耐えられない。
そして私は家を出た。
母が死んだという便りを聞くまで、そう時間はかからなかった。
母の葬儀も埋葬もすっぽかした。
墓参りにも一度も行ったことは無い。
だから未だに私は母が墓場の何処に眠っているのかを知らない。
何故来ないのかと親族はしつこく責め立てたが彼らは知らないのだ。
私は知っている。
死者と一夜を過ごす夜、棺の傍らに座り冥福の祈りを捧げる私に向かって棺の中の母は手を差し伸べる。
そうやって死してなお私を捕らえようとするのだ。
ゴーチェが描いた美しい吸血鬼の娘のように。
重い墓石を押し退け土を掻き分け、愛しい一人息子の下へと帰ってくるのだ。
こんなのはくだらない妄想。
それは私にだって分かっている。
何よりそういった類のものが私は信じていない。
だが時折。
背後から、真っ白な腕が伸びてきて私を絡め捕ってしまうのではないかと思うのだ。
『ジョージ』
あのねっとりとした、異常なまでに優しい声で。
「レストレイド?」
「!」
恋人の声で目を覚ます。
そこは自室のソファの上。
「珍しいな、居眠りなんて。こんなとこで寝てると風邪引くぞ」
「ん・・・ああ」
言われて身体を起こす。
変な時間に変なところで寝たせいか。
頭が重く、妙に気だるかった。
じっとりと汗もかいているような気もする。
身体を起こして、軽く頭を振る。
それをやんわりと手が止め、引き寄せる。
いつのまにか回された腕の中にすっぽりと収まっていた。
「具合悪いの?」
「ん・・・いや、変なときに寝たから・・・少し頭が重いだけだ」
額に宛てられた手に己の手を重ねて大丈夫だと薄く笑う。
心配げに寄せられた視線。
額や髪にやんわりと落とされる唇に、大丈夫だと言っただろうと苦笑する。
実際、もう気分は悪くなかった。
背後から伸ばされようとしていた白い腕はいまや遠ざかり、
ここには自分を包み込む温かい腕があるばかりなのだから。
END
思えば最近小説も打ってないから軽くリハビリですねこれ;
レストレイド幼少話も交えつつラストはグレレスで。
グレグズン、名前も呼ばれてないけどまあいっか。(ぇ)
08.02.02.TOWEL・M