時々、彼は僕のことを傷つけるのが。(ドリバジ/side.B)

 

 ドリアンは、時々僕のことを傷つけるのが本当に好きみたいだ。

 

 夜会の夜。やっぱり来るんじゃなかったと内心溜息を吐いた。

 そもそも夜会はあんまり好きじゃない。

 ましてや親友である男に中傷され、皆の笑い者にされるなど。

 

 周囲は皆、可笑しそうに笑っている。

 ドリアンも笑っている。僕には彼が何故そんなに楽しそうに笑うのかが分からなかった。

 皆、僕のことを嘲笑(わら)っているのだ。

 親友であるドリアンさえも。

 いや、彼こそが率先してその嘲笑いを誘っていた。

 アクアブルーの瞳が細められ、僕に向けられる。

 

 バジル、バジル、悲しいの?───と。

 

 もうこの場の話題は僕の頭には入らなかった。

 ただ、幾重にも打ち鳴らされた鐘のこだまのように嘲笑い声だけが響いていた。

 目が回るような気分だった。僕は気持ちの悪さを抑えて席を外すと庭へ出た。

 後ろではまだ嘲笑い声が響いている。

 

 噴水の傍まで来ると夜会の騒々しさは遠のいて、夜の下に僕一人となることができた。

 ひんやりとした風が心地よい。僕は安堵からひとつ溜息を吐いた。

 サァ・・・と風が吹き去り、無音無風の夜が刹那、訪れる。

 その瞬間。

 一気に目の前が濁り両頬を何かが伝い落ちていった。

 それは確かに僕の目から溢れ出したものだったけれど。

 まさか出てくるなんて思ってもみなくて、それが自分とは切り離された全く別のものに思えて。

 僕はしばし呆然として泣いていた。

 

 ああ、いま僕は悲しいのだ。悲しくて泣いているのだ。

 

 そう思った途端、今度は胸が痛み出した。

 胸のずっと奥の方を捻じ込むようなじわじわとした痛みに耐えかねて座り込む。

 止まらない涙と痛みを抱えて、ここが他人様の庭園であったことに気づく。

 この有様ではもう夜会に顔出しすることはできないだろう。

 泣き腫らした目はきっと真っ赤だ。

 このまま庭を抜けて、家へと帰ってしまおうか。

 そう思ったときだった。

 

「バジル?」

 

 後ろからした聞きなれた声にギクリとする。

 サクサクと芝生を踏みこちらに近づいてくる音に焦りが浮かぶ。

 

 ああ、来ないで。見ないでくれ、見られたくないと。

 

「・・・バジル?」

 

 見つけたように、確認するように降ってくる声。

 肩に置かれる手。彼がしゃがみこむ気配。

 

 だめだ、見られたら。

 また、嘲笑われる。

 だめなのに。

 

「・・・バジル」

 

 彼の髪が額にかかる。

 

「泣いてるの?」

 

 顔を上げるのが怖い。

 いま、彼はその言葉をどんな顔をして言ったのだろうか。

 様子のおかしい友を心配してくれている顔で?

 それともさっき皆の前で僕を笑い者にした顔で?

 

 それとも。

 僕が『うん』と言って顔を上げたら、彼はまた嘲笑うのだろうか。

 

「バジル、顔を上げて」

 

 顔を上げて、と彼は言ったけど僕の両頬を彼の両手が包み込んでそれは半ば強制的に行われた。

 見上げた視線の先にはドリアンの顔があった。

 彼は僕の顔を見てその綺麗な瞳を見開くとすぐに眉を寄せた。

 

 ああ、傷ついている。

 彼は傷ついている。傷つき泣き腫らした僕を見て。

 

 

 時々。

 

 僕は彼のことを傷つけるのが。

 

 

 

 END

 最初はバジルばっかズタボロに傷ついてる話を書こうとしたのにおかしいな。
 拍手小話じゃなくて一本の話として書けばオチで悩まずに最初のスタンスで行けたのかな。
 オチを考えてたら何故か最終的にどっちもどっちなことに。
 でもこの話で行くとバジルの方が腹黒くね?(笑)
 つーかこんな危ない橋渡ってるから最終的に壊れるんだよ二人とも!!(爆)

 ブラウザバックプリーズ!

 07.06.06.TOWEL・M