仮眠室の入院患者(グレレス)

 

「・・・・だからなんでコイツは何もかけずに寝るんだ・・・・」

 

 薄暗い仮眠室の中、レストレイドは毛布ひとつかけずに倒れるように横になって眠るグレグズンを見て溜め息を吐いた。

 自分にはやれ寒そうだなんだと言って温めようとしてくるくせに・・・いやそれは今はどうでもよくてっっ

 一瞬夜の情事を思い出してしまってレストレイドはぶんぶんっと頭を振った。

 と、そのとき眠っているグレグズンの口から熱っぽい吐息が、はぁっと漏れた。

 

「・・・・・?」

 

 しゃがみこみ、グレグズンの顔を覗きこむ。

 その顔はなんとなくじっとりと汗ばんでいるようで、おまけに眉間に皺まで寄せている。

 普段ヘラヘラと力の無いグレグズンとは違った少し苦しそうな表情に、レストレイドは心なし慌てた。

 

 熱があるのか?

 

 額に手を当ててみると、ほんのりと熱い。

 実際触れてみれば汗ばんだ感覚が直に伝わってきた。

 

 なんで医務室に行かないんだ!コイツは!!

 

 手を離して何か冷やすものでも持って来ようとした途端、その手をグッと掴まれた。

 

「・・・・んぁ・・・レストレイド??」

「・・・ああ・・・起きたか?」

 

 ぼうっとした目でグレグズンがこちらを見ている。

 その目にも、熱に浮かされた色が映っている。

 

「・・・具合が悪いなら仮眠室じゃなくて医務室に行け。面倒だろ」

「ああ・・・さっきまでは別に悪くなかったんだけど」

 

 熱っぽいな〜などと言いながら右手で髪を掻き揚げたグレグズン。

 その右腕を見て、レストレイドが悲鳴を上げる。

 

「おま・・・その腕!」

「あ?腕がどっかした?」

「血、出てるぞ?!」

 

 グレグズンの右腕のシャツは、真っ赤に染まっていた。

 レストレイドはすぐさま腕を捕まえると、シャツをめくった。

 腕には包帯が巻かれていたが、もうその意味を成してはいなかった。

 

「どうしたんだ?!この怪我!!」

「あ〜今日現場行った時・・・容疑者、取り押さえる時ナイフ持って暴れて・・・」

「なんで、言わない!!」

「ワトソンさんが現場でおーきゅーしょちしてくれたからだいじょうぶだとおもったの・・・」

 

 最後はだるさと眠さが相まってか、呂律が回っていなかった。

 応急処置はあくまで応急。

 フツーはその後きちんと診てもらいにいくだろう。

 

 ああもうなんだってこいつは───

 

「・・・おまえ、署内で容疑者が凶器持って脱走した時も怪我してたよな」

「うん〜・・・?」

「この前は足に銃弾喰らってたし」

「あれはかすり傷〜・・・」

「今日は今日で腕を血まみれにしてくるし」

「・・・・・・」

「ひょっとしなくても怪我性か、おまえ・・・」

「・・・・そっかも」

 

 いつのまにかベッドで座っていたレストレイドの膝の上に、へらんとした笑みを浮かべてグレグズンが乗り上げてくる。

 そのままレストレイドの腰まわりにしがみついて、もそもそと体勢を整える。

 熱のせいか、完全に意識が浮ついている様子だ。

 

「おい?腕、手当てし直さないと・・・」

「このまんまでいい〜」

 

 このまんまでいいって、良くないだろ。

 困り顔でレストレイドが否定しても、当の本人は寝の体勢に入ってしまっている。

 そして数秒も立たないうちに規則的な寝息が聞こえてきた。

 しっかりとグレグズンが腰にしがみついてしまっている為、動こうにも動けない。

 それでも腕の様子だけでも見ておこうと、レストレイドはべっとりと血のついた腕を取った。

 出血は一時的なものだったらしく、もう止まっている。

 だからと言ってこのままにしておいていいものでもないだろう、と逡巡する。

 

「・・・アルセニーあたりが来てくれないかな・・・無理かな・・・(ボソリ)」

呼んだか?

 

 ホントに来た。

 

 振り返ると、仮眠室の戸口からアルセニーが顔を覗かせている。

 

「悪いが、救急道具一式持ってきてくれないか?」

「洗面器と冷たい水とタオルも要りそうだな」

「ああ、頼む」

 

 レストレイドがグレグズンの様子を指しただけでアルセニーは事を得たらしく、用件を述べるとすぐに頷いて引っ込んだ。

 ・・・・・グレグズンのつけた『魔王』というあだ名がただのあだ名でなくなってきてるような気もしないでもないが。

 ひとまず憂い事がひとつ減ってレストレイドはホッと胸を撫で下ろして自分の膝の上で眠るグレグズンに目を落とした。

 その寝顔は飄々として掴み難いいつもの印象と違って、安らかだ。

 

「・・・あんまり心配かけるようなことで人を驚かすなよ・・・・」

 

 レストレイドは苦笑を零しながらそう呟くと、細く流れる金糸をさらりと撫でた。

 

 

 

 END

 ちょっとぐだぐだになっちゃったかな?
 致命傷になるぐらいの怪我だったら、もうちょいいろいろやれたような(ぇ?)
 いやでもアルセニーが美味しいトコ攫ってきました。
 ずっと居たんですかアナタ(笑)

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 06.09.22.SUISEN