=見破られるこの日を、ずっとずっと待っていたのです。(ドードビル兄弟)=

 

 暗く湿った地下室に追い詰められた稀代の怪盗。

「名を馳せた怪盗らしく、潔く死ね」

 四方から銃口が向けられる。

 一瞬後には間違いなく怪盗の身体は蜂の巣になる──

 血に塗れた悪党どもは、誰もが皆そう考えていた。

 

「「残念vハズレーーー♪」」

「?!!」

 

 一気に怪盗の皮を脱ぎ捨てた白髪の青年と、自組織の幹部の皮を脱ぎ捨てたもう一人の青年のふざけた声を聞くまでは。

 

 

 何が起こったのか把握しきれない、その一瞬の隙を突いて手に手に持っていた拳銃が叩き落されていく。

 ハッとした瞬間にその視界には黒い革靴の底が迫っていて───

 顎を蹴り上げられ、歯の2、3本も吹っ飛ばして倒れれば揃いの黒のマニッシュ帽を目深に被りニィと笑った男が二人現れる。

 そこで敵方はようやく謀られていたことに気づく。

「ッ・・・・の!」

 途端に部屋の空気が上昇する。

 憤怒した男たちが、あられもなく飛び掛ってくる。

 あるいはこの奇妙なまでに容姿の一致した二人に、戦々恐々として後退る。

 二対多数だというのに微塵の不利さも感じさせず、作ったような笑みを崩さない。

 鏡合わせのように二つの影が舞うごとに、その足元には人の平原が広がっていった。

 

 パトロンは今ごろ特急の汽車でもう遠くへと移動しているのだろう

 笑みを絶やさず、手を止めず、ジャン=ドードビルは考えていた。

 なんてことはない。

 わざわざパトロンが出るまでも無く、その上次の仕事が詰まっているパトロンの代わりに自分たちが今ここに居るというだけ。

 あと数分もしたらここに居る野盗を全部のし倒して、一刑事としてこいつらを刑務所にぶち込むのだろう。

 便利だなぁ、僕らって。

 そういえば自分たちがパトロンに初めて会ったときと、この状況はちょっと似てるかもしれない。

 あのときはパトロンが捕まってて。

 僕らが見張り役で・・・・

「あっとひっとりーーー♪」

 自分と同じ声を持つジャックの声で現実に引き戻される。

 考えている間にも敵は倒し、気づけば幹部一人になってしまった。

「ひ・・・」

 ずるずると壁際まで這って逃げる。

 もちろんジャンとジャックの二人は逃がす気なんて毛頭無い。

「お、おまえら・・・それだけの実力があって・・・・なんで一怪盗の下なんかに身を置いてる・・・?」

 んーーーなんでって言われてもねぇ。

 確かに、僕らには独立して盗賊をやっていける力はあるのだけれど。

 ジャックとほぼ同時に顔を見合わせる。表情は変わらないけど。

「どうだ・・・ウチの組織に入らないか?」

 入らないかって。勧誘された僕らでもう既に壊滅状態にしちゃったんだけどー?

 これにはさすがのジャックも呆れ顔でこちらに肩を竦めて見せた。

 ふとそこで脳内に何かが鮮明に湧き上がる。

 

『助けてあげましょーか』

『あげましょーか♪』

『は?』

『『ただし、条件がありまーす♪』』

 

「いいよー入っても♪」

 突然そんなことを口にした自分に、おいおい何言ってんだ、というような顔をジャックが向けてくる。

 いや、やはり表情に表立った変化は無いのだけれど。

 そんなジャックに向かって僕はにんまり笑ってみせた。

 そしてこれで助かると安堵の顔を見せた男に向かう。

「ただし、条件がありまーす♪」

「! まーす♪」

 そう言った時点でジャックは解かったのだろう。続けて語尾を復唱した。

 

「じょ、条件・・・?」

『───条件?』

「「そうでーす♪」」

『『そうでーす♪』』

 

 

「「どっちがジャンでどっちがジャックか。当てられたら仲間に入ってあげまーす♪」」

『『どっちがジャンでどっちがジャックか。当てられたら助けてあげまーす♪』』

 

 

「ど・・・どっちが?」

 男はうろたえた。

 何せこの二人には相違点と言える違いなど何一つ見つけることが出来そうにないほど姿が一致しているのだから。

 ふふふ、ダメだね。

 惑う男を前に、ジャンとジャックはそっと目配せしあった。

「こ、こっちがジャンで、お前がジャックだ!」

 蒼褪めた顔で、震える指を指し示したがもう遅い。

 

