ああ本当に君って人は

 不法侵入したコソ泥が僕だったから良かったものの

 僕以外のコソ泥が不法侵入してきたら

 もしそのコソ泥にいまの状態の君を見られたりしたら

 どうするんだい?

 

 

 

 それから、浴室にて。

 

 

 

 すー・・・、と静かな寝息を立てて眠るのはこの家の主で友人のモーリス・ルブラン。

 ただ、寝ているのならばいい。

 机に突っ伏しながらとか、ソファーでとか、ベッドでとかなら、寝てたっていい。

 全然いい。

 だがしかしこの稀有な友人は

「毎回毎回よく溺れ死なずに済んでるもんだ・・・」

 コトもあろうに、浴槽で大爆睡しているのだった。

 

「・・・もしもしー。モーリスー?」

「・・・・・・(すぴー)」

 ダメだ。完全に爆睡だ。レム睡眠とノンレム睡眠を好ましい周期で繰り返している真っ最中だ。

 先に述べたようにこの男がここで己の生死をかけて眠りこけるのは今に始まったことではない。

 この浴室に限らず──どうもこの男は、『心地よい』と思った場所で寝入るクセがあるようだ。

 天気の良い日は庭の芝生の上で猫の如く丸くなって眠り(それに躓いて転びかけた)

 取り込んだ洗濯物の山からお日様の匂いがすると言ってはその中で寝こけ(ときどき洗濯物が蠢くから何かと思った)

 気がつくと人を敷布団にして爆睡していたりするのである。(お約束だが、うなされた。)

 だが、中でも多いのはやはり入浴中だ。

 温かいのが好いのか、寝入る確率が数段に高いようである。

 入浴中に寝るのはある意味自殺行為だ。

 実際それで鬼帳に名を連ねる人は結構いるのだ。

 ほぼ100%、苦もなく溺死する。

 それが心配で再三注意しているのだが。

 だが、僕が心配する理由は他にもある。

「モーリスー・・・君ねぇ・・・僕以外の泥棒が入ってきちゃったらどうするの?」

 僕以外の泥棒が、家捜しに入ってきて

 浴室で、浴槽に沈み眠る君を見つけたら。

 その大理石のように美しく、月のように青白い肌を見てしまったら。

 いかにソイツが男色じゃなかったとしても

 喉を鳴らしてくちづけのひとつやふたつ、落とさずにはいられないというものだよ。

「そういう自覚が本当に薄いよねぇ──・・・きみは。」

 眠っているモーリスの頬をそっと撫でる。

 本人はぴくりとも動かずに眠っている。

 触れられたことにも気づかずに。

 それに少しだけイライラする。何故気がつかないんだい?

 触れたのが僕じゃなかったら、いったい君はどうするつもりなんだい?

「これはひとつ、一度きちんと教えてやらないとダメかな」

 部下が見ていたら泣き出さずにはいられない不穏な火が目の奥で灯ったのを感じながら、僕は手を伸ばした。

 

