ゆっくりと撫で上げられる下肢。
「・・・・ッ」
逃げ出したくても、暴れ出したくても。
そう出来ないのは、自分を撫で上げる手が慈しみに満ちているからだ。
「平吉?」
生まれてからこの方呼ばれることの少なかった名前で呼ばれて、うっすらと目を開ける。
潤んだ黄金目に映る、柔らかなグレイブラウンの瞳は優しかった。
や さ し い よ る に 。
宿敵であり後に幼馴染であったことも判明した明智と一緒に暮らし始めて数日。
夜も更けて休もうと横たえた私の身体を、明智の手が優しく撫ぜた。
「せ・・・センセ・・・・?」
「・・・・・・・」
不安げに自分を見上げた二十面相、いや平吉を見下ろして、明智はうーんと唸った。
「平吉」
「は・・・はい?」
「それ止めろ」
「え、・・・と、それ、とは」
「だから、それだ。敬語は止せ」
おどおどと発せられる言葉は二十面相時と同じ敬語ないし丁寧語。
それに明智は距離感を覚えて気に入らないらしい。
「『先生』も止せ。人前ではともかく、二人のときは普通でいい。」
「普通・・・と言われまし・・・言われても」
何と呼んだらいいのか。二十面相には見当がつかない。
「昔呼んでたとおりに呼べばいいだろう」
「昔呼んでたとおりって・・・」
・・・・・ごろーちゃん?
当時まだ小さくて小五郎という彼の名をきちんと発音できなかった自分は呼びやすい部分だけを取ってそう呼んでいた。
でももう二人ともいい大人なんですが先生。
戸惑う二十面相を差し置いて、明智はそれでいいと締めくくった。
「ほら、平吉」
「・・・・・ごろーちゃ・・・」
やっぱり恥ずかしい。むしろ言わなくてはならない自分が恥ずかしい。
せめて明智で勘弁して欲しい。
かあっと顔を朱に染めると、その朱に染まった頬を優しく撫でられた。
その瞬間に背中にゾクリと走る感覚を思い出す。
ああ、そうだった。
明智が自分を抱こうとしている事実を改めて感じ取って、二十面相は知らず震えていた。
入れて出して吐き出して。
訳も分からず揺さぶられて、下肢がドロドロになったと思ったら放り出されてそれでお終い。
下腹部はいつもズキズキと痛く、いったいこんな行為の何がいいのかとんと分からなかった。
サーカス時代に荒くれた男どもに植え付けられた、厭な思い出、厭な恐怖。
「・・・・・ッ」
「平吉、恐いのか?」
カタカタと小さく震える自分を心配そうに見下ろしてくるグレイブラウンの瞳。
彼が自分を傷つけるわけがないと思っても、記憶の中の痛みと恐怖だけが先走る。
そんなことない、大丈夫だと彼に伝えたいのに。
唇は震えて、うまく言葉を紡げない。
不意に彼が自分と同じに身を横たえ、私の身体を引き寄せて抱きしめた。
人肌の温かさに、知らず縋りつく。
彼の寝間着に、強く皺を作る。
優しい声が、耳元で響く。
「平吉。大丈夫だ」
だいじょうぶ?ほんとうに?
「ああ」
痛くない?怖くない?
