あめ、あられ。(ルパルブ)

 

 書き上げた原稿を封筒に入れて使いに持たせて出す。

 今回も無事脱稿。

 〆切までまだあと二日ほどあったが元来決められた期日を破るのは好きじゃない。

 だからいつも日々マメに書き溜めて、〆切近くにバタバタする、なんてことは避けるようにしているのだが。

 今回は別の原稿とも〆切が近かった為、そうもいかなくなってしまった。

 それでも一晩の徹夜で済んだからよかった方だと思う。

 ああ、と欠伸とも溜め息ともつかないものを一つ零した。

 掛けていた椅子から立ち上がると、寝室へと赴く。

 そのままドサリと音を立ててベッドへと倒れるようにダイブする。

 いつもなら脱稿後はまず風呂だが、今日は睡魔の方が勝っていた。

 タオルケットと、シーツの感触が心地よくそれを後押しした。

 

 無意識の淵にどっぷりと沈みこんで、どれほど経っただろうか。

 ふと己の髪に、額に、頬に、首筋に。

 幾度も幾度も、けれどこのまどろみを害さぬように何かが触れてくることに気づく。

 ついばむようなそれはそれこそ雨あられと言わんばかりに降り注いでくる。

 

「んんん、」

 

 純粋にくすぐったさを感じて意味の無い声を上げて顔を逸らすが

 上から降り注がれるものを顔を背けただけで回避することなど出来るはずも無い。

 背けた瞬間に露わになったのであろう首筋を、ここぞとばかりについばまれる。

 

「んん〜〜〜っ!」

 

 逃れようも無い天上からの雨に、むずがって声を上げるとクスクスという笑い声が聞こえてきた。

 

「・・・?」

 

 形を成さず無意識の淵に融けていた私の体がだんだんと元に戻ってくる。

 おぼろげな形が形成された時点で、私はようやく、私は抱きしめられているようだという感覚に達した。

 誰かの腕の中で、誰かの手であやされながら、ずぶ濡れになることのない優しい雨を受けている。

 そこまでわかると、首を反るように巡らした。

 すると何か温かいものに形良くぽすっと納まった。

 毛布や羽毛の温かさとは違う、血の通った温かさ。

 確かめるようにしばらくそこでもそもそ動いているとどこかで『くすぐったいよ』という笑いを含んだ呟きが聞こえた。

 

 くるくるきゅー。

 

 ようやく居心地を確かめ終えて落ち着くと、唐突に腹が鳴った。

 そういえばここ二日ほどきちんとした食事を取った覚えが無い。

 腹が減ったなと思っていると寝床が急に震えだした。

 何かを耐えるようなその震えに、心なしかムッとする。

 

「・・・・おなかすいた・・・・・」

 

 夢心地に呟くと、それに答えがあった。

 

「起きたらレストランに食事にでも行こうね。」

 

 そうしてまた雨あられが落ちてくる。

 濡れる心配をしなくてもいい雨が。

 

「おなかすいたー・・・ねむいー・・・・おなかー・・・ねむいー・・・」

 

 再びぐずぐずと融け始めた感覚の中で、たぶんそのように唱えていた。

 だってその後、落ちる瞬間の意識は確かに苦笑交じりのその答えを聞いた。

 

 どっちかひとつに押しよモーリス、と。

 

 

 

 END

 脱稿後、ルブラン邸に現れたルパンと眠りの淵に沈むルブランと。
 ルパンがねぎらいの雨を降らせてます。
 いえ、単にルブランの寝顔が可愛いあまりとかそんなんじゃ決して無く!(笑)

 ブラウザバックプリーズ!

 06.12.02.SUISEN