=友人と呼ぶにはあまりにも酷く、悪党と罵るにはあまりにも痛く。(BB)=

 

 何が名声だ

 何が昇進の機会だ

 

 一方的に与えておきながら、本当に欲しいものは何一つ与えてくれない。

 

 

 隣の家の厩舎でアレに一杯食わされたのだと知ったベシューは、館に戻ることも無くその場で肩膝を抱えて座り込んだ。

 そういえば厩舎の扉を叩き壊しているときに車が出て行く音が聞こえた気がする。

 本来ならばすぐに国境に手配をしなくてはならないのだろうが、そんなことをしても無駄だろうとベシューは思った。

 アレのことだ・・・ヴァン・フーベンを足にして、もうずっと遠くへ行ってしまったに違いない。

 もうずっと遠く──ずっとずっと、手の届かないところへ。

 

 肩でしていた呼吸が落ち着いてくる。

 苛々させられ、血の上った頭が冷えてくる。

 それと同時に、今度は腹の底で何かが煮えたぎり始めるのをベシューは感じた。

「・・・・ンのッ!!」

 込み上げる激情を抑えようと震えた手が髪を掻き毟る。

「卑劣漢ッ!鬼畜ッ!詐欺師ッ!」

 汚い単語が次から次へと溢れ出す。つまりそれだけの男なんだと、ベシューは思った。

「コソ泥ッ!極悪ッ!非道ッ!」

 本人が居たら聞かせてやりたい。その一心で。

「大悪と───」

 思おうと、していた。

 

「───・・・・ッ」

 

 アレからの進言で上がってゆく階級。

 一刑事だったベシューが自力で巡査部長になるのは、正直無理だっただろう。

 だが、ベシューの欲しかったものはそんなものなどではない。

 たとえばジム・バーネットであるのなら、ちょろまかすような真似をするよりは真っ当な探偵業をして欲しかったし、

 ジャン・デンヌリ子爵にあたっては、自分がひと目見てそれと気づいてしまうような面立ちをしていて欲しくなかった。

 そしてアルセーヌ・ルパンにおいて言うのなら、結局仇として去るつもりなら自分の前に現れることなどして欲しくなかった。

 

 ───おまえは何一つ見通せやしなかった!

 

 つい先程デンヌリが自分に向かって浴びせた罵倒が返ってくる。

 ああ、確かに事件のことで言えばそうだろう。

 お前に呼子をすり返られていたことも、抜け道があるなどというハッタリも。

 だけど何一つ見抜けなかったということだけを言うのなら、それはお前もおんなじだ。

 お前も、俺が何を思ってあんなにもお前を捕まえようと躍起になっていたのかなんて、知らないだろう?

 

 お前の手柄を与えられることも

 そこから得る名声も

 昇進も

 

 お前が俺に与えてくれたものがどれひとつとして、俺の欲しいものじゃなかっただなんて、お前は知らないだろう?

 

 今度会ったら言ってやろうか

 今日お前が俺にしたように、面と向かって浴びせかけてやろうか。

 俺が、俺が本当に欲しいのはな、

 

 

 お前と出会う前の俺だよ、バーネット。

 

 

 目に涙が滲むのを耐えて、ベシューは厩舎でへたばってる部下に罵声を浴びせた。

 

 

 END

 *『謎の家』その後。
 ベシューとルパン。その話ごとに彼らの関係性はコロコロ変わってます。
 懐かしみ再会を喜んだり、憎々しげに罵倒しあったり、利用したり捕まえようとしたり。
 互いの立場上、素直に『友人』とは呼べない、呼ばない二人です。

 ブラウザバックプリーズ!

 06.03.25.SUISEN