同じ世界を見ている。(ラフバニ)
僕がクリケット・クラブに行くときにはバニーが必ずと言っていいほどよくついてきた。
と言っても彼はクラブに入ってはいないし、ただクリケットの試合を眺め、僕の休憩時に僕と話をするぐらいだ。
正直、僕にはバニーがいったい何を楽しみにここへ来ているのか分からない。
そう思うのは、僕がクリケットの名手でありながらクリケットのみに凝るタイプでなく、
また自分が出ない試合には全く興味を示さない、という少々特異な性質を持っていたからかもしれない。
そんなある日、僕は試合中に誰かの視線を感じた。
そのとき、僕は投手として試合に出ていた。
試合を観戦する客の視線というのは投球されるボールを追って行くものだが、
その視線はボールが僕に回ってこようとなかろうと、常に僕だけに向けられているのである。
いったいこの視線はどこから来るのだろうと、ふと仰ぐようにあたりを見回すとクラブハウスの上に見慣れた人影が映った。
バニーだ。
いつもは下の席にいる彼が、いまはクラブハウスの上にいる。
そして遠いながらも、その視線は僕だけに向けられていて、思わず僕がまっすぐに彼の方を見つめてしまったことで
僕の視線と彼の視線がばっちり重なったような錯覚を覚えた。
それは一瞬の出来事で、僕はすぐに試合に集中し出したからもうバニーの方を見ることはなかった。
見ることは無かったが、僕はその追ってくる彼の視線を肌身に感じていた。
僕が得意なのはブレークと呼ばれる変化球だった。
一見すると変化球を投げているようには見えないフォームから変化球を飛び出させ、
打者の足下すれすれを狙い、ウィケットを斜めに直撃させる。
僕のクリケットは体のスポーツというよりはすべて計算しつくし、確実に落とす、頭脳のゲームだった。
そして僕のそんな一挙手一投足を、どれひとつ零すことなくバニーの視線が捉えているのだ。
僕の試合中の動作を観察して彼が何を思っているのは分からなかった。
しかし自惚れていいと言うのなら、それは確かに僕だけに向けられる視線だったのだ。
他の選手が投手(ボウラー)となり、僕が野手となったときでも、彼の視線は僕ただひとりを追っていた。
また彼は他の投手がウィケットを倒しても何の反応もしなかった。
他の観客はこちらのチームに得点が入れば沸き立ったが、彼は僕が投手として得点したときのみ歓声を贈った。
あるときバニーがおらず、僕が出る試合が無かったとき、僕はクラブハウスの上に上ってみた。
そこで見ると、余計なものがまったく見えないことに驚いた。
そこはまさに投手(ボウラー)の世界だった。
しかし同時にそれは僕の見る世界であったし、バニーの見る世界でもあった。
以来、僕の球場を見る目が変わった。
投手として立つとき、その世界はとても広く意味あるものに見えた。
僕ひとりが見ていたと思っていた世界が、もう一人、同じ世界を見ているものがいるのだと思うだけで
球場の空は高く伸びて、グラウンドの土が映えた。
世界観の共有?
監督と監督助手?
エンターテイナーとその観客?
なんでもよかった。
それだけで僕の世界は厚みが増した。
試合終了のベルが鳴る。
気づくと僕は一人で高得点を上げていた。
試合に夢中になって何得点上げたか数えていないことはあっても、試合中どんな動きをしたかも覚えてないなんて稀だな。
そう思いながら、僕はクラブハウスの方へと足を向け、そして見上げる。
「今日の『僕の世界』はどうだった?バニー」
僕がにっこり笑ってそう言うと、バニーは最初きょとんとした顔を見せたがすぐにその頬を紅潮させて笑った。
きみと同じ世界を見ている。
END
ラッフルズがクリケットの名選手なのでその辺ピックアップしておきたかったんです。
なので消化不良なのは割愛してくださ・・・(殴打)
ラッフルズがどこへ行くにもちょこちょこくっついてくるバニーが愛しい。(っつーか可愛すぎる・・・!!)
ブラウザバックプリーズ!
06.09.21.SUISEN