加護のある夜。(BB)

 

 瞬間的に、ああ、これは寝ぼけているなと思った。

 だっていつもはあれだけ扉の前で躊躇する彼が何のためらいもなく部屋に入ってきたから。

 

「───どうした?」

 

 ドアを開けるなりぼんやりとただ影のように立ち尽くす彼に向かって、声をかける。

 逆光でその表情をよく見ることは叶わなかった。

 

「どうした───テオドール」

 

 普段は苗字で呼び親しんでいるのに、そのときは何故か名前で呼んだ。

 なんとなく、そう呼んでやった方が良い。

 そのときはそう思えた。

 案の定、彼の唇は確かに母を呼ぶように動いた。

 

「───眠れないのか?」

 

 尋ねるとこくんと肯いた。

 目が慣れてきて、彼の表情が闇から浮かび上がってくる。

 心もとなげな目をしていた。

 まるで

 

「おいで。いつまでもそうしていたら寒いだろう?」

 

 まるで、母の無い子のように。

 

 促すように両腕を差し伸べるとすすと寄って来てそのまま腕の中に納まった。

 体を斜めにずらすとベッドの中に少し冷えた体が潜り込んできた。

 毛先にかけてブラウンからブラックになっている少し特異な髪に手を置くと、

 それを甘受するのを表すかのように胸に顔を埋めてきた。

 

「随分冷えてしまったね。もっと早く抱きしめて上げられたなら良かったのに」

 

 両腕をいっぱいに使って抱きしめてやると、こちらの首に腕が回された。

 求めるように、縋りつくように。

 離れぬように、しがみ付くように。

 

「こわいのを、みたの」

「ん・・・?」

 

 不意にぽつりと呟かれた言葉に、優しく尋ねる。

 

「こわい、ゆめを、みたの・・・」

 

 子どもっぽい口調に、ああやはりまだ彼は夢の中にいるのだと思う。

 きっとそこはまだ怖い夢の中。

 下手をすればまた繰り返して彼を襲う。

 

「そうか・・・でも、大丈夫だよ。今度は、」

 

 今度は、僕がそばにいるから。

 

 だから、もう大丈夫だよ。

 そう耳元に囁いてやると、悲壮な表情が少し和らいだように見えた。

 大きく、ゆっくりと背中を擦ってやっていると、やがて規則的な呼吸音だけが室内を満たした。

 

 僕ではとうていあの偉大なる母の加護の手の代わりになどなるまいが。

 

「───それでも、君を抱きしめることはできるから───」

 

 きみが凍えないように

 怖い夢を見ないように

 たとえ絶望に目覚めても

 

 すぐにこの手に抱(いだ)けるように。

 

「だから今だけはここでおやすみ。」

 

 そう一人呟いて、僕は彼の額におやすみのキスをひとつ落とした。

 

 

 

 END

 

 久々か?BB。 ちょっとは進展したんだろうか(笑)
 好きな子ほどいぢめてしまうバーネットと、やたらバーネットに怯えてしまうベシューの
 両者のこの癖が改善されれば、幾らかは希望も見えるんじゃないかと思うんだがこの二人。
 そんなわけでバーネット、ベシューが前後不覚だと優しかったりします。(正気のときに優しくしてやれよ/笑)

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 06.11.23.SUISEN