「痛くもしないし怖くもしない。というか、いつ俺がお前を怖い目に遭わせた」
むっとした表情に、ふるふると首を振る。
ほろりと頬を伝った涙を、優しい指がそっと拭い去った。
「ンッ、ふ・・・っ」
身体をなぞられていく感覚に、脳髄がジンと痺れる感じがした。
サーカス時代や裏社会で体験したそれとは明らかに違う感覚に、いまこんなことでこれから先どうなってしまうのだろうと不安になる。
衣服を取り払われて、ひんやりとした空気が肌に触れて粟立つ。
その肌の上に口づけられて、ふるっと体が震えた。
不意にただ身体をなぞるだけだった唇が、急に舌を出してべろりと胸の突起を舐めた。
「ひゃ!あ?!」
ビクッと一瞬上半身が浮き上がるがやんわりと押し戻された。胸の突起を遊ぶ舌は止まらない。
「う・・・」
ザワリとした感触にぎゅっと目を閉じる。
「ん、や・・・」
次第に舌だけだったのが指まで加わり、両方の突起を弄り始めた。
気まぐれに指が引っかいては弾いていく。
「っふ、うぅうん・・・・ッ」
そこから広がる、じんわりとした甘い痺れ。さっきよりずっと明確に体中に走る。
うう・・・腰が砕けるかも・・・。
どうにかしてこの甘い疼きをやりすごそうと身体を捻る。
「こら。逃げるな」
「んッ、あ?!あ、や・・・ッ・・・!」
突然自身に触れられて、ビクリと体が反り返る。
その手から逃れようともがこうとするが、明智の身体が体重をかけて圧し掛かりそれを制する。
手がゆっくりと、しかし狡猾に動く。
「あッ、あけちッ・・・ひあ!」
圧し掛かってきた明智を退けようと懸命にもがいたが所詮力では彼に敵わない。
与えられる刺激に飛び跳ねて、思わず目の前の身体に腕を回してしがみつく。
初めて感じる、甘い痺れ。溺れそうになる快楽。
「ふっ、う、う!」
「どうした?」
喉元からゆっくり舌で舐め上げながら明智が訊いてくる。
「こ・・・こんなのダメだ・・・っ」
「?」
下肢をまさぐっていた明智の手が止まる。そこで一呼吸大きく息を吸う。
「こんな・・・こんなの・・・・・」
こんな優しく、されたことなんかないのに。
このままいってしまったら、きっともう戻れない。
心無い男たちの夜の相手をさせられた日々。
身を護る為、隙を生み出す為。
交渉の手段として用いていた日々。
このままなすがまま施されてしまったら。
そんなモノ
粉々に崩れ去ってしまうに違いない。
「戻る必要があるか」
この際徹底的に破壊してしまえ、そんなもの。
そんな信じられないことをあっさりと言ってのけ、再び明智の手が自分のものを扱き出した。
「あ!ヤメッ・・・!いやッ・・・だ、って!」
「もうそんなことをする必要は無い。そんなこと、俺が許さない」
泣き叫ぶような甘さを伴った悲鳴に、明智の声が言い聞かせるように耳元で響く。
「ああッ、ひゃあ・・・!んあ・・・・!」
一言一言発する度に強い刺激を与えられ、異議を唱えることなど到底許されはしない。
「言ったはずだ」
「はあん・・・!あッ、あ!」
「お前は俺が護る」
「は、ああああああ!」
耐え切れずに吐き出した熱が、明智の手と自分の腹を汚した。
荒く呼吸を繰り返す中、明智の言葉がようやく脳に届いて行為の証とはまた別に涙が滲む。
「大丈夫か?平吉・・・・、ッ・・・」
「?」
顔を上げた明智と目が合うと、何故か彼は目を瞠った。
上がった呼吸を整えながら、首を傾げる。
「・・・おまえ、その顔は反則だろう・・・・・」
「え・・・?、ッ?!ふ、あああ?!!」
つぷりと指が侵入してきて、一気に内壁を引っかくように掻き回された。
突然の思わぬ刺激に、声も身体ものけぞる。
思わず上げた抗議の声も、甘く懇願するようになってしまう。
「あ、あけちっ。はやいよう・・・・!」
急激に追い上げられる感覚に眩暈を覚える。今にも意識が飛びそうだ。
痛みで白くなりそうだったあの頃とは違う。いまはただ強すぎるまでの快楽に身悶える。
「あんな顔されて抑えられるわけないだろ・・・」
「あ・・・?ッ、ふあ、ん・・・」
あんな顔って?
