Ivory =Side:Leblanc=
また茶色くなってしまった。
フライ返しを手にフライパンの中身を見つめて、ふぅ、と溜め息を吐いた。
どーして自分の作るものはこうも悉くアイボリーカラーに染まってしまうのか
むぅ、と一人ふくれっつらを曝して、カッ、カッ、とフライ返しでフライパンの中身を突くように掻き回す。
彩りを添えるはずだった湯剥きをしたトマトも千切りしたパプリカも、
今ではすっかり落ち着いた色合いになってしまっていて当初の目的を果たしていない。
では焦がしたのかというと、そういうわけでもない。
炒めた具材はすべてしっとりと炒め上がっており、食べる分には調度いい。
そして食べれば焦げ特有の苦味などもとくに見当たらない。
味も、悪いわけではない──それは彼も保証してくれた──ごく標準的基準の味だ。
その色合いが何故かアイボリーからブラウンという茶色トーンで形成されている、という一点を除けば。
今日こそは、と意気込んで作った夜食も結局いつもと同じに終わってしまった。
何がいけないんだろう・・・・やはり、鈍くさいのが一番の原因だろうか。
思うに、自分はとろくさくて引き際のタイミングを逃しているのだ。
その証拠に、彼の作る料理はどれも色鮮やかで美しい。
皿に茶色のグラデーションの塊となった夜食を盛り付けながら、今現在ここに居ない彼を思い浮かべた。
彼の作ってくれる料理はどれも一流シェフ並みに美味しかった。
これも修行時代の賜物かと訊けばまあそんなところかなという苦笑まじりの声が返ってきた。
味も然ることながら、彼の作るものは常に美しかった。
赤・黄・緑にオレンジ・・・炒めようが茹でようが食材の色味が失われること無く。
それゆえに白い一枚皿などに盛り付けると色がいっそう引き立って、食べるのが勿体無いくらいだった。
おまえの作るものは美味くて綺麗でいいな
素直に感想を述べると、素直に褒められることに弱いその男は柄にも無く赤面していた。
彼が不在になってから幾日経っただろう?
もとより彼の職業柄、一緒に部屋に居る時間は少なく、彼は同居と通いの間に存在している。
この間、本を買いに行って来ると出たまま帰らず、『しばらく帰れなくなった』との電報だけを寄越してきた。それっきり。
本を買いに行くついでに事件に巻き込まれるか冒険に遭遇するかしたんだろう。まったく器用な男だ。
その日から、彼のいない日どおりの食事=アイボリーカラーの食事が続いている。
キッチンのテーブルに盛り付けた皿を置いて座る。
フォークで料理をつつきながらまくまくと食べる。
自分で作ったのだから自分好みの味になっている。
だがこの色合いを見ながら食べるのもいい加減厭きてきた。
お菓子ならまだ見栄えよく作れるのに。
いやでもそもそも作る菓子も焼き菓子が多いから、結局アイボリーか・・・
早く彩りの良い料理を食べたい。
それだけなら街のレストランやカフェで満たせるだろうに。
いつだったか暫く帰ってきた彼に早速料理を所望したらそう言って苦笑されたが、
レストランやカフェは当たりハズレがある上にメニューを見ているうちに食べようという気分が萎えてくるから嫌だった。
口に食べ物を運んでいた手が止まり、いつのまにかフォークで皿の中のものを掻き混ぜるだけになっていた。
小腹は減っている。が、食べたい気はもうしない。
はーーーっと盛大に、深く大きく息を吐いた。
皿を押して遠ざけると、ベロンとテーブルの上に突っ伏した。
突っ伏した瞬間、頬にあたったひんやりとした感触が心地よく、夜という感覚も手伝って眠くなる。
このまま皿を押し退けてテーブルの上で寝てやろうか。
テーブルの上で大の大人である自分がまるくなって寝ている姿を想像する。
床には中身をぶちまけて引っくり返され割れた皿。
コンロに載せられたままの使用済みフライパン&フライ返し。
そんな状況のときに彼が帰ってきたら、何があったと思うだろう。
目を閉じてそんなことを夢想していたら気分が良くなってきたので、本気で実行してみようか、と思っていたら。
「ただいま」
誰かが首にするりと腕を回して背後から覆いかぶさるように抱きついてきた。
いや、ただいまと言ったのだから、それが誰なのかは分かっていたけれど。
END
初・同居ネタ。(初・・・だよなぁ?)
LLには通い婚のイメージがずっとあったので、でも何を思ったか同居設定してみた。
したらルブさんがずっと乙女になった。(爆)
炒め物すると何故か全部茶色一色で統一されてしまうのは管理人の日常です。(哀)
ブラウザバックプリーズ!
06.07.23.SUISEN