=葬られた秘密(LL)=
こんなに滑稽な存在も無いよ
そう言って君はたまに崩れ落ちそうな弱さをこの部屋で吐露する────
怪盗なのに紳士だ
正義感なのに悪漢だ
一歩踏み違えてしまえばどちらかに転んで楽になれるだろうに
それすら恐れて結局どちらにも付けずに境を彷徨っている
嗚呼、何かの童話にあったねぇ
鳥と獣、どちらにもいい顔をして結局最後はどちらにも入れて貰えなかった蝙蝠の話。
純然たる紳士に成れない僕を知るや、それまで友人と呼んでいた紳士淑女は怯え罵り。
汚れた金の横行をまさに横から掻っ攫い、破滅へと渡し守る僕に同業者は敵意を剥き出しにする。
ねぇ、この苦しみが解かるかい?
気づけばひとりぼっちになっている、この苦しみが。
スリルと知己に富んだ冒険と引き換えに、心通う友情を、狂おしいまでに愛した恋人を、
それまで積み上げてきたものを全て捨てなくてはいけなくなるんだ
いつもいつもそうなんだ
そうして何度も失うことを嘆き悲しんでは悔やんでいるんだ
苦しんでいるんだ
それなのに時が立てば何とやら、目の前に冒険が転がり出れば何とやらさ。
同じ轍をまた踏んで通るんだ
結果は同じなのに、愚かな淡い期待と願いを抱いて。
今度こそはきっと、と・・・・・・
いつものように突然私の家にやって来ると、彼は倒れるように長椅子に身を伏した。
常と様子が違う男にどうかしたのかと尋ねる前に弱弱しい独白が始まった。
嘆きに嘆いたかと思えば持ち前の皮肉を思い切り自分に向け、自嘲する。
しかし最終的にはそれも弱く小さいものに変わり、途切れ、溜め息だけが残された。
「すまないね」
息と一緒に、苦笑いが零れた。
「君の読者の期待してる冒険談とは程遠いものを聞かせてしまって」
目が伏せられる。
ウォーターブルーを称えるその瞳の透明感は、何処から来るのだろうと見るたびに不思議に思う。
「別に。私が読者に公開する君の話は冒険談や君の功績に限られてる。
君がいま吐露した失態も、所詮私の墓下に葬り去られる秘密だ」
私はあえて苦しみも、とは言わなかった。
彼が道を踏み外してから友人となった私に、そこまで持っていけるだけの力も存在力も無いと思ったから。
「葬られるって・・・なんだか僕は君に一生涯の脅迫材料を残したような気がするよ・・・・」
肘をついて顔を起こす。
片手で髪を掻き揚げた、その顔はもう笑っていた。
「なるほど、それもいいな」
私はくるりと机に向き直る。
勘弁しておくれよモーリス
嘆いた声が本当はもう嘆いていないことを私は知っていた。
───それからまたいくつものルパンの冒険談、失敗談、功績が世に出回ったが
『私』である処の友人に咽び泣くような嘆きを聞かせることがあった───とは何処にも記されていない。
そして時は流れて大戦時。
かつて『私』が彼に言ったとおり、パリから遠く離れたパルピニャンの地でその秘密は永遠に葬り去られることとなった。
『私』があえて口にしなかった彼の「苦しみ」も葬られたかどうかは、彼らだけが知っている。
END
モーリスとルパンは常に同い年のように接せさせてますが実際はモーリスの方が十も上。
モーリスが死んだ年、ルパンがまだ存命だったのかどうかは知る由も無い。
ましてや活字の彼が、死ねるはずも無い。
彼の冒険譚がすべて燃やされこの世から消え去るか、読者に忘れ去られるかでもしない限り。
ブラウザバックプリーズ!
06.03.25.SUISEN