三月の残光。(ラフバニ)
それは体調の思わしくないバニーの療養の為に南フランスへ行く準備をしていたときのこと。
「───おや?」
簡素で物も少ないバニーの部屋を整理していると、一枚の小さな油彩画が出てきた。
それだけならば特に目にも留めなかったのだがそこに描かれていたのは───
「・・・・・これは僕、か?」
シンプルな木製の額に納められたキャンバスに描かれていたのは、僕だった。
背景はおそらく以前住んでいたオーバニーのアパートの部屋で、
描かれた窓の向こうにはまだ芽吹き始めたばかりの街路樹が見えた。
早春の光の中、少し白髪混じりの僕が新鮮で清々しい微笑を讃えてそこにいた。
「───ラッフルズ?居ないのかい?」
向こうの間から僕を呼ぶバニーの声が聞こえる。
けれども僕はその肖像画を持ったまま、そこから動くことができなかった。
何故ならそのとき僕は
『もしもぼくが──』
「───ラッフルズ───?」
『もしもぼくがペンで描写するのでなく、
画家がラッフルズの肖像画を描くとしたら、
この三月の輝ける朝に見た彼を描いて欲しいと思った───』
彼が綴ってくれた僕らの冒険譚の最終巻で補足された、僕が然る罠に落ちたときの話の一文を思い出していたから。
「ラッフルズ・・・?・・・・っあ!」
返事が無いのを不信に思ってか、バニーがひょこっと次の間から顔を覗かせた。
反射的にそれに振り向くと、バニーは僕が手にしているものを見てあっと声を上げ、そのまま硬直した。
「・・・・・ッ」
見る見るうちにバニーの顔が赤くなっていく。
ぎこちなく体が揺れるも、立ち去ることも目を逸らすことも出来ずにそこに居る、そんなふうだった。
だからバニーが破れないこの沈黙を破くのは、必然的に僕でなくてはならなかった。
「バニー・・・・これはその・・・僕、だよね?」
「・・・・・っ、う、や、その」
「───もしもぼくがペンで描写するのでなく、
画家がラッフルズの肖像画を描くとしたら、
この三月の輝ける朝に見た彼を描いて欲しいと思った───」
「!!!」
空で言えてしまうほどに何度も読んだ彼の文章をそのまま唇に載せて音にすると、
もう赤くなるところが他にないだろうと言うほどにバニーが真っ赤になった。
「・・・し、知ってたの・・・・・?」
「後の二冊は国外で、苦労して手に入れて聖書よりも多く読んだよ。・・・・頼んだのかい?画家に。」
油の効いていないブリキ人形のようにギクシャクと動く彼に平静を装って尋ねる。
動揺している彼は気づくまいが、このときの僕は感動に惚(ほう)けていた。
「・・・・・きみの物語を書いて得たお金でやった唯一の贅沢だよ・・・・・」
ぽそぽそと顔を俯かせながら恥ずかしげに呟いたその言葉が、さらに僕を喜ばせるとも知らないで。
いつだって君は僕が思っている以上のものを僕に与えてくれる。
「───まいったな」
「───?」
思わず漏らた僕の呟きに、不思議そうな面持ちでバニーが顔を上げてこちらを見た。
きっと彼には僕が何にまいっているのかなんて分からないに違いない。
───こんなに君に大事に思われて慕われて形にしてもらって。
僕はこれから、君に対して幾分でも何か返していけるだろうか。
「・・・ラッフルズ・・・・?」
いや、返さなくてはならない。
おずおずと名を呼びながら近づいてきた彼からは見えないように口角を上げる。
触れるほど側まで来て僕を見上げながら顔を覗きこんでくるバニーを突然に僕は腕の中に抱き込んだ。
この絵は持って行こうね、バニー。
そしていつか僕が一番だと思う君の肖像画と一緒に飾ろう。
まるで知れてはならない密約のように、赤くなった彼の耳にそう、囁いた。
END
バニーは、原作の端々で『どんだけ自分がラッフルズを愛しているか!』を語っちゃってるような気がします。
このラッフルズを肖像画で描いて欲しいっつーのもね!もうね!妄想の宝庫だよ!想像掻き立てられるよ!
ラフバニは相思相愛なんだけど、ラッフルズが少しバニーの愛の量を知らない感じ。
ラッフルズは『こんな自分』に対してバニーが『そこまで愛を』くれてるとは、思ってもみず、感極まるみたいな。
ラッフルズはスポーツマンシップはあるんだけど節操が無いんだよ。(ついでに常識も。)
なのでそんな感じでバニーを振り回してるんだから好かれて無いだろうみたいに思ってるんだけど実は!みたいな(笑)
ブラウザバックプリーズ!
06.11.23.SUISEN