異端児 =グレグズンという男=
「グレグズン」
「置いといて〜」
馴染みの声に、いつものことだろうと能天気に返事を返す。
「アホか、仕事だよ。現場だ、現場」
「・・・・・・・現場?」
上からのご使命だ。
そう言ってピーターが、立てた親指をクイッと保安課の出入り口へ向けた。
異常なものとでも接するかのように敬遠するくせに、面倒ゴトはほいほい押し付けてくる。
グレグズンは体を丸め、冷たい風にパタパタとコートをはためかせながら街を歩いていた。
押し付けられたのは殺人事件。殺されたのは若い女性。
凶器も犯人の遺留品もあり、早々の解決を見込まれておきながら事件発生から三ヶ月経ったいまも未解決のままだ。
どうせなら一ヶ月経った時点で回してこいよな。ったく。
人通りの多い通りから一本細い通りに入る。
そこからしばし歩いたところにある小屋のような家が現場だった。
家の前では少し年老いた警察官が一人、立っていた。
グレグズンが歩いて来るのを見止めて、いま一度紀律を正す。
「おっちゃんが担当さんでいーのかな?」
「はっ」
「んじゃあさ」
道脇に積んであった木箱にストンと腰掛ける。
「ひとまず事件概要と分かってること、ぜーんぶ話してくんないかな」
こまかーいところまでね。あっ、おっちゃんも座っていいよ。
突然そんなことをまるでこれから談笑でもするかのようなノリで言われて老兵は一瞬戸惑ったが
この男が腕利きの刑事であることはすでに承知だったので、言われたとおり話し始めた。
「・・・・───・・・と、だいたい、こういった内容です」
「ふうーん」
警察官の話を頬杖をついてフンフンと聞いていたグレグズンは、一応納得したように肯いてみせた。
「ん!ありがとおっちゃん♪だいたいわかったv」
すっくと立ち上がるグレグズンに、老兵はうろたえた。
「え、わかったって・・・」
「んじゃオレ行くから。あ、二週間後にもう数人警察官連れてここに来といてね〜」
ひらひらと警察官に手を振って、グレグズンは現場に足を踏み入れることなくその場を去った。
それから二週間弱、グレグズンは事件のあった現場の界隈で遊びに遊び倒した。
酒屋でたった一杯の酒代をどっちが奢るかでその場に居たゴロツキとコインをしたり、
あるいは路地裏を駆け回る子どもたちに付き合ってごっこ遊びをしたり
または温かな日差しの中で縫い物をする老婆の語りに付き合ったりした。
ともかくその間、捜査らしい捜査というものをすることはなかった。
そして二週間後。とあるアパートの前。
コンコン、というノックの後、ドアが開いて中年の女が顔を出す。
立っていたのは金髪の見知らぬ男。明るい緑の目が軽々しい印象を与える。
思わず顔を顰めて訝しむ女に、男はにっこり笑って告げた。
「アナタを逮捕しに来ました」
女は一瞬表情を硬直させたが、すぐさまドアを閉めようとした。
だが影に隠れていた警察官の手によって、それは遮られた。
女の喚く声だけが、酷く耳障りに辺りに響いた。
女の部屋からは次々に証拠が見つかって、さらに決定的となった。
「事件の概要聞いただけでも浮かんでくるのはアナタだけだったんですケドね。
いやぁ、あの界隈の人たちが口にする話って言ったらアナタのことばっかりで、びっくりしちゃいましたよ」
まさかボケたばーちゃんまで語りだすとは思わなかった。
あーこれもだ。持ってって。
数人の手際の良い警察官たちにてきぱきと指示を出しながら、暴れて押さえつけられている女に話しかける。
「・・・っの、!!あたしがどんな思いであのこを殺したと思ってるの!!」
「なんにも思ってないよ」
「な・・・・」
容疑者が絶句する。
動くことを忘れたかのように、先程の抵抗は見る影も無い。
「聞こえなかった?だからさぁ、なんにも思ってないんだよ」
シュッとマッチを擦る音がして、咥えた紙巻煙草の先端が一瞬溶けるように赤く灯った。
「みんなカン違いしてんだよね」
グレグズンが白煙をフゥー、と吐き出す。まるで何かの遊びのように。
「ボクらが捜査するときってね、関係ないんだよね。そーゆうの」
長い人差し指と中指の間でくるくると煙草を回して遊ぶ。
女は白い顔で彼をただ漠然と視界に捉えている。
「もちろん動機なんかを探るときにはあんたが何を考えてたとかは考えるけどさ。
でもさぁ、『どんな思いで殺したか』なんて調べる必要無いんだよねェ」
ボクたちはそれ、使わないからさ。
ピッと人差し指を弾く。
女の足下に、わずかな灰とともに白く小さく転がる、紙巻煙草。
思わずそれを目で追って視線を落としていた女に、いつのまにか近づいてきていたグレグズンが囁く。
「だからさ、警察に言うことじゃないんだよ、そーゆうの。
キミの裁判を担当する予審判事にでも言いなよ。すこしは刑を軽くしてもらえるかもね」
んじゃ後よろしく。
数人の警察官たちにそう言い置いてグレグズンはその場を後にした。
アパートから出ると、護送車と・・・警視がいた。
グレグズンの姿を見ると、その警視は大袈裟に握手を求め、肩を叩き、見事な働きだったと褒め称えた。
だがその握手を交わした警視の手は彼を忌むかのようにどこか強ばっていたし、
褒め称えるその言葉の影で奇人を見るかのような目で彼を見ていた。
じゃあ来るなよ。
グレグズンは思う。
そんなに敬遠するくらいなら、いまここにこうして来て欲しくなど無い。
そんな中身の無い、意味の無いものに付き合うくらいなら。
書類の山に埋もれて仲間ウチからの小言を喰らってる方がよっぽどいい。
警視も護送車も去った後。
ヤードの異端児は殺伐とした心もちのまま、しばしその場に佇んでいた。
END
現場とヤード内とじゃ180度違うよグレさん・・・!
犯人に対しては冷ややかです。あとなんかワザとらしく片言に。
ちなみにグレの捜査の型は『聞く』です。
聞き込みとかじゃなくて、とにかく周辺に溶け込んで自然と出てくる話から情報収集、みたいな。
現場のグレと皆といるときのグレでいったら、水仙はもち皆といるときのグレが好き。
でも「アナタを逮捕しに来ました」とか笑顔で言われてみたいかも(阿呆)
ブラウザバックプリーズ!
06.07.26.SUISEN