「「残念v ハズレーーー♪」」

 

 手刀一発、男は崩れ落ちた。

 

 

『───そんなことでいいのか?』

 拘束された怪盗は拍子抜けした様子で言った。

『そんなことでいーんでーす♪答えてくださーい♪』

『くださーい♪』

 このとき兄弟はドキドキしていた。

 いままでこの質問を出されたどの人物とも、この男の反応は違ったから。

『お前がジャンで、お前がジャックだ───これでいいのか?』

 一体何なんだ

 憮然とした様子で男は兄弟二人を見やった。

『せ・・・・』

『?』

 

『『正解でーす!正解でーす!!大当たりィーーーー!!!』』

 

『・・・・・ほんとに何なんだ』

 突然ぴょんすかと喜びに跳ね出した二人を怪盗はワケが分からずぽかんとして見つめた。

 その内にその組織の首領が煩いと入ってきた。が、

『『うるさいのはおまえでーす♪』』

 ぴょんすかと跳ね回っていた勢いをそのままに、二人の跳び蹴りが首領の顔面を吹っ飛ばした。

 異変を察知した手下が駆けつけるも、その場で兄弟に拘束を解かれた怪盗も混じった三人の豪傑に敵うはずも無かった。

 三人はそのまま駆け抜けるようにその場を後にした。

 

 

「懐かしいねぇ」

「ねー、そんなこともあったねー」

 ルパンの部下から今度は一刑事の作業へと移った二人はやはりニコニコと笑っている。

「あの後あのまんま、パトロンについちゃったんだよねー」

「他に行くトコ無かったしねー」

「パトロン呆れてたねー」

「ねー♪」

 

 助けてくれるという行為を、やるにしてもパトロンはもうちょっと穏やかにやるだろうと思っていたらしい。

 まさか自組織を完全に敵に回すようなやり口で行くとは。(なんと言っても首領の顔面を吹っ飛ばした☆)

 お前たちの身まで危なくなったじゃないかと何故かその場で怒られた。

 だが兄弟二人にとってそれは日常茶飯事のことだった。

 それまでにも様々な組織を渡り歩いて来たが、最終的に裏切る理由は怪盗にも出したあの問いだった。

 どの組織でも優秀な二人は入ればたちまち幹部級になった。

 そして首領と接せられるようになると決まってこう尋ねた。

 

 どっちがジャンでどっちがジャックか、分かりますか───と

 

 大概の首領はその問いに答えられず、あるいは答える前に必ず躊躇した。

 答えられようともその前に躊躇した時点で分からないと言っているようなもの。

 二人がその組織に仕えるのはその時点で終わり、その終日には組織が一つ裏社会から消えているのだった。

『お前たちか・・・最近噂の二人組は』

 呆れ顔で見られても自覚の無い兄弟はただ首を傾げるばかり。

『まあいい・・・ジャンにジャックだったな。付いて来い』

 クイ、と人差し指で招かれて兄弟は受け入れられたことを知った。

 

「ねーねージャンーーー」

「なーにー?」

「もしもさーさっきの人がさ、あのときのパトロンみたいにスパッと答えられてたら、どうしてたー?」

 警察における自分たちの部下を呼んで、車に悪党どもが詰め込まれていくのを見ているとジャックがそんなことを尋ねてきた。

「んー、もしも答えられたとしても、その前にもうパトロンが先にスパッと答えちゃってるからねぇ」

 あの人には悪いけど、スパッと答えられてもついて行かなかっただろーね

 二ィ、と笑って見せるとジャックも二ィ、と笑って返した。

「うん、スパッと答えても答えられなくても、スパッと手刀一発だったね♪」

 ブン、と素振りして見せたジャックに、ジャンは顔を綻ばせて笑った。

 

 

 どっちがジャンでどっちがジャックか

 もう答えられても誰に仕えることも無いでしょう

 だってあの人が先にスッパリ答えちゃいましたから───

 

 

 

 END

 ドードビル兄弟の実力は、技量だけで言ったらパトロン以上だと思います。
 ルパンの部下には他にもそんな部下がいるといい。
 技量の上下に関わらず、パトロンに惚れちゃってるんだい!みたいな(笑)

 ブラウザバックプリーズ!

 06.04.07.SUISEN