どんな顔だと思いつつも、引き抜かれた指の感覚に安堵すると共に物足りなさを覚える。
しかしそんな思いは杞憂だった。
すぐにそれよりも熱く、質量のあるものが後ろに宛がわれたからだ。
これにはさすがに体が竦んだ。長年味わってきた苦痛の方が先に思い出されてしまう。
「ッ・・・・」
「大丈夫だとは思うがな。なるべく力を抜いておけ・・・行くぞ?」
「ん・・・、! はあああ───!」
侵入してきたモノの圧迫感とその熱さに頭の中が焼けそうになる。
「んンンン・・・・!!」
「ッく、締めすぎだ、平吉・・・・」
「ンあッ。だ、ってぇ」
明智が自分の中にいると思うと、泣き出したいような気持ちになってつい内を締め付けてしまう。
力を抜こうにも、体がビクビクと強張ってどうにもならない。
ヒクリと足が痙攣するように動いた。
「う───ああッ・・・?!やァ・・・っ」
明智の舌が、胸の突起を突然舐め上げた。
予測してなかった刺激に、甘い痺れが全身を駆ける。
ジンと腰が疼いて四肢から力が抜けた。
「ひィあああああああッ!!!」
途端、グイと明智の腰が推し進められて一息に奥を突き上げられた。
いままでの比でない快感が電流のように駆け抜けた。
「あッ、ヤッ、あけちッ・・・あけちッ」
いまにも律動を開始しようとする明智に必死に縋る。
「お、ねがッ・・・ちょ、待って・・・・!」
「? 平吉?」
どうしたと訊いてくる明智の息にも熱いものが混じっている。
彼もキツイだろうに、自分の呼びかけにはきちんと答えてくれる。
短く刻む呼吸の合間に、どうにか言葉を繋ぐ。
「ッ、ふ、あ・・・・ヘンに、なる・・・・」
じんわりと涙目で訴えた自分を、彼はきょとんと見返して。
それからふんわりと優しく笑うと、グッと腰を進めた。
「ンあ!あけ、ちィっ」
「別に、おかしくなったっていい」
「あああッ、で、もォッ!」
「心配するな。可愛くなってるだけだ」
ふえ?
言われたことに一瞬ぱちっと目を瞬かせたがすぐにまた激しい律動が追い上げてきて何もわからなくなる。
「はァっ、あァッ!あ、けちっ、も、」
ダメだ、と懇願して。
「・・・ッ、平吉ッ・・・」
「あああああ────ッ」
それに答えるように、二人一緒に果てた。
薄明るくなってきた室内で、平吉はぼんやりと目を覚ました。
目を覚ます度にここが何処だか、どうしてここにいるのか分からなくて一瞬時が止まってしまう。
けれども次の瞬間にはほんのりと香るエジプト煙草の匂いと温かい腕がそれを教えてくれた。
「ん・・・・」
もぞっと身じろぐと上から起きたのかという囁くような声が降ってきた。
まだ少し重い瞼を上げると同時に大きな手が頬を撫ぜた。
「ごろーちゃ・・・?」
夢うつつに呟いて身体を起こそうとするとやんわりとそれを制された。
「まだ起きるには早い。もう少し寝てろ・・・どこか、具合悪いところ無いか?」
「うんん・・・・?」
言われて自分の身体に意識を集中するが、腰が重だるくて眠いくらいでとくに変わったところは無い。
腰・・・・?
