おれをはねつけた愛、それゆえ破滅を招く愛。(リパハル)
おれをはねつける愛
おれは切り裂きジャックだって言ってんのに。
いつだって『おれの女』は、おれの言うことをはねつけておれを愛す。
「だーかーら、おれは殺人狂、切り裂きジャックだって言ってるだろ?」
信じてねぇの?
いや、信じられねぇのは無理もねぇと思うけど。
でも、これは冗談じゃない。
「だーかーら、別にそんなのどうだっていいって言ってるでしょ?」
アンタ、あたしに怯えて欲しいの?
キモノにゲタ、というイデタチで、低い塀の上をバランスを取りながら『おれの女』は歩く。
足滑らせて落ちたらどうすんだ、というおれの心配も何処吹く風だ。
いつもそうだ。
ハラハラしてるのはおれだけで、『おれの女』は落ち着いている。
おれをはねつける愛
「べつに、そういうわけじゃねぇけど」
でもたいがい、殺人犯だなんてモラルの無ぇヤツだと知っても驚かねぇ、何も変わらねぇなんて無いと思うけど。
『おれの女』の反応はいつだっておれを拍子抜けさせ、おれを驚かせる。
「人、殺してんだぜ?しかもズタズタ☆」
「何人?」
「切り裂きジャックでいけば4人。それ以外にもちょこちょこ殺ってっけど、もう覚えてない。」
「ふーん?」
「ふーんて、お前」
フツーの女だったら、表情強ばらせてダッシュで逃げるとか、何かそれらしい反応をみせてくれるんじゃないですかねぇ。
けれど目の前の女は、「おっとっと」などと言いながら塀の上を歩きながらバランスを取っている。
その細い体が傾ぐたび、慌てて手を伸ばす自分も恨めしい。
「捕まる気は無いんでしょ」
「勿論。っつーか、ヤツらこそおれを捕まえる気があるのか怪しいね」
ハッ、とおれは失笑して揶揄を零す。
警察の無能ときたら呆れ果てて、ついつい哀れむような目で見てしまう。
おれがあれだけ証拠物件やらヒントやらを残して行ってやってるのに、ヤツらはそれをそうだと見出せない。
警察から逃げるということが、これほど簡単なものだなんて、思ってもみなかった。
正直、警察の手から逃れるというスリルも期待していたのだから。
「じゃあ、いいじゃない。べつに。」
「何がだよ」
気がつけば『おれの女』はおれの方に体を向けていて、「おろして」と手を差し出している。
やれやれと溜め息を吐きながら、おれは女に手を差し出してやる。
「自首するかどうかの相談なら別だけど、アンタはそんな気無いし。
ただ、アンタが殺人狂だってことをあたしに言っときたかっただけでしょ」
女の脇に手を添えて、抱きかかえるようにして地面に下ろす。
「それにね」
と、同時に女とおれの距離は縮まり、ほどなくゼロに近くなる。
「それにね、どうせ百年も経てば誰だって居なくなんのよ。アンタも、あたしも。アンタが殺した人たちも。」
だからアンタが殺人狂だからって、たいした問題じゃないの。
アンタが捕まらずに百年経っちゃえば、切り裂きジャックの正体は『永遠に謎』、よ。
だってどんなに頑張ったって、百年後の世界にアンタは居ない。
もちろん、あたしもだけど。
「そりゃー・・・そうなんだけど、ね」
おれは『おれの女』から手を離せないまま、優しく晴れた青い空を見ていた。
おれをはねつける愛。
おれの言うことをはねつけて、おれを愛す愛。
おれをはねつけた愛。
それゆえ
破滅を招く、愛。
それじゃあ破滅を招いたのは彼女だったのか?と訊かれれば
おれは迷わずノーと答えただろう。
もっとも、百年経ったらそんな言葉も残らないのだろうけれど。
END
タイトルは『切り裂きジャックの日記』で紹介された切り裂きジャックが書いたと思われる日記の詩から。
最初は狂気染みていた内容も、後半になってくると落ち着いてきて愛を語る詩が目に付きます。
根が優しい男が変身して怪物になったとしても、所詮は優しい男。
正義の味方だって、変身して強くなった後は、元の自分の姿に戻るのです。
ブラウザバックプリーズ!
06.09.20.SUISEN