壊れゆく橋。(BB)
「だから、どうだと?」
バーネットは落ち着き払った声でそう言うと窓を閉めた。
閉めた窓の向こう。事件の現場となった小川から、
嫉妬と怒りで正気を失くした哀れな女が飛び込む音が聞こえたような気がした。
「あれでよかったのか?」
帰りの車の中で、べシューはバーネットに尋ねた。
「ん?新しい製造法の名前がか?」
「違う!!テレーズ・サン=プリ嬢のことだよ!!」
べシューに運転をまかせて少しまどろんでいたバーネットに、べシューは叫んだ。
「ああ・・・あの哀れな女がどうかしたのか」
「だからあれでよかったのかって・・・・」
ガクッと首を垂れるべシューにバーネットは「前見て運転しろよ危ないな」とごちた。
「死なせず法廷にでも立たせるべきだったか?
嫉妬と怒りで正気を失くしたあげく誤って実父を殺した女を?」
動機は利己的かつ自己中心的。
同情する点は何ひとつ無く、死刑も免れない。
それならば。
「自ら己の罪を悔いて死に走ったところで、結果は同じことだろう?」
隣の家の夫婦は無事互いの愛と平和を取り戻し、めでたしめでたし。
はい、おしまい。そう言ってバーネットはまた寝の体勢に入る。
「そうかもしれないけど・・・」
たしかに、事はバーネットの言うとおりなのだけれど。
これでよかったのかもしれないけれど。
「他に何とかならなかったのかなぁ・・・」
「何とかなるときは何とかなる。
だが、何ともならないときは何ともならない。
橋は壊れたんだよ、べシュー。」
そう、橋は壊れた。
橋が壊れ、サン=プリ教授が川に落ちた。
それがすべての崩壊の始まり。
───彼女は自ら向こう岸へと渡るすべを絶ってしまったのだ。
そして、壊れゆく橋はここにもある。
それは助手席で舟を漕ぎ始めた男と僕の間に架かっている。
壊れゆく、というよりはもう壊れているかもしれない。
かろうじて架かっているこの橋も、いつか壊れるときが来るだろう。
そのときは僕が彼の居る岸辺にいるのか。
それとも彼が僕の居る岸辺にいるのか。
それともバーネット。
これも、何ともならないのかな。
べシューはふるりと頭を振るとすぐに運転に意識を移した。
スピードを上げた車の悲鳴が闇夜に響き渡っていた。
END
『壊れた橋』を読んでないとわかんないやり取りかこれひょっとして;
出だしのべシューとバーネットの絡み具合(ここ重要☆)から事件の流れ、
そして事件のラストとトータルで一番好きかもしれません。
でも読まれてる方は少ないのかなこの作品。
何せ本国フランス版未収録で英米版にしか載ってないらしいですから。
なので邦訳版『バーネット探偵社』にも未収録。
ミステリマガジン05,11月号に邦訳が掲載されてるんで興味ある方はお取り寄せしてみては。
ちなみにこの号はルパン生誕百周年記念特集なのでよだれモノですよ。
ブラウザバックプリーズ!
07.06.06.TOWEL・M