関白宣言 (ルブフェイ)

 

  ほんとにもう

 この人はいきなり何を言い出すのか。

 

 今日の芳黒はいつもの動きやすいチャイナ服ではなかった。

 行く場所がルブラン邸だったりルパンの見知った行く先ならばその必要も無かったが、

 今回はルブランと共に世間一般のサロンに出かけるため、着ている衣装を変えなくてはならなかった。

 なので今日の芳黒は西洋の衣服を身に着けていた。

 ルブランも普段とは違ってきちんと紳士着を着ている。

 芳黒がなぜ改まった服装でなければいけないのかをルブランに尋ねると、

 そういうところでそういうものだからだという返答だった。

 いまいち納得がいかないながらも、ふぅんと肯いててくてくとルブランに続いていった。

 

「凄い人・・・」

 

 芳黒は活気溢れるサロンの中を見てあまりの人の多さに眩暈を覚えた。

 一応その手はしっかりとルブランのズボンの裾を握っているのではぐれることは無いのだが。

 あらゆる場所で人々がそれぞれに輪を作り、それぞれに何事が語り合っている。

 それは政治経済から芸術、下は趣味と内容は幅広くあった。

 

「だからあまり来たくなかったんだ」

 

 ふーっとルブランが溜め息を吐く。

 その様子を首をめいっぱい逸らせて芳黒が見上げた。

 

「来たくなかったんですか?」

「人の多いところは好きじゃない。

 今日来たのは知人の作家がしつこかったからだ───

 それに私は書いてるモノがモノだから、偏に目をつけられる」

 

 ルブランがそう言う間に、周囲は色めき立ったご婦人や紳士たちで溢れかえった。

 迫ってくる長身の紳士や女性たちに押し潰されないよう、芳黒はいっそうルブランにしがみ付き、寄り添った。

 皆、話しかけてくる内容はそろいも揃って彼女の主人のことばかりだった。

 皆々が一様に、彼がヨーロッパ全土を駆け巡りフランス中の話題を攫う大怪盗の友人であることを羨み、誉めそやした。

 そうして皆必死にフランスの英雄の友人であるこの男から彼女の主人のことを聞きだそうとしていたが、

 この男はそれを知らぬ存ぜぬ図りかねると言ってはそつなくかわした。

 

「誰も彼も同じことばかり───辟易するだろう?」

 

 不躾な紳士淑女の輪からなんとか脱出して、サロンの一角でようやく休める席を手に入れるとルブランは芳黒にそう囁いた。

 周りのテーブルに聞かれないようにか、ルブランは芳黒に顔を寄せてくる。

 それに倣って、芳黒も顔を寄せ、小声で話す。

 まるで二人だけのナイショ話のようで、さっきまで人の波に疲れていた芳黒はここに来て楽しくなった。

 

「知ったところでどうするのってことばっか訊いて来るんですねみんな・・・」

「本当にな。謎は謎だからこそ掻き立てられるものだろうに───

 これで私が彼の日常をすべて暴露したらそれはそれで非難するんだろうな。全く都合の良い。」

 

 暴露する前にパトロンの日常まではルブランさんだって知らないじゃないですか。

 芳黒が突っ込むと、「まぁな」と言ってルブランが口角を上げた。

 そのルブランの表情に芳黒はドキリとする。

 普段あまりお目にかかれない正装で、これまた普段滅多に動かすことの無い表情に、

 意地悪げな笑みを浮かべるのは反則だ───と芳黒は思う。

 

「どうかしたか?」

「あ、いえ・・・」

 

 うっかり見惚れてしまったいた芳黒を不思議そうにルブランが見る。

 その視線を遮るように芳黒は大きく首を横に振った。

 

「さて、そろそろ帰るか」

「あ、はい」

「よぅ、ルブラン!!」

 

 ルブランが腰を上げて帰ろうとしたとき、一人の紳士が話しかけてきた。

 

「こんな場所に来るなんて珍しいな。もっと顔を出せばいいんだ。

 お前なら話題もあるし、すぐにサロンの華になれるぞ。」

 

 芳黒の目から見ても、その紳士は浅はかで、思慮に欠けていた。

 事実男の発言にルブランは目に見えて気分を害しているようだった。

 

「そんなことはない。こんな華やいだ場所で、話せる話題なんて無い。」

「またまた───おや?このおチビさんは?お連れさんかい?」

 

 そこで紳士が視線を落として芳黒を見た。

 揶揄(からか)うような軽口が、芳黒にも頂けなかった。

 だが、ルブランは芳黒以上にそれを頂けなかったらしい。

 

「この子か。この子は───」

 

 スッと芳黒の背に手を添えて。

 

 

「この子は、私の妻になる子だ。」

 

 

 ほんとうに、ほんとうにもう。

 この人は、いったい何を言い出すのか。

 

 ズドン、という効果音がついたような気がしたと思ったのは芳黒だけだっただろうか。

 よりにもよってサロン中に聞こえるように、宣誓も露わに言ったものだから、

 あれほど活気付いて騒がしかったサロンが一瞬にして静まり返った。

 言われた紳士も二の句も告げずにただ阿呆のように口をぱかんと空けていた。

 

「・・・ッ、るっ、るぶっっ、るぶらんさんっ・・・・」

「そうだな。では、我々はこれで失礼させていただこう。」

 

 何がそうなのか分からないが、芳黒はルブランに手を引かれてその場を後にした。

 引き止めるものは誰一人としておらず、ただただ全員が空いた口を塞げないままその後姿を見送った。

 

 

「ほんとにもうもうもう・・・ルブランさんは何を考えてるんですか・・・・・・!!」

 

 その帰り途、ルブランと手を繋ぎながら芳黒はずっと下を向きながらそんなうわ言を繰り返した。

 とてもではないが、顔を上げて歩ける状態ではない。顔は赤い染料で染めたかというほどに真っ赤になっていた。

 

「───芳黒」

「・・・・な・・・なんですか・・・・?」

 

 不意に名前を呼んだルブランに、芳黒は顔を上げずに答える。

 

「───厭だったか?」

「え───?」

 

 思わず芳黒は顔を上げてルブランを見た。

 だがその表情はいつもの無表情で何の感情も読み取れなくて。

 

「厭だったか?」

「え、いえ、あ、ヤじゃない、です・・・・・」

「そうか」

 

 妙に気圧されてしまった芳黒が呆けたままそう返すと、ルブランは顔の向きを前に戻した。

 

「今日は疲れたな。早く帰ってお茶にでもしよう」

「ホントに疲れました・・・・あまいものが食べたいです」

 

 さっきの嵐のような出来事も束の間、帰ってからのお茶の話に会話を弾ませる様子は、もういつもの二人に戻っていた。

 

 

 

 END

 終わりをどう結んだらいいのか分からなくてなんだか変な終わり方になってしまった;
 はい、ルブランが関白宣言を。(おまえを嫁に♪/違)
 私的にはサロン中を静まり返らせるルブさんを書けてご満悦です。
 してやったりー。(笑)

 ブラウザバックプリーズ!

 06.11.23.SUISEN