「!!」
明智との昨夜の行為を思い出して、一気に顔が熱くなった。きっといまの自分は真っ赤になっているに違いない。
「どうした?」
熱でも出てきたかと心配げに顔を寄せてきたかと思うと、コツンと明智の額が自分のそれに宛てられた。
明智のグレイブラウンの目が近い。
「な・・・ない!熱はないよ!!」
「そうか?」
でもやっぱり少し熱いようなんだが・・・
そう言う明智からバッと離れる。そこでようやく自分が裸で、明智も上半身が裸なのを知る。
引き締まった体躯に、全然違うことだと思いながらも見惚れてしまう。また顔が熱くなった気がした。
「こら、そんないきなり動いたら・・・」
「う・・・・」
腰に鈍い痛みのようなものを覚えて、へろへろと前に倒れこむ。明智の腕が、それを支えた。
「あれ・・・?」
そこでふと腹部の感覚が、いままで味わってきた事後より全然楽だということに気がついた。
いままでだったら、目が覚めると中に吐き出されたものが下る感覚が気持ち悪くて、自分でどうにかするのも大変だった。
けれども今朝はそれがない。
「・・・・・・?」
腹に手を当てて首を傾げていると、明智が顔を覗き込んできた。
「どうした?腹が痛いか?一応、始末はしたつもりだったが・・・・」
「始末?何の?」
「何のって・・・・それはお前」
後始末だよ。やっておかないと、おまえが辛いだろう。
ええと。停止しそうになる頭を必死に回す。
それは詰まるところいつも自分がやっていたことを明智がやってくれたというわけで。
だから・・・その、つまり。
下腹部が辛くもなければ下肢がドロドロになっていないのも、体がちっともベタついてないのも。
明智が、全部お世話してくれたということになるわけで。
「・・・・・・・・!!!!」
平吉はもういろんな感情が混ざり過ぎて、恥ずかしいのか嬉しいのかも分からず、ばふっと布団の中に潜り込んだ。
「おーい。平吉?」
何をそんなに恥ずかしがってるんだ。というか、お前熱は大丈夫か。
身体を繋げてしまった後で事後処理なんて今更だろうと、明智は呆れながら毛布の山を叩いた。
「こら、平吉。顔を出せ。言っとくが事後処理なんて、するのは当たり前なんだからな?」
「ううううう・・・本当?」
顔を真っ赤にして、平吉が半分顔を覗かせる。
「だって・・・そんなの一度もして貰ったことない・・・・」
あああああ恥ずかしい。そう言ってはまた布団の中に顔を埋める。純和風な日本髪の間から、真っ赤に染まった耳が見えた。
「それはそういう奴らにしか抱かれて来なかったからだろう」
ほらきちんと横になってろと乱れた毛布を掛けなおすと、平吉はうううと言いながらも素直に従った。
「やれやれ・・・お前のせいで今朝は遅くなりそうだ。さっさと寝なおすぞ」
明智があくびを噛み殺す。なかなか寝付かぬ子をあやすように、トントンと毛布の上から平吉の身体を叩いた。
「ん・・・ごめ・・・・」
あやされて急に眠気が襲ってきたのか、すぐに平吉の目がとろんとなった。もそもそと寝の体勢を整える。
「おまえはいろんなことを知らなさ過ぎだ。さっさとこの当たり前に慣れろ」
朝、目が覚めて何の警戒も無く起きることや。
人に愛される夜とその夜が明けた朝がこんなにも優しいこと。
これが当たり前で、お前の過ごしてきた夜は異例中の異例なのだということを教えてやりたい。
「・・・・・眠ったか」
穏やかな呼吸を繰り返し始めた腕の中の恋人の額にかかった髪を掻き揚げると、明智はやわらかくひとつキスを落とした。
「これが始まりなんだ」
覚悟しろよ?
安らかな惰眠を貪る平吉に向かって、明智は微笑を浮かべた。
やさしい夜は明けて。
それに続く、優しい朝がやってくる。
一人ではなく、二人の朝に。
END
なんかもう同棲の方向で動いてますが何か。何か!(爆)
というかこれの前に書かなくちゃならない話が2、3あるんですが。
でもなんか20どんどんアホ可愛いしもう何でもいいやって感じです。(放 棄)
何がどうなって同棲に繋がるのかはそのうち書きますたぶん。
しかし脳内の20の可愛さを文章で具現化するのってホント難しいと思った・・・!;
ブラウザバックプリーズ!
07.12.16.TOWEL・M