いっそ大声で泣けるあの子が羨ましかった。(ヤード)

 

 捜査課はもうかれこれ、その報せが来てからずっとけたたましい泣き声で満たされている。

 その発信源は迷子の子どもでも男に捨てられた女でもなく。

 捜査課のデスクで、喉も裂けよ血も吐けよと言わんばかりに大泣きしているのはホプキンズだった。

 その横ではプライベートでも親しいブラッドストリートがおろおろしながらその様子を見ていた。

 常のブラッドを知るものならば、彼がそんな風にまごつくのを珍しく思ったことだろう。

 

「うああああん!!!」

 

 必死に宥めようとするブラッドを横に、それでもホプキンズは泣き止むことをしない。

 

 

 はぁ、と溜め息が聞こえた。

 まただ。これでもう何度目になるだろう。

 グレグズンは書類の山の合間からレストレイドのデスクを窺った。

 案の定、レストレイドは頬杖をつき、物憂げな視線を書類から逸らして伏せていた。

 その書類は普段のレストレイドならば五分とかからず終わらせられる内容のものだ。

 けれど今日はその書類にかれこれ一時間はかけている。

 ペン先も、さっきから一向に動いていない。

 インクはとうに乾いてしまっていることだろう。

 再び、はぁ、という溜め息がレストレイドの口から漏れた。

 

 見かねてグレグズンが席を立つ。

 けれどその彼のその動作も、普段より重たげだった。

 

「レストレイド」

「・・・・ああ」

 

 グレグズンのお疲れの声にも生返事。

 いつもならば、そんな暇があるのなら仕事をしろと言ってくるのに。

 

「・・・昨日、ワトソンさんのところに見舞いに行った」

 

 唐突に、しかしぼんやりとレストレイドは呟いた。

 行儀悪くデスクに腰掛けていたグレグズンは手を伸ばし、レストレイドの髪を梳きながらうん、と答えた。

 

「どうだった?」

「落ち込んでた」

 

 そこでまた、レストレイドははぁと溜め息を吐いた。

 

 ───つい先日だ。

 シャーロック・ホームズ氏の訃報がヤードに伝わったのは。

 

 その報せを聞いた途端、その場にいた全員がまさかと思った。

 彼の探偵を尊敬するホプキンズはその場で凍りついた。

 けれどそれは現場の状況から察するに明確すぎる真実だった。

 

「・・・きちんと捕まえられていればなぁ」

 

 小者だけでなく、きちんと、親玉さえ捕まえられていれば。

 それを容易にはさせてくれない相手だったのだから仕方のないことだと言えばそうなのだが、

 それでもしこりは残り、胸の内に深く沈んで溜まっていく。

 

「・・・遺体は?」

「収容は無理だそうだ。向こうからの報告にそう書いてあっただろ」

 

 読んでないな、とレストレイドがグレグズンを睨み上げる。

 はは、と力なく笑ってグレグズンがそれをかわす。

 

「読む気になんないって。ぜってー脱力する」

 

 脱力する。それはレストレイドも一緒だった。

 分かっているから、溜め息を吐く。

 

「もう、散々っぱら言われることも無くなったな、俺ら。」

「その代わり、助言をもらえることも、もう無い。」

 

 二人の間に、しばしの沈黙が流れる。

 溜め息を吐いたのは、同時だった。

 

「力ぬけるよなぁ」

「・・・全くだ」

 

 墓参りは二人で行こうぜ。

 一人だとぜってーやり切れねー。

 

 グレグズンの申し出に、レストレイドは力なく同意した。

 

 

「うああああああああん!!」

 

 

 ホプキンズの臆面も無い泣き声が、捜査課に響く。

 

 

 

 END

 ライヘンバッハでの探偵の死をダシに。グレレスというかヤードというか。
 この人たちだって、やりきれない感に脱力したに違いない。
 個人的に、復活したホームズにホプキンズが喜びのあまり抱きついてるといい。(笑)
 完全に親子の構図だ(^^)

 ブラウザバックプリーズ!

 06.12.29.SUISEN