 栓を抜いて、生温くなった湯を浴槽から追い出す。

 岸に打ち上がった人魚、海中の泡から生まれた真珠。

 露わになった男の肌はそういった幻想染みた表現がよく似合った。

 空になった浴槽に身を滑り込ませ、無防備なその肌に唇を這わせた。

「ん、ふぅ・・・」

 漏れ聞こえてきた啼き声にちらりと目線を上に上げるが男はまだ起きてはいない。

 この男は時折寝ているときに幼子のような声を漏らして啼くことがある。

 行為にのみ限定して啼くわけではないから、感じて上げているものでもないだろうが──

 割とタイムリーなときに啼いたりするのであながち間違いでもないのかもしれない。

「ん・・・・ぅん」

 カリ、と音を立てて胸の突起に歯を立て、水っぽい音とともに啄ばめる。

 浮き立った鎖骨を吸い、その腹を撫で、下肢の彼自身へと手を絡める。

 微弱な反応しか返してこない彼を見て、まるで自分がネクロフィリア≪屍体愛好者≫のようだと錯覚する。

 常に受動的で、常に抵抗する術に乏しい彼は、まさに屍体に次ぐ愛玩具だ。

「んんん・・・んー・・・・」

 それでも徐々に覚醒に向かってきてるのか。

 モーリスはむずがって眉を寄せ、ときに腕を宙に伸ばし彷徨わせた。

 勿論、夢遊する腕に捕まるなんてこともなく。

 その体を抱きしめて動きを抑えると同時に反り返った首筋から顎にかけてを濡れた舌でべろりと舐めた。

「ん・・・ぅぅん・・・・ふあ?」

 そこではじめて、ようやっとぼやけた夜色が顔を覗かせた。

 ちょうど僕はそのとき彼の後ろの双丘──その奥へと続く秘部へと手を伸ばしたところだった。

 具合を探るように、指を動かす。

「んあ?ふ、ん? ? 」

 まだ目の前に居る僕のことも──視界には入っているだろうが、きちんと『僕』と認識しているかどうかは疑わしい──

 自分の置かれている状況も把握できていないのだろうが、後ろから与えられる緩い刺激には起きて早々きちんと反応している。

 二度三度、僕はその周辺を指で撫でると、つぷんと指を差し入れ、動かした。

「っあ!ふっ、くあ?!!」

 まどろんでいた目が驚きに見開いて、体は与えられた刺激に顕著に反応して波打った。

 彼は咄嗟に、僕の両肩を強く掴んだ。

 と、同時に彼の内部も、彼の中心も一気に熱を帯びたように感じた。

「ふ、え、っあ・なに?なっ、あああ!」

 いまや完全に覚醒し動じるモーリスなど無視して内壁を引っ掻き回す。

「ふっ、ぅん、あっ。」

 急にこの世の感覚を知覚し出した彼は身をよじって悶え、その中心を濡らし始めた。

 

 ふと、目隠しでもしておけばよかったなと思う。

 誰に痴態を曝しているのかも分からずに泣き組み敷かれる彼を見る機会をみすみす逃したのだと思うと惜しくてならなかった。

 友人といえど悪党は悪党。

 その想像は等しく鬼畜で、残酷なのである。

 

「あっあっ、はふっ、らう、あん」

「“あん”なんて。今のは可愛かったね、モーリス。」

「は、ふ・・・」

 意地悪げに、殊更からかうように言ってみせるとモーリスの頬が朱に染まった。

 何か言いたいのか、喘いでいるのか。

 幾度となく開かれる口からはしかし言葉は発せられず熱っぽい吐息だけが漏れ出て行った。

「まったく、君ときたら。僕はあれほど君に教えたはずだよね。

 風呂なんかで寝たらどれだけ危険で、命に関わるのかってことも。」

「あ、あう、ふぅ。」

 僕はずっと彼の内部ばかりを弄っていた。

 彼の中心が先走りの蜜を零すのをじっと見つめながら。

「まして君は無用心だ。今日も案の定家の鍵をかけてなかったし、それでいて風呂で寝てると来ている。」

「ひはぁ、あああ」

 空いていた片手で彼の中心を包み込むとその突端を親指でグリグリと押してやった。

 モーリスは耐えられないかのように口元に手を持っていったが、

 その手も震えて何の役にも立たず、むしろ唾液に濡れた指がより扇情的に彼を魅せていた。

 短い喘ぎ声と吐息がバスルームに響く。

「───そんな人の忠告も聞かないような子にはお仕置が必要だろう?」

「はあああああ・・・!!」

 その言葉と同時に彼は悲鳴を上げて熱を吐き出した。

 荒い息の下、頬を紅潮させてどこかうっとりしている様は愛らしかった。

「お── しおき、って・・・?」

 はあはあと乱れる息を整え、どうにか言葉を紡いで彼が聞いてきた。

 それはそう言った僕自身もはっきりとした“お仕置”を考え付いていたわけではなかった。

 そう言われて怯える彼を観たかったというのが正直なところだろう。

 けれど彼が不安げな目でこちらを見上げて尋ねてきたときにはもう、僕の視界には『ソレ』が入ってしまっていたのだ。

 僕は洗面所に置かれていた髭剃り用のカミソリに手を伸ばした。

「らう、る?」

「モーリス。うつ伏せになって。足を開いて。」

「・・・っ」

 僕の手にしているものに、明らかに彼は怯えた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫。僕が君を傷つけるなんて在るわけ無いだろう?ね?」

 だから。さぁ。

 半ば強引にうつ伏せになるよう強要させると足を開かせ、さっきまで指で融きほぐしていた場所を親指でまさぐった。

「っ、」

 そっと押しているだけなのに、その行為すら恐怖と合いまって彼を震えさせるには充分だった。

 すっかり赤く融けたそこに、僕は先程手にしたカミソリの柄の部分を、つぷりと差し込んだ。

「ひッふッ、あ?!」

 細く硬い感触に、モーリスの腰がビクリと揺れた。

「動かないで」

「あッ、あッ」

 指一本とさして変わらないそれを根元まで差し込んで、こねくり回す。

 あるいは素早く抜き差しし、浅い部分のみに挿入を繰り返したりした。

「んああッッ、ン、んやぁ・・・」

 カミソリの柄ではいくら根元まで差し込んだとしても一番の快楽を得られる最奥までは届かない。

 出し入れを繰り返すも、質量のないそれではかえってもどかしい刺激しか得られず。

 モーリスはそのじれったさにはしたなく強い刺激を強請り、声を上げて啼いた。

「やぁああ・・・もっと、もっと・・・」

「これ以上は入らないし、全部入れるのは危ないよ。カミソリなんだし。」

「イヤッッ、もっと、もっとおっきいの・・・っ」

「もっと大きいのって?」

 後ろにいる僕をモーリスが振り仰いだのと、腹ばいになって顔を下に向けていた彼を僕が覗き込んだのは一緒だった。

「らうーるの、が・・・」

 欲しい、と。

 身をよじってまで僕にむかって手を伸ばすモーリスに、僕はにっこりと微笑んで。

「では、悦んで。」

 その手を取ると、カミソリを浴槽の外へと放り投げた。

「あ───」

 モーリスの喘ぎ声の向こう、カミソリがピーチタイルの上にカランと音を立てて転がった。

 

 

「んん───」

 もそもそもそ。

 ベッドの上で蠢く毛布の間からぴょこんと顔を出したのはモーリス。

 浴槽での行為の後ベッドに運んできてからこっち、彼は未だ惰眠を貪っている。

 ふにゅ、と間の抜けたような声を漏らした彼に忍び笑いを零してしまう。

 君って人は、ほんとうに何から何まで可愛らしい人だ。

 つんつんと指で頬をつつけば、『むぅ』と声を漏らして眉根を寄せ、また布団に潜ってしまった。

 くくくくく、と耐え切れない笑いが喉から僕の喉から漏れていく。

「!」

 そこでがばっとモーリスが毛布から顔を出して、目を覚ました。

 ───が、それも束の間。また頭からガバッと毛布を被って隠れてしまった。

「? モーリス?」

 起きたんじゃないのかい?

 モーリスの頭があるであろう部分に手を置く。

 するとモーリスはこちらを窺うようにそーっと顔を半分だけ出した。

「?」

 さっきの行為による恥ずかしさの為かとも思ったが、どうも違うらしい。

 何故か彼はしゅーんとしていて、こちらの顔色を窺っているのだ。

「モーリス?どうした??」

 そ、と手を伸ばして毛布から覗いている顔半分を優しく撫でてやると、ぽそぽそと彼が何事か呟いた。

「ん?」

 よく聞き取れなかったので、もう一度言うよう促すと。

「・・・・・もう怒ってない?」

 という、叱られた子どもがもじもじと母親に尋ねるようなセリフが返ってきた。

 僕はやられた、という気持ちで額に手を当てた。

 

 まったく───ほんとうに君って人は。

 

「君って人は・・・もう怒ってないよ。怒るわけが無いじゃないか」

「本当?」

「本当。」

 

 僕の言葉を聞くと、ホッとした様子で彼は毛布から這い出てきて、僕の胸にぽすんと納まった。

 腕を背に回してきて抱きつく格好になると、すりすりと犬か猫のように甘えてくる様が本当に愛らしかった。

 もちろん、これからは気をつけるんだよ、と釘を刺すのは忘れなかったが。

 ひとまず今は『善処します』と言った彼の言葉を信じておこう。

 

 

 

 END
 * * *
 ルパルブエロ小説。意外ときちんとしたのは置いてなかったですね。
 脳内ではずいぶん繰り広げてたような気がするんですが。恐るべし妄想。
 拍手SSの『前略、浴槽にて』の別バージョンです。怪盗、不穏な灯火を抑えきれずに強硬手段です。
 でも、これ以降もモーリスは浴槽で寝るのを止めないと思います。
 気をつけてはいるようですが、所詮モーリスですからね!(笑顔)
 それを発見した怪盗に再びいぢめられちゃってるといいよ。

 ブラウザバックプリーズ!

 06.12.15.SUISEN