特別な夜(ラフバニ)

 

 一人暮らしをしていると、季節感などはまるで無くなってくる。

 仮にも文芸を扱っているものが、そこでヴィヴィッドでなくてどうするんだと言われてしまいそうだが

 無いものは無いのだから致し方ない。

 季節感というよりも、行事ごとに疎くなっている、と言うのが的確か。

 まして自分は寄るべき家族も帰る家もない、一人身の存在。

 だから何故妙に街が賑わっているのか、本気で気づかなかったのだ。

 街中をラッフルズと歩いていたとき、ふとその疑問が頭に浮かんで真顔で尋ねてしまって彼に呆れられたくらいに。

 

 そうだ季節は12月。

 聖夜と年の瀬、そして新しい年を迎える準備をする月。

 

 だとしても、それらは本当に僕には関係なかった。

 聖夜の夜は共に過ごす家族や恋人こそあれば浮き足立ちもするだろうが、

 残念ながら僕にはもう家族はないし、睦み逢う恋人も居ない。

 何人かの友人たちはいるが、僕をパーティーに呼んでもつまらないだろう。

 そんな僕とは正反対に、ラッフルズは引っ張りだこだ。

 女性遍歴も凄い彼は、今年の聖夜を意中の女性と過ごすか、

 はたまたあちこちで開かれるパーティーの華となるか。

 きっとそのどちらかだろう。

 彼は何処に行っても話し上手で盛り上げ上手だから、

 彼のいるパーティーに参加できた人はきっと最高に楽しいだろう。

 

 さて僕はと言えばベッドの上に座って窓を開け放ち、冬の空気を体いっぱいに浴びている。

 特別な日の夜というものはなんとなく街も特別に見える。

 あちこちの家の灯がいつもより温かいように感じるのは、きっと聖なる灯をロウソクに燈しているからなのだろう。

 そんな特別な夜の街の眺めを、一傍観者のように上から眺めるのはなんだか気分がよく、わくわくしていた。

 こんな夜にさもしい行為だとラッフルズなら笑うかもしれないが、

 僕はこれで満足しているし満喫してもいるのだからいいだろう。

 そう思っていると。

 

「こんな夜に、祈りの灯のひとつも燈さなければ

 リースのひとつも無しなんて、ずいぶん淋しいことだねぇ、バニー?」

 

 背後から響いたよく知った声にビックリして振り向こうとしたが、できなかった。

 目の前に二本の腕が回されたのを見て、後ろから抱きしめられたせいだと知った。

 

「ラッフルズ?どうしたんだい、こんな夜に───」

 

 今年のクリスマスは恋人やパーティーに行かなかったのだろうか。

 見上げながら尋ねると、ラッフルズは辟易したような溜め息を吐いた。

 

「パーティーのお誘いなら五万と来たさ。でも、どうせ毎年やることは変わらないだろう?」

 

 ありきたりなパーティーの盛り上げ役なんて御免だね。

 女性からのお誘いだってそんなものさ。

 

「それよりだったらバニー、気心の知れた君のところへ避難するのが一番いいと結論付けたのさ」

「僕んちは君の避難所かい?」

 

 じとっとした目でラッフルズを見遣りながらも、僕は悪い気はしなかった。

 むしろ、どんな豪奢なパーティーよりも祝いの品など何一つ無い僕のところを選んでくれたのが嬉しかった。

 

「で、この寒いのに窓を全開にして、何を見てたんだい?」

「街だよ。今日みたいな特別な夜だと、いつもと違ったふうに見えるんだ」

 

 ほら、どの家もロウソクの灯りが多いんだろう、灯りがいつもよりあったかく見える。

 そう言って僕は窓の外の街を指差した。

 

「なるほど、これは確かにパーティーなんかに出てちゃ見れないものだな」

「いいだろう?聖夜の街を独り占めだ」

 

 得意になって笑みを零すと、そのまま上から柔らかい感触が降りて来た。

 

「ふぇ?」

 

 一瞬のそれが何だか分からなくて、僕がぽかんとしていると。

 

 

「Non、バニー。今宵はふたり占めだ。」

 

 

 ラッフルズが気障にそう言い放って、僕の唇を塞ぎがてら僕をベッドに沈めた。

 ベッドのスプリングが軋む音が、特別な夜の街に聞こえなかったかどうか。

 僕はそれだけが気になってならない。

 

 

 

 END

 過ぎたけど聖夜ネタ。
 季節は巡るから思いついたときに出しとけ、みたいな。(笑)
 実際一人暮らししてると行事ごとには疎くなります。
 水仙も、12月にクリスマスがあって今年終わりだということに気づくのすごい遅かった(笑)

 ブラウザバックプリーズ!

 06.12.29.